今日の私 明日の誰か

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第9章 後編:記憶の旗を掲げて

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2024年10月15日午前9時。永田町、衆議院第二本会議室。
【緊急動議】ID交代制度の全面廃止に関する特別法案
提出のきっかけは、“議員ID”が金銭で売買されていることが判明した汚職事件だった。
国民は激しく反発し、世論は一気に廃止支持へと傾いた。

国会前のデモは続いていた。
「私は、中川洋子です」
「私は、立石達郎です」
「私は……小野田遥です」
拍手が広がり、その光景は全国中継された。

可決目前、議場の緊張は最高潮に達する。
「本法案に賛成の方、起立をお願いします」
IDは日替わりでも、記録の積み重ねが“意思”を作っていた。
「起立多数につき、法案は可決されました」

その夜、総理大臣IDによる記者会見。
「本日をもちまして、ID交代制度は無効となります」

翌朝、IDボックスは沈黙し、新たなID通知は届かなかった。
代わりに、小さなカードが一枚届いていた。
氏名:小野田 遥
生年月日:2012年3月19日
登録住所:東京都中野区***
遥はそれを手に取って、涙をこぼした。
「これが、私」

街には“名前を取り戻す”人々があふれていた。
かつての自宅に戻り、家族と再会する者。
何度も自分の名前を声に出す子供たち。
誰もが“自分の人生”を、確かに抱き直していた。

遥は大学に戻った。
「小野田遥さん」
「はい」
その返事は震えていた。
でも確かに、それは“自分の声”だった。

遥は、今、新しい日記をつけている。
そこには、毎日同じ名前が記されている。
「私は遥。今日も、明日も、これからも。
他の誰でもなく、“私”を生きていく」
それが、この国の終わりであり——
はじまりだった。

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