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戦後の母トミとブタ
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昭和二十年代
数年前に私と夫は、引き上げ船で日本に帰ってきた。
夫は小学校教員で、引き上げて数年で、地方へ転勤。私は社交的な方だけどそれでも親族が近くにいない中での子育ては大変だった。
三人目、四人目の出産ではお乳の出が悪くて、かといって、もらい乳を頼める知り合いも探してくれる親族なく、田舎なので、偶然同じ時期に出産した人もいなかった。
ヤギの乳を飲ませるといい、と夫の生徒の親御さんが乳の出るヤギを連れてきた時は本当に嬉しかった。
田舎では教員は尊敬されるのか、時々、親御さんがお野菜をもってきてくれた。
この食糧のない時代、上の子2人もまだ小学生だったから、本当にありがたかった。
とはいえ、それで足りるものではない。
どうしようかと考えあぐねていると、ふと、隣家の庭にいる子ブタに気がついた。
隣家の奥さんと世間話をしながらそれとなく聞く
その子ブタはどうしたの? これからどうするの?
なんでも、この子ブタは近くの(と言っても、車のない時代、歩きだと遠いのだけど)養豚場から安く譲ってもらって、大きくなったら売るのだと言う
餌は家の残り物や、子供等に散歩に連れ出してもらって、散歩道の草なんかを食べさせているとか、・・・これだわ!奥さん、紹介して!
今までだって、ヒヨコを育てる内職(30~50匹ほどヒヨコを買い取って育て、数匹のメスは卵を産ませるために手元において、残りは業者に引き取ってもらう、やがて、雌鳥も卵が産めなくなったら我が家の食卓に)
や、ヤギだって飼ってるし、ブタだってなんとかなるわよ
我が家の一週間分の食費で子ブタを譲ってもらった。
これが高いのか安いのか分からないけど、これより高く売れたらいいのだから、
世話は長男長女(小学生)に丸投げした。
世話は楽しいようだ。
ある日の昼下がり、末っ子を残して子供達は遊びに出ている。
末っ子は昼寝をし、私は家事をしている。
野菜屑や、生ゴミをザルにのせ、縁側から放り出す。鶏やブタが食べるだろう。
穏やかな時間。
後ろで、獣のすごい叫び声が
ピギーー!!
ビィィィ!!
大きな物音も、ドタン!!ガタン!!
振り向くと庭を半狂乱で駆け回るブタが!
鶏も大騒ぎだ。
ブタは色んなものにぶつかる。猪突猛進とはこう言うことか、!怖い!
ブタは縁側をかけ上がって室内へ、
危ない!!とっさに末っ子を抱き上げる。
ブタは家の中のあちこちへ突進する。
タンスの上に上がって逃げる。
こんなのにぶつかったら危ない。もう、家中めちゃくちゃだ。
又、ブタが外に走っていった。
追わなきゃ。
タンスの引き出しを開けて、赤ん坊を
入れる。又、ブタが帰ってきたら、踏まれちゃう。
下駄で表に出る。若干興奮した様子だけどじっとして地面の匂いをかいでる。
そこへ帰ってきた子供達。
ブタは気付いて走りだそうとするとの同時に私はブタにしがみついた。
興奮して走り出すブタ。絶対離さない。最低でも、こいつの価値は一週間分の食費以上なんだから、
暴れるブタにしがみつく私は、すごい形相だったらしい。覚えていないのだけど、ずっと
「肉、お金、肉」
と呟いたり叫んだりしていたらしい。
半泣きの我が子が、近所の大人を呼んできて、どうにか、ブタは取り押さえられた。
呆然とする私に
「奥さんあんた、ネギかニラ、野菜屑に混ぜたろう、ブタはそれ食うと興奮するよ?」
あぁ、そうだったのか、でもブタはもうこりごり、服は破れ、下駄の鼻緒は切れている。
せっかく捕まえたから、そのまま業者の人に引き取ってもらった。
子供達が何か言っていたが
「あのブタは暴れたから、お巡りさんに連れていってもらうの!」と適当な事を言った。
ブタは1ヶ月分の食費になった。
数年前に私と夫は、引き上げ船で日本に帰ってきた。
夫は小学校教員で、引き上げて数年で、地方へ転勤。私は社交的な方だけどそれでも親族が近くにいない中での子育ては大変だった。
三人目、四人目の出産ではお乳の出が悪くて、かといって、もらい乳を頼める知り合いも探してくれる親族なく、田舎なので、偶然同じ時期に出産した人もいなかった。
ヤギの乳を飲ませるといい、と夫の生徒の親御さんが乳の出るヤギを連れてきた時は本当に嬉しかった。
田舎では教員は尊敬されるのか、時々、親御さんがお野菜をもってきてくれた。
この食糧のない時代、上の子2人もまだ小学生だったから、本当にありがたかった。
とはいえ、それで足りるものではない。
どうしようかと考えあぐねていると、ふと、隣家の庭にいる子ブタに気がついた。
隣家の奥さんと世間話をしながらそれとなく聞く
その子ブタはどうしたの? これからどうするの?
なんでも、この子ブタは近くの(と言っても、車のない時代、歩きだと遠いのだけど)養豚場から安く譲ってもらって、大きくなったら売るのだと言う
餌は家の残り物や、子供等に散歩に連れ出してもらって、散歩道の草なんかを食べさせているとか、・・・これだわ!奥さん、紹介して!
今までだって、ヒヨコを育てる内職(30~50匹ほどヒヨコを買い取って育て、数匹のメスは卵を産ませるために手元において、残りは業者に引き取ってもらう、やがて、雌鳥も卵が産めなくなったら我が家の食卓に)
や、ヤギだって飼ってるし、ブタだってなんとかなるわよ
我が家の一週間分の食費で子ブタを譲ってもらった。
これが高いのか安いのか分からないけど、これより高く売れたらいいのだから、
世話は長男長女(小学生)に丸投げした。
世話は楽しいようだ。
ある日の昼下がり、末っ子を残して子供達は遊びに出ている。
末っ子は昼寝をし、私は家事をしている。
野菜屑や、生ゴミをザルにのせ、縁側から放り出す。鶏やブタが食べるだろう。
穏やかな時間。
後ろで、獣のすごい叫び声が
ピギーー!!
ビィィィ!!
大きな物音も、ドタン!!ガタン!!
振り向くと庭を半狂乱で駆け回るブタが!
鶏も大騒ぎだ。
ブタは色んなものにぶつかる。猪突猛進とはこう言うことか、!怖い!
ブタは縁側をかけ上がって室内へ、
危ない!!とっさに末っ子を抱き上げる。
ブタは家の中のあちこちへ突進する。
タンスの上に上がって逃げる。
こんなのにぶつかったら危ない。もう、家中めちゃくちゃだ。
又、ブタが外に走っていった。
追わなきゃ。
タンスの引き出しを開けて、赤ん坊を
入れる。又、ブタが帰ってきたら、踏まれちゃう。
下駄で表に出る。若干興奮した様子だけどじっとして地面の匂いをかいでる。
そこへ帰ってきた子供達。
ブタは気付いて走りだそうとするとの同時に私はブタにしがみついた。
興奮して走り出すブタ。絶対離さない。最低でも、こいつの価値は一週間分の食費以上なんだから、
暴れるブタにしがみつく私は、すごい形相だったらしい。覚えていないのだけど、ずっと
「肉、お金、肉」
と呟いたり叫んだりしていたらしい。
半泣きの我が子が、近所の大人を呼んできて、どうにか、ブタは取り押さえられた。
呆然とする私に
「奥さんあんた、ネギかニラ、野菜屑に混ぜたろう、ブタはそれ食うと興奮するよ?」
あぁ、そうだったのか、でもブタはもうこりごり、服は破れ、下駄の鼻緒は切れている。
せっかく捕まえたから、そのまま業者の人に引き取ってもらった。
子供達が何か言っていたが
「あのブタは暴れたから、お巡りさんに連れていってもらうの!」と適当な事を言った。
ブタは1ヶ月分の食費になった。
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