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第31話 扉の向こう側

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 幸い今度は魔法のおかげか、考えてることを見抜かれずにすんだ。
 これからはこの方法を使えば、大丈夫そうだ。

 そうやって用心しながら延々と歩いて階段を昇って、おばさんが息が切れてきたころ、やっと大きな扉が見えてきた。

 ただ大きいって言っても、大広間ほどじゃない。
 僕が手を広げたよりは広いくらいの、両開きの扉だ。

 花や鳥の装飾が繊細な感じで施されてるから、きっとここが姫さまの部屋なんだろう。
 案の定、案内人が立ち止まって、ノックしながら声をかける。

「姫、お連れしました」
「お通ししなさい」

 澄んだ声が扉の向こうから聞こえる。きっと姫さまだ。

 扉が音を立てないように開けられて、部屋の中が視界に入る。
 今まで見たこともないような、豪華な、でも繊細さも兼ね合わせたタペストリーや細工物で飾られた、素晴らしい部屋だ。姫さまに似合いすぎてる。

 その奥の長椅子に、姫さまは優雅に座ってた。

 栗色の髪に緑翠の瞳。綺麗な濃緑の、裾がゆったりと膨らんだドレス。耳には耳飾り、胸には胸飾り。手指は白くて細くて、花瓶を持ったくらいでも折れちゃいそうだ。

 ――やっぱりこうじゃなくちゃ。

 おばさんたちと姫さまはぜったいに別種だ。というか、おばさんと姫さまをいっしょに考えること自体が冒涜だ。

「ようこそいらっしゃいました。領主の娘、レツィエと申します」
「僕は――」
「イサよ。異国の出で、こっちのしきたりには疎いから、何かあってもご容赦ね」

 口を開きかけた僕より先に、はっきりした通る声でおばさんが答えた。おかげで、僕の声がかき消される。

 やっぱりおばさんって生き物は人類の敵だ。こうやってさらっと先手を打って、自分にいいポジションを確保して、他人がどうなろうとそれは気にしないんだから。
 そのせいで、僕は姫さまに話しかける機会を失ってしまった。

 けどおばさんが、そんな僕の気持を思いやってくれるワケもない。

「で、早速だけど、何の御用かしら? あたしみたいのをわざわざ呼ぶんだから、何かワケありだと思うんだけど」
「はい。でもその前にまず、お座りくださいな」

 椅子が勧められて、僕らは腰をかける。
 ずーっと立ってることになったらどうしようと思ったけど、さすが姫さまだ。おばさんなんかと違って、とっても気が利く。

「何か飲み物は要りまして?」
「お茶があったら嬉しいわ」

 ドキドキしてる僕と違って、おばさんは遠慮なしだ。
 まぁおばさんって種族には、姫さまの素晴らしさなんて分かるわけもないから、仕方ないんだろう。
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