上 下
51 / 52

第51話 チュウニな人?

しおりを挟む
「あの人、そういう人に見えないわよ。全財産はたくどころか、あの世まで抱えてくタイプじゃない?」
「そうですねぇ……」

 小者なのに出世欲抜群な人が、たしかに何か研究してもらうようには思えなかった。

 病気を抱えてて、それを治したくてってことも、考えられなくはない。
 でも見た目、すっごく元気そうだし。

 何よりそれなら僕みたいな見習いじゃなく、師匠レベルを雇うだろう。
 じゃなきゃ完璧にお金の無駄になることくらい、誰だって知ってる。悔しいけど。

「魔導師って宝石みたいに、持ってると何かいいことあるわけ?」
「人を石扱いしないでください」

 ほんとにおばさんっていうのは、他人を人として扱うのが苦手らしい。
 父さんが言ってたように、犬に吠えられたくらいに思ってないと、こっちの心が折れそうだ。

 でも黙ってると何言われるかわかんないから、きちんと説明する。

「魔導師が配下にいれば、たしかに箔というか……ハッタリは効きますよ。奥の手がある、って、相手に思わせられますから」

 実は、別に大したことはできないけど。

 魔法はまずは下準備。
 だからとっさに何かっていうのは、けっこう苦手だ。
 それが分かってるから僕だってああやって、イザってときに備えて魔力込めた玉を持ってたんだし。

 でも知らない人が見たら、いきなり使ったように見えるから、効果は抜群だ。
 人前ではともかく意表をつけ、そのためにしっかり準備しろ、そうすれば女の人にやられっぱなしにならずにすむ、父さんの言ってたとおりだ。

 とはいえ、出会い頭に何かできるわけじゃないのは、まったく変わらないわけで。

「じゃぁ、それ知ってる相手なら意味ないわね」
「ないですね」
「会計役は知ってるの?」
「さぁ……」

 その辺はさすがに、当の会計役に訊いてみないとわからない。訊いても教えてくれないだろうけど。
 ただたしかなのは、たとえいま知らなくても魔導師と関わってたら、必ず「魔法は即応は苦手」を知るっていうことだ。

「それって、やっぱり意味ないと思うわよ。ハッタリ効かそうにも、効かせられないってことだもの。まぁ知らないから魔法に夢見てるチュウニな病が治らない、可哀想な人なのかもしれないけど」

「なんですかその病」
「んー、ヒーローになる夢ばっかり見えてて、現実は見えない病気かな」

 話を聞いて、そういう人ならよくいる、と思ってしまった。
 ここの領主様だって、ある意味そのチュウニな病気? と思うし。

 そんな話をしてたら、例の案内人が迎えに来た。
 姫さまのお茶会に行く時間らしい。
しおりを挟む

処理中です...