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第34話 王様と魔法の箱

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「お連れしました」
「ここへ通せ」

 仰々しくドアが開けられて、部屋の中が露わになる。
 奥にはこの間の姫さまと同じように、長椅子に掛けた中年男性がいた。

 けど「おじさん」とはなんだか言い難い。
 中肉中背に茶色の瞳。姫さまによく似た栗色の髪は目立つほどの白髪もなくて、貴族のぼっちゃん、という感じだ。

 街中でばったり会って、この人がここの領主だって言われても、信じる人のほうが少ないだろう。
 そのくらい威厳がない。

 ――たしかに人はよさそうなんだけど。

 見るからに騙すよりは騙されるほうで、世の中に自分からむしり取ろうって人なんかいるわけない、そう思ってる感じだった。
 姫さまが心配になるのも分かる。

 というか、娘に心配される領主って、ホントに大丈夫なんだろか?
 まぁダメだから、心配されてるんだろうけど……。

「そなたがイサか?」
「はい。異国の出身なので、しきたりを知らないのはご容赦くださいね」

 またさらっとおばさんが、嘘じゃないけどホントでもないことを言う。

「異国か。遠いのか?
 そなたが作った保冷箱を見たぞ。面白い造りだった。あれがそなたの国では、当たり前にあるのか?」

「ええ、似たようなものがありますよ」

 なんで案外簡単に会えることになったのか、僕はやっと理解した。

 この人、子供みたいな見かけどおり、好奇心旺盛で新しい物好きみたいだ。
 だからおばさんの破天荒さを聞いて、惹かれたんだろう。

 ぜったいやめといたほうがいいと、僕は思うけど、とてもここで口には出せない。出したら僕の命が危ない。

「他にはどんなものがあるのだ?」

「そうですねぇ……燃える油で走る、馬のない馬車とか。似たような油で飛ぶ、人が乗れる鉄の鳥とか。船はこちらにもあるでしょうけど、あっちじゃやっぱりだいたい鋼鉄で、小さくても家くらいはありますね」

「すごい! そんな国があるのか! それはどこだ?」

「遠いです。人の行ける場所じゃありません」

「だが、そなたは来てるだろう」

「偶然、世界の挟間を通って、ここに来てしまったんです。しばらくしたら帰りますよ。
 ――あ、領主様、このことは御内密に」

 詐欺師だ。やっぱりおばさんって生き物は詐欺師だ。
 どうしてこう次から次へと、口から嘘スレスレのことが出てくるんだろう?

 領主様のほうはなぜかここへきて、ぽかんと口を開けた。

「なぜ内密にするのだ? そんなに素晴らしい話、皆に教えたほうがいいではないか」

 うわぁ、と思う。

 本当にこの領主様、信じられないほど人がいいんだ。
 というかなんで、こんな人が領主やってて大丈夫なんだろう?

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