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第29話 あの人に会いに
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城への滞在は、意外にも一泊じゃ終わらなかった。
パン作りが終わったから、すぐお城を追い出されるんだろうと思ってたのに、厨房おばさんが「一度自分で作るから、立ち会ってくれ」って言い出したのだ。
でもその日はもう時間が取れなくて、翌日って話になった。
ところが明けた翌日は、急なお客が来ることになったとかで、厨房おばさんは晩餐の用意でてんてこ舞い。
とてもパン作りなんてやってる暇がなくて、さらに日にちが延びた。
僕としては万々歳だ。城にいればいるだけ、姫さまに会える確率は上がる。
もしかしたら、仲良くなれるかもしれない。
別にこれは、楽観してるとかじゃない。
あの厨房おばさんが言うには、姫さまはふわふわのパンを、とても気に入ったんだそうだ。
だから長くいれば、姫さまがイサさんに「会ってみよう」って思うかもしれない。
そうすれば僕だって、魔導師ザヴィーレイの弟子ってことで……。
「またニヤけてる」
「に、にやけてなんていません!」
思わず言い返す。僕は真剣に考えてたんだから、にやけてるなんてあり得ない。
なのにおばさんは肩をすくめると、ちょっと鼻で笑った。
――なんか、悔しい。
でも言葉を飲み込む。おばさんって種族に、僕の高尚な気持ちが分かるわけがない。
当のおばさんのほうは、けっこう忙しくしてた。城の中が気に入ったらしくて、あちこち見て回ったり、厨房に出入りしたりしてる。
しかも必ず僕を連れて歩くから、休まるヒマが無い。
せっかく師匠から離れたっていうのに、休養だなんてとても言えない状態だ。
ただ幸い、イサさんはそんなに丈夫じゃないから、長時間は出歩かない。ある程度歩き回ると疲れて、部屋に戻って休んでる。
その間はとうぜん僕も休めるわけで、それがせめてもの救いだった。
ちなみにこのおばさん、案外物知りだ。
何人増えたら材料がどのくらい増えるかとか、奇妙な文字を使ってたちまち計算する。
他にも泥水を綺麗な水にしてしまったり、魔法の素材と組み合わせて食料保存庫――なんと中が冷たくなる――まで作ってしまった。
そのせいかお城中の人たちが今は僕らを知ってて、たいていの場所はお咎めなしで入れる。
「今日はどっか行くんですか?」
「そうねぇ。貯蔵庫でも見られたらいいんだけど」
「そこはさすがに、ムリだと思いますよ」
おばさんはこの間から切望してるけど、貯蔵庫って言ったら高価な食材もあるし、備蓄量から篭城できる期間も分かる。
だからたいてい、部外者は入れない。
それを言うと、おばさんがふくれ面――この人ホントに子持ちなんだろか――をした。
パン作りが終わったから、すぐお城を追い出されるんだろうと思ってたのに、厨房おばさんが「一度自分で作るから、立ち会ってくれ」って言い出したのだ。
でもその日はもう時間が取れなくて、翌日って話になった。
ところが明けた翌日は、急なお客が来ることになったとかで、厨房おばさんは晩餐の用意でてんてこ舞い。
とてもパン作りなんてやってる暇がなくて、さらに日にちが延びた。
僕としては万々歳だ。城にいればいるだけ、姫さまに会える確率は上がる。
もしかしたら、仲良くなれるかもしれない。
別にこれは、楽観してるとかじゃない。
あの厨房おばさんが言うには、姫さまはふわふわのパンを、とても気に入ったんだそうだ。
だから長くいれば、姫さまがイサさんに「会ってみよう」って思うかもしれない。
そうすれば僕だって、魔導師ザヴィーレイの弟子ってことで……。
「またニヤけてる」
「に、にやけてなんていません!」
思わず言い返す。僕は真剣に考えてたんだから、にやけてるなんてあり得ない。
なのにおばさんは肩をすくめると、ちょっと鼻で笑った。
――なんか、悔しい。
でも言葉を飲み込む。おばさんって種族に、僕の高尚な気持ちが分かるわけがない。
当のおばさんのほうは、けっこう忙しくしてた。城の中が気に入ったらしくて、あちこち見て回ったり、厨房に出入りしたりしてる。
しかも必ず僕を連れて歩くから、休まるヒマが無い。
せっかく師匠から離れたっていうのに、休養だなんてとても言えない状態だ。
ただ幸い、イサさんはそんなに丈夫じゃないから、長時間は出歩かない。ある程度歩き回ると疲れて、部屋に戻って休んでる。
その間はとうぜん僕も休めるわけで、それがせめてもの救いだった。
ちなみにこのおばさん、案外物知りだ。
何人増えたら材料がどのくらい増えるかとか、奇妙な文字を使ってたちまち計算する。
他にも泥水を綺麗な水にしてしまったり、魔法の素材と組み合わせて食料保存庫――なんと中が冷たくなる――まで作ってしまった。
そのせいかお城中の人たちが今は僕らを知ってて、たいていの場所はお咎めなしで入れる。
「今日はどっか行くんですか?」
「そうねぇ。貯蔵庫でも見られたらいいんだけど」
「そこはさすがに、ムリだと思いますよ」
おばさんはこの間から切望してるけど、貯蔵庫って言ったら高価な食材もあるし、備蓄量から篭城できる期間も分かる。
だからたいてい、部外者は入れない。
それを言うと、おばさんがふくれ面――この人ホントに子持ちなんだろか――をした。
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