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第23話 父さんの言いつけ

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「なにニヤけてるの?」
「ニヤけてませんよ。感慨にふけってるだけです」
「傍から見たら、ニヤけてるだけの怪しいヤツだけど?」

 おばさんって生き物は容赦ない。でも僕はメゲなかった。

 おばさんに理解を求めろというほうが、きっとムリなんだ。
 そういうことにすれば、僕は悲しくなんてない。

「で、どうすればいいわけ? 起こしたってことは、誰かからそういう連絡あったんでしょ?」
「え? いや、それは……」
「なんだ。役に立たないわねー」

 言い放つとおばさんは、よいしょ、と言って立ち上がって、ドアを開けた。

「どこ行くんです?」
「厨房。待ってたってしょーがないでしょ」

 言ってさっさと出て行こうとするおばさんを、僕は慌てて止めた。

「ダメですよ、勝手に歩いたら。不審者と間違われたらどうするんですか」
「うー」

 よく分からない声を出しながら口を尖らせるさまは、まるで子供みたいだ。

 ――これだけ見てたら可愛いのに。

 なのになんで、あんな破壊力のある行動ばっかりするんだろう?
 でもともかくこのおばさんをなだめないと、僕まで城から追い出されかねない。

「きっとそのうち、誰かが呼びに来ますから。それまで待ちましょうよ」
「だって喉渇いたし」
「僕もお腹は空いてますってば……」

 思い出して悲しくなった。せっかく忘れようとしてたのに。そして同時に、切ない音でお腹が鳴る。

「キミもお腹空いてるんじゃない。厨房行こうよ」
「ダメですってば……」

 止めてる自分が、さらに悲しさを誘った。
 けど、やたらと動くわけに行かない。お城って言うのはそういところだ。

 ただ幸い、そんな押し問答をしてる間に、部屋のドアがノックされた。

「ザヴィーレイ様のところの料理人の、イサ様はおいでですか?」
「あたし料理人じゃないのにー」

 ふくれっ面になったおばさんを、再度なだめる。

「そう言わないと、許可が下りなかったんですよ。しょうがないじゃないですか」
「でも腹立つ」

 背筋を冷たいものが伝った。
 こういうふうに言う女の人には気をつけろって、父さんが言ってたからだ。

 父さんが言うには、女の人って言うのは腹が立ったこととかを、ずーっといつまでも覚えてるらしい。
 そして何か事あるごとにそれを持ち出して、こっちを不利に追い込むんだとか。

「女の人は絶対怒らせるんじゃない」それが父さんの口癖だった。
 なのに僕はいま、女の人を怒らせてしまったわけで……。

 でも自分に言い聞かせる。おばさんを怒らせたのは僕じゃなくて、このお城の人たちだ。
 僕は関係ない。ぜったいに関係ない。うん、それなら大丈夫なはずだ。

 ともかくこれ以上イサさんを刺激しちゃいけない。
 そう思った僕はドアを開けた。
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