24 / 52
第24話 行きつく先は
しおりを挟む
「あの、何でしょうか?」
ドアの向こうにいたのは、僕より十くらい年上に見える、きちんとした男性だ。
きっとここの、お客を案内する係なんだろう。
本当なら僕たちなんて、ここの皿洗いと同じ扱いされても文句が言えない。
なのにこんなちゃんとした人が案内に来るなんて、やっぱり持つべきものは偉大な師だ。
その案内人が言う。
「料理長が、手が空いたので会いたいと。来られますか?」
「はいはーい」
僕が何か言うより早く、おばさんが答えた。
礼儀も何もあったもんじゃない。相手の人だって面食らってる。
こんな無礼働いて追い出されたらどうするんだ、僕がそう思って謝ろうとしたとき。
「案内してくださるかしら?」
僕の脇を悠然と歩いて前へでたおばさんが、総毛立つような声で言った。
けっして脅すような声じゃない。
むしろ柔らかくて、心地いい部類の声だ。
なのに怖い。鳥肌が立つほど怖い。
僕に背を向けてるから分からないけど、きっとにっこり微笑んでて、でもそれがとっても恐ろしい笑顔になってると思う。
案内の人もよほど怖かったのか、そのまま動けなくなってる。そこへさらにおばさんが一言。
「あら、こんな年寄りのおばさん相手じゃ、お嫌だった? ごめんなさいね」
「い、いえ、こちらでございます!」
怖い。怖すぎる。
僕が案内人の立場なら、きっと逃げ出してる。
案内人の人も度肝を抜かれたみたいで、まるで従者みたいにおばさんの案内してる。
そして当のおばさんは、平然とした感じだ。まるでどっかの貴族みたいに、お城の中を堂々と歩いてる。
もしかしたらこの人、向こうの世界じゃホントに貴族かもしれない。
――あ、でも、最初に来たとき、食材抱えてたっけ。
食材抱えて走り回る貴族なんていないだろうから、そうすると違うんだろか?
それとも、料理が趣味の貴族の奥様なんだろか?
ともかく僕が案内するんじゃなくて良かった。そう思いながら、あとを付いていく。
長い廊下を歩いて、くぐり戸をくぐって階段を降りて。大きな屋敷やお城はたいていそうだけど、ここの厨房も火事予防で、離れにあるみたいだ。
そうやってたどり着いた先は、大きなかまどが四つもある、立派な厨房だった。
「お連れしましたから、あとはお願いします」
案内人の声に、白いエプロンをした恰幅のいい人が振り返る。
「あんたかい、ジモンの言ってた、ふわふわのパンの焼き方知ってる人って言うのは。あたしゃウッラ・ペーデル、ここを預かってる者さ」
「初めまして、イサよ」
イサさんはにこやかに手を差し出したけど、僕は声が出なかった。
ドアの向こうにいたのは、僕より十くらい年上に見える、きちんとした男性だ。
きっとここの、お客を案内する係なんだろう。
本当なら僕たちなんて、ここの皿洗いと同じ扱いされても文句が言えない。
なのにこんなちゃんとした人が案内に来るなんて、やっぱり持つべきものは偉大な師だ。
その案内人が言う。
「料理長が、手が空いたので会いたいと。来られますか?」
「はいはーい」
僕が何か言うより早く、おばさんが答えた。
礼儀も何もあったもんじゃない。相手の人だって面食らってる。
こんな無礼働いて追い出されたらどうするんだ、僕がそう思って謝ろうとしたとき。
「案内してくださるかしら?」
僕の脇を悠然と歩いて前へでたおばさんが、総毛立つような声で言った。
けっして脅すような声じゃない。
むしろ柔らかくて、心地いい部類の声だ。
なのに怖い。鳥肌が立つほど怖い。
僕に背を向けてるから分からないけど、きっとにっこり微笑んでて、でもそれがとっても恐ろしい笑顔になってると思う。
案内の人もよほど怖かったのか、そのまま動けなくなってる。そこへさらにおばさんが一言。
「あら、こんな年寄りのおばさん相手じゃ、お嫌だった? ごめんなさいね」
「い、いえ、こちらでございます!」
怖い。怖すぎる。
僕が案内人の立場なら、きっと逃げ出してる。
案内人の人も度肝を抜かれたみたいで、まるで従者みたいにおばさんの案内してる。
そして当のおばさんは、平然とした感じだ。まるでどっかの貴族みたいに、お城の中を堂々と歩いてる。
もしかしたらこの人、向こうの世界じゃホントに貴族かもしれない。
――あ、でも、最初に来たとき、食材抱えてたっけ。
食材抱えて走り回る貴族なんていないだろうから、そうすると違うんだろか?
それとも、料理が趣味の貴族の奥様なんだろか?
ともかく僕が案内するんじゃなくて良かった。そう思いながら、あとを付いていく。
長い廊下を歩いて、くぐり戸をくぐって階段を降りて。大きな屋敷やお城はたいていそうだけど、ここの厨房も火事予防で、離れにあるみたいだ。
そうやってたどり着いた先は、大きなかまどが四つもある、立派な厨房だった。
「お連れしましたから、あとはお願いします」
案内人の声に、白いエプロンをした恰幅のいい人が振り返る。
「あんたかい、ジモンの言ってた、ふわふわのパンの焼き方知ってる人って言うのは。あたしゃウッラ・ペーデル、ここを預かってる者さ」
「初めまして、イサよ」
イサさんはにこやかに手を差し出したけど、僕は声が出なかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる