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第10話 空(うつほ)なる真実

閑話休題、孤島にて Episode:31

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 これからどんな進路を選び、何を目標にどう生きるか。

 大事なことだと思う。
 だが答えるのはとても難しいし、そもそも一朝一夕で、結論が出せるようなものではない。

 考え込んでしまった私に、お母さんが問いかけた。

「思うにね、彼、怖かったんじゃないかしら?」
「タシュアが――怖がる?」

 全く想像がつかない。

 だいいち彼は、出来ないことを数えたほうが早いくらいだし、どんな事態でも冷静だ。
 そもそもタシュアが、そんなふうに感じる物があるのだろうか?

「あぁ、別に敵が怖いとか、そういう話じゃないわよ。
 そうじゃなくてね、自分が死んだ後って、責任持てないじゃない?
 なのにその時シルファ、あなたに何かあったら……って」

「あ……!」

 私の中で何かが繋がる。

 シエラ傭兵学校ということもあって、死は案外身近だ。
 同級生が、命を落とすことさえある。

 だがそんな環境でも、私は自分が死んだ後のことを、心配したことはなかった。
 タシュアに申し訳ないから、とことんまで生き延びる気ではあるが……万一そうなっても、タシュアはきっと生きていくだろう。

 けれどタシュアから見た場合、私はそうは見えなかったはずだ。

 私は独りを極端に嫌う。
 それをよく知っているタシュアには、自分が死んだ後私が自力で立てるようには、思えないだろう。
 だからあんなことをいい、私にパニックを起こさせてまで、考えさせようとしたのだ。

 なんだか可笑しくなる。

 タシュアはいつもそうなのだ。
 だからと言って何か強引に手を出すのではなく、せいぜいが助言だけで、あとは待っている。

 責めるわけでも、急かすわけでもない。ただただ、答えを出すまで待つのだ。
 そして今回も置き手紙までして、ひたすら待っているのだろう。

 ――気が長いな。

 つい、そんなことを思う。

 けれどそれは、信頼の証とも言えるだろう。
 タシュアがこうやって待つ相手は、ほとんど居ないのだから。

 いつも私の出した結論を、認めてくれたタシュア。だから今回も、認めてくれるだろう。

 出た答えは、単純だ。
 もちろん独りが嫌で、だから傍にいる部分も、ゼロとは言わない。

 だがそれは、主要な理由ではない。

「なんか、納得行ったみたいね。いい顔になった」
「はい」

 視線が合って、互いに笑顔になる。
 と、つぶやくようにお母さんが言った。

「……タシュアもほんと、一途よね」
「一途?」

 さすがに考え込む。
 常に自分が最優先で分かりやすいことを差して、「単純」と言った人は居たが……一途というのは初めてだ。
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