「見習い魔導士の憂鬱」 異世界へ行くはずが、向こうから人がきて……?!

こっこ

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第13話 それは魔法かそれとも罠か

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「あーもうやっぱり。まったくもう、ちっとも油が落ちないじゃない!」

 かなりおかんむりだ。こういう時は自分に矛先が向かないように、そっとその場を離れるに限る。
 けど僕がその場を離れるより早く、おばさんの声が飛んだ。

「そこのキミ、桶に灰入れて、そこに水入れて持ってきて!」
「キミって……僕スタニフっていう、ちゃんとした名前が」
「いいからやって!」

 有無を言わせぬ口調に、僕は抗議を諦める。
 こういう勢いの女の人には逆らっちゃいけない、父さんもよくそう言ってたし。

 自分でも何をしてるか分からないまま、僕はカマドの灰を一掴み取って、掃除用の水桶に入れ、そこへ水を入れて、おばさんに渡す。

 おばさんは桶の中を見ながらしばらく待って、上澄みをそっとすくって皿にかけた。

「何やってるんですか、汚れちゃいますよ」
「いいのよこれで」

 何がいいのか分からない。
 だいいちこんなことをしたら、隣のズデンカさんに僕が怒られる。
 しこたま文句を言われて、ヘタしたら僕の明日のご飯が無くなるかもしれない。

 けどおばさんは自信たっぷりの顔で、例の藁束でお皿をこすり始めた。

「ん、洗剤ほどじゃないけど、さっきよりはずっと落ちるわー」
「え?」

 驚いておばさんの手元を覗き込むと、確かにお皿がピカピカになってた。
 あのしつこい油汚れが、白く濁って溶け落ちてく。

「な、なんの魔法ですか?」
「魔法? 違うわよ、ただのアルカエキ」

 言ってる事がさっぱり分からない。けどこのおばさん、そのへんにある物から、何かの魔法薬を作れるみたいだ。
 師匠がこれを聞いたら仰天するだろう。

「呪文、いつ唱えたんですか?」
「だからそんなの使ってないってば。理屈さえ分かってれば、こんなの誰でもできるわよ」

 おばさんは事も無げに言うけど、大変な話だ。

 僕の知ってる魔法は、理屈が分からないと使えないのはもちろんだけど、それ以上に適性がモノを言う。
 どんなに理屈が分かっても、魔力が無ければ使えない。
 初歩の初歩、作られた陣に魔力を込めなおす程度の作業だって、誰でもはできない。

 魔法っていうのはそういう物だ。
 魔法に適性があった僕は、その点でかなりラッキーだった。

 なのにこのおばさんがやったことは、誰でもできるっていう。魔法の常識を無視してる。

「ぼ、僕でもできますか?」
「だから誰でもできるってば。この上澄み使って、こするだけだもの。やってみる?」

 藁束とお皿を差し出される。

「これに、浸けるんですね?」

 言いながら恐る恐る、灰の入った桶に藁束を浸して、おばさんがやってたようにお皿をこすってみた。
 落ちる。汚れがどんどん落ちる。
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