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グウェンとネフィスは南西の森に身を隠し、ヴェロールが放棄した砦で休息を取っていた。
本当なら少しでも距離を稼ぎたいところだが、ヴェロールとの戦いでの疲労が予想以上に大きかったのだ。
二人は焚き火の側で腰を下ろし、色々と話し込んでいる。
ネフィス
「ダンナ。いくつか質問していいッスか?」
グウェン
「……何だ?」
ネフィス
「ダンナは一体〝どっちの側〟なんッスか?」
グウェン
「…………」
ネフィス
「それに狼人族って、もっとこうゴツいイメージがあるんッスけど……。ダンナの体はあくまで人並みって言うか……」
グウェンは元魔王軍の最高幹部でありながら、各地で魔王軍の残党を狩っている。
そして〝本物〟の狼人族は、彼女の言う通りホブゴブリンと同じく人間の成人男性より体が一回り大きいのだ。
グウェンは少し間を置いてから、自分の秘密をネフィスに打ち明けた。
グウェン
「オレは元々――――〝人間〟だった」
ネフィス
「っ――⁉」
グウェン
「グウェンというのは、オレが人として生を受けた際に両親から授かった名だ」
かつて【グランヴェルク】に『グウェン・リーデル』という名の冒険者が存在した。
彼は世界でも指折りの剣士であり、戦時下においても多大なる戦果を挙げていた。
そんな彼には王直属の諜報機関に属する暗殺部隊――『影狼の一族』の当主という裏の顔が存在し、『カゲロウ』の偽名を持つ当代最強の暗殺者でもあった。
『勇者』アーサー。
『武者』コジロウ。
『賢者』ランドール。
『聖者』ステラ。
そして公にはされていない存在しないはずの五人目の戦士――――
『忍者』カゲロウ。
グウェンは『影狼の一族』の当主として勇者たちの旅に同行しており、彼らのサポートを人間の王たちから一任されていた。
だが、あるとき魔王軍の最高幹部との戦いに敗れ、敵軍に捕らえられた彼は戦闘兵強化実験の実験台にされてしまった。
地球に生息する『キンイロオオカミ』と融合させられた彼は、元々の剣術に狼の身体能力が合わさり、魔王軍の中でも最上位クラスの戦闘力を手に入れた。
実験の成果を確かめるために魔王と無理やり戦わされた彼は、強化実験の成功例として魔王の闇魔法で洗脳状態にされてしまったのだ。
魔王軍の最高幹部となったグウェンは、数え切れないほど多くの人間を斬り殺した。
しかし、最後の戦いにおいて連合軍と対峙した彼は、勇者の光魔法を浴びてかつての記憶と正気を取り戻すことが出来たのだ。
最悪なことに、グウェンの中には魔王軍の最高幹部として人々を斬り殺した記憶が鮮明に残っており、ヴェロールとの間に築いた絆も彼にとっては紛れもない真実であった。
ヴェロールがグウェンの切り札である『影狼』の戦闘形態を知らなかったのは、グウェン自身が人間だった頃の記憶を失っていたために『影狼の一族』に伝わる秘術をまったく使えなかったからだ。
その後、連合軍に合流したグウェンは勇者たちと共に魔王軍を壊滅させた。
戦いに貢献したとはいえ、彼が過去に大勢の人間を斬り殺した事実は変わらない。
ヴェロールを取り逃がした不始末を追及され、彼は『金狼のアウル』として再び指名手配される身となった。
そして彼は世間の前から姿を消し、生涯を賭けた贖罪の旅に出発したのだ。
ネフィス
「そんな……。それじゃあダンナは何も悪くないじゃないッスか⁉」
グウェン
「世間ってのはそういうものだ。それに何らかの形でケジメをつけなければ、殺された側の遺族は納得しない」
ネフィス
「…………」
グウェン
「幸い〝コイツ〟のおかげで食い扶持には困らなかった。〝コイツ〟だけは、オレとアウルは別人だと判断してくれたらしい」
そう言ってグウェンはギルド登録証をネフィスに見せた。
罪を犯せば登録は消除される。
しかし、魔力契約はアウルとグウェンの罪は別物だと判断したのだ。
グウェン
「ネフィス。お前はこれからどうするつもりだ?」
ネフィス
「え……?」
グウェン
「オレは今まで通り、贖罪の旅を続ける。ヴェロールに脅されていたとはいえ、お前も既に立派な犯罪者だ」
実を言うと、ネフィスも魔王軍の元メンバーである。
彼女は自身の上司だったヴェロールのもとから脱走し、足を洗って人間の街で暮らしていたのだ。
しかし、ヴェロールに居所を突き止められ、過去をバラされたくなかったら街の情報を流せとヴェロールに脅された。
元魔王軍だと世間に知られれば、死刑は確実である。
そのときの彼女に選択肢はなかった。
ネフィスは自身のこれからについて考えを巡らせ、グウェンの質問に答えた。
ネフィス
「アタイは――――」
――――――――――――
翌日。
グウェンとネフィスは出発の準備を整え、南西の森をあとにした。
ネフィスは自分の犯した罪を償うべく、グウェンの生涯を賭けた贖罪の旅に同行することを決めたのだ。
グウェン
「果てしなく長い旅になる。――――そのためにまず〝アレ〟を手に入れるぞ」
ネフィスがグウェンの言葉に首を傾げる。
ネフィス
「……アレって、何ッスか?」
グウェン
「…………羊の毛皮だ」
かくして、グウェンとネフィスの新たな贖罪の旅が始まった。
果たして彼らに平穏な日常が訪れる日は来るのだろうか――――。
本当なら少しでも距離を稼ぎたいところだが、ヴェロールとの戦いでの疲労が予想以上に大きかったのだ。
二人は焚き火の側で腰を下ろし、色々と話し込んでいる。
ネフィス
「ダンナ。いくつか質問していいッスか?」
グウェン
「……何だ?」
ネフィス
「ダンナは一体〝どっちの側〟なんッスか?」
グウェン
「…………」
ネフィス
「それに狼人族って、もっとこうゴツいイメージがあるんッスけど……。ダンナの体はあくまで人並みって言うか……」
グウェンは元魔王軍の最高幹部でありながら、各地で魔王軍の残党を狩っている。
そして〝本物〟の狼人族は、彼女の言う通りホブゴブリンと同じく人間の成人男性より体が一回り大きいのだ。
グウェンは少し間を置いてから、自分の秘密をネフィスに打ち明けた。
グウェン
「オレは元々――――〝人間〟だった」
ネフィス
「っ――⁉」
グウェン
「グウェンというのは、オレが人として生を受けた際に両親から授かった名だ」
かつて【グランヴェルク】に『グウェン・リーデル』という名の冒険者が存在した。
彼は世界でも指折りの剣士であり、戦時下においても多大なる戦果を挙げていた。
そんな彼には王直属の諜報機関に属する暗殺部隊――『影狼の一族』の当主という裏の顔が存在し、『カゲロウ』の偽名を持つ当代最強の暗殺者でもあった。
『勇者』アーサー。
『武者』コジロウ。
『賢者』ランドール。
『聖者』ステラ。
そして公にはされていない存在しないはずの五人目の戦士――――
『忍者』カゲロウ。
グウェンは『影狼の一族』の当主として勇者たちの旅に同行しており、彼らのサポートを人間の王たちから一任されていた。
だが、あるとき魔王軍の最高幹部との戦いに敗れ、敵軍に捕らえられた彼は戦闘兵強化実験の実験台にされてしまった。
地球に生息する『キンイロオオカミ』と融合させられた彼は、元々の剣術に狼の身体能力が合わさり、魔王軍の中でも最上位クラスの戦闘力を手に入れた。
実験の成果を確かめるために魔王と無理やり戦わされた彼は、強化実験の成功例として魔王の闇魔法で洗脳状態にされてしまったのだ。
魔王軍の最高幹部となったグウェンは、数え切れないほど多くの人間を斬り殺した。
しかし、最後の戦いにおいて連合軍と対峙した彼は、勇者の光魔法を浴びてかつての記憶と正気を取り戻すことが出来たのだ。
最悪なことに、グウェンの中には魔王軍の最高幹部として人々を斬り殺した記憶が鮮明に残っており、ヴェロールとの間に築いた絆も彼にとっては紛れもない真実であった。
ヴェロールがグウェンの切り札である『影狼』の戦闘形態を知らなかったのは、グウェン自身が人間だった頃の記憶を失っていたために『影狼の一族』に伝わる秘術をまったく使えなかったからだ。
その後、連合軍に合流したグウェンは勇者たちと共に魔王軍を壊滅させた。
戦いに貢献したとはいえ、彼が過去に大勢の人間を斬り殺した事実は変わらない。
ヴェロールを取り逃がした不始末を追及され、彼は『金狼のアウル』として再び指名手配される身となった。
そして彼は世間の前から姿を消し、生涯を賭けた贖罪の旅に出発したのだ。
ネフィス
「そんな……。それじゃあダンナは何も悪くないじゃないッスか⁉」
グウェン
「世間ってのはそういうものだ。それに何らかの形でケジメをつけなければ、殺された側の遺族は納得しない」
ネフィス
「…………」
グウェン
「幸い〝コイツ〟のおかげで食い扶持には困らなかった。〝コイツ〟だけは、オレとアウルは別人だと判断してくれたらしい」
そう言ってグウェンはギルド登録証をネフィスに見せた。
罪を犯せば登録は消除される。
しかし、魔力契約はアウルとグウェンの罪は別物だと判断したのだ。
グウェン
「ネフィス。お前はこれからどうするつもりだ?」
ネフィス
「え……?」
グウェン
「オレは今まで通り、贖罪の旅を続ける。ヴェロールに脅されていたとはいえ、お前も既に立派な犯罪者だ」
実を言うと、ネフィスも魔王軍の元メンバーである。
彼女は自身の上司だったヴェロールのもとから脱走し、足を洗って人間の街で暮らしていたのだ。
しかし、ヴェロールに居所を突き止められ、過去をバラされたくなかったら街の情報を流せとヴェロールに脅された。
元魔王軍だと世間に知られれば、死刑は確実である。
そのときの彼女に選択肢はなかった。
ネフィスは自身のこれからについて考えを巡らせ、グウェンの質問に答えた。
ネフィス
「アタイは――――」
――――――――――――
翌日。
グウェンとネフィスは出発の準備を整え、南西の森をあとにした。
ネフィスは自分の犯した罪を償うべく、グウェンの生涯を賭けた贖罪の旅に同行することを決めたのだ。
グウェン
「果てしなく長い旅になる。――――そのためにまず〝アレ〟を手に入れるぞ」
ネフィスがグウェンの言葉に首を傾げる。
ネフィス
「……アレって、何ッスか?」
グウェン
「…………羊の毛皮だ」
かくして、グウェンとネフィスの新たな贖罪の旅が始まった。
果たして彼らに平穏な日常が訪れる日は来るのだろうか――――。
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