上 下
5 / 51
1:世話焼き飛行は損の元?!

Episode:05

しおりを挟む
「そうそう、部屋にはまだ戻らないでくださいね。汚染されている可能性がありますから」
「はいはい」

 どこか楽しそうな姪っ子に逆らわず、エルヴィラは白旗を揚げた。
 さっそく点検に行こうというのだろう、イノーラが立ち上がり、ドアのほうへ歩き出す。

「……計算してみましたがあの星間生物、斥力場がなければ十分な針路変更は不可能でしたわ」

 通り抜けざまに姪っ子が言った。

「まったく演算せずに解を得るなんて、不条理にもほどがあります」
「珍しい、あんたが褒めるなんて」
「褒めてなどいません。なんの計算もない行動は、危険だと言ってるだけです」

 本当に素直じゃない子だと、エルヴィラは思った。


 イノーラにああ言われた以上、何かするわけにもいかず、エルヴィラは操縦席に座ったまま宇宙蝶の映像を再生していた。

 自慢のジンジャーブロンドを、本当は梳かしたい。シャワーも浴びたい。
 だが姪っ子が後始末に奔走しているのでは、自分だけくつろぐことはできなかった。

 臨場感たっぷりで、全方位スクリーンに宇宙蝶の群れが大きく映し出されている。
 膜や身体の一部が光る様子は、昔読んだおとぎ話の妖精にも見えた。

(これなら、案外高く売れるかも)

 宇宙蝶は割と知られた存在だが、漂流しかけの船が出会うケースが多いためか、しっかりした記録が意外に少ないという。
 ならば恒星フレアで飛ばされるところまで映っているデータは、かなり貴重だろう。

 売り込み用の映像にどれを使おうかと考えながら、チェックを入れていく。
 宇宙蝶の群れの観測は、船自体が観測カメラと連動して、自動で継続している。
 ただ、距離が開いてしまったため、データの質は期待できなかった。

 ――この辺が潮時かもしれない。

 そう判断したエルヴィラは宇宙蝶の映像の再生を止めて、とある場所へと連絡を試みた。

 相手は、懇意にしている情報屋だ。
 一匹狼で胡散臭いところもあるのだが、その情報の速さ広さ正確さは折り紙つきだった。

 繋がらなかったら面倒だな、そんなことを思いながら応答を待つ。だが幸い、さほど待たずに相手が出た。
 瞬間、エルヴィラは目の前が真っ暗になる。
 そしてほぼ同時に響き渡る、やたらノリのいい明るい声。

「はぁいカワイコちゃん、今日はどんなご用かなー? ……ってどしたんだい?」

 声の主が心底不思議そうに言ったが、映った映像にエルヴィラが受けたダメージは、計り知れなかった。
しおりを挟む

処理中です...