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第48話 女性陣の夜

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 ふと見ると、そこの椅子に座ってたはずのイサさんがいない。

 慌てて見回すと広間の向こう、姫さまはじめ、女性陣が集まってる中に紛れてた。
 おばさんって種族は総じて飽きっぽいうえに気まぐれだから、面白そうなとこへ移動しちゃったんだろう。

 ――騒動起こしかねないのに。

 この会場には姫さまもいる。おばさんが何か起こしたら、姫さまに迷惑だ。
 急いで僕は、イサさんのそばに移動した。

「あ、キミ、終わったの?」

 いつもみたいにお構いなしで、おばさんが僕に話しかけてきた。

「あら、こちらがお話に出てた魔導師さん?」
「まぁ、お若いのね」

 女性陣が口々に言う。

 うん、この貴婦人がたは、ちゃんと分かってる。魔導師の素質がある僕は、こういう扱いをうける程度には貴重なんだ。
 なのに、おばさんって種族ときたら……。

 そしてもちろん、話は聞いてない。

「いまね、みんなに話聞いてたのよ」

 前置きもなく、イサさんが僕に言う。

「何の話です?」
「この国の話」

 相変わらず支離滅裂なうえに、内容が脈絡のないところへ飛びまくりだ。

「意味が分からないんですけど」
「もう。魔導師って言うのに、なんで人の考えが分かんないの?」

 イサさん、無茶苦茶だ。

 けど指摘はしない。
 女の人に間違いを指摘すると、ずーっと根に持つって、父さんが言ってた。

 そしてその言葉通り母さんや近所の人は、夫婦喧嘩のたびに「あなただってあんな些細なことを、とんでもないことみたいに指摘したじゃないか」と、反論を封じ込めてた。

 おばさんに弱みを握られるなんて、ぜったいにイヤだ。だから言わない。代わりに違うことを言う。

「すみません」

 情けない。
 見習いとは言え魔導師の僕が、なんでおばさんに頭下げてるんだろう?

 でも父さんがいつも言ってたとおり、頭を下げるのはタダだ。
 タダでおばさんの敵に回らずにすんで、しかも情報が手に入るなら、これ以上いい話はない。だから下げる。

 だいぶ虚しいけど。

 おばさんは父さんの教えどおり、気が済んだみたいだった。

「しょうがないわねー。実はね」

 そう言いながら話しだす。僕の思惑通りだ。けどおばさんの話は、頭を下げるほどの内容じゃなかった。

「みんなでたまに、集まりましょ、って話してたの」

 貴婦人がたが一斉にうなずく。
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