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最終章
第19話 決着9
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成瀬さんも成瀬さんで、苦労して人間関係のバランスを取っていたんだな。ただ、僕ほどまで無敵ではなかったけど。
きっと妬みもあったのだろうけど、他のクラスの女子たちが成瀬さんのことを悪く言っているのをたまたま聞いたこともあったし、それに直近で言えば、今は小池君の強さによって一件落着したとはいえ、小池君の騒動があった。
だが、人間は人間関係をそんなに無敵に構築できるわけではない。それがきっと、普通、健全なのだろう。
無敵を目指してしまい、その崩壊を恐れてしまう僕のほうが異常、不健全なのだろう。
やっぱり、僕は壊れている。
でも、成瀬さんが打ち明けてくれた話を聞いて思った。誰しも、壊れそうな朝を迎えることがあるのかもしれないと。
朝焼けを見て、ぞっとすることがあるのかもしれないと。
だからこそ。
届け、そんな人に僕の歌詞よ。
「ねぇ、もう何回か想いは伝えたつもりだけど」
成瀬さんはそう言って、怖いくらい澄んだ瞳で、僕を見つめた。
そして、春風に乗せて、告げた。
「好きだよ、できれば、それを、好きを超えたいくらいに」
春風に吹かれた僕は、あの雨の中で、田口さんに好きだと言ったときのことを思い出す。
その言葉だけで十分だと言った田口さんのことを思い出す。
胸が痛む。
それでも、胸は高鳴る。
僕は、成瀬さんのことも、田口さんと同じくらい好きになってしまっていたから。
ただ、僕は無敵のイエスマンだ。
僕が、壊れていても今の傑作品である僕であるためには。
田口さんとは違い、まだ、報われなくてもいいという境地に達していない、愛しているという境地に達していない成瀬さんに。
ここで、イエスと言うわけには。
「安心して。答えを言わせるつもりはないから」
そう言って、成瀬さんはまた春空を見上げながら、すっきりした顔で言ったんだ。
「ただ、毎日でも、そう言いたくて、想いを伝えたくて」
「成瀬さん……」
「でも、私、やっぱり負けたくないの。誰にも、田口さんにも。だから、私」
成瀬さんは、春空に向かって宣言するように言葉を放った。
「愛していると言えるくらいまで、赤崎君を想うつもり」
もしも。
もしも、そうなったとしたら。
僕らは。
僕と成瀬さんは。
僕と成瀬さんと田口さんは。
どうなっていくのだろう。
二人とも、報われなくても、僕を想い続けてくれる。
僕は、二人に愛されながら、無敵のイエスマンであり続けられるかもしれない。
でも、でもだ。
こんなに僕を想ってくれている成瀬さんや田口さんの青春を、こんな壊れてしまった僕に費やさせてしまっていいものなのか?
僕は、もう成瀬さんと田口さんへの自分の恋心を自覚している。
そして、あの雨に打たれながら、打算もありながらも、気持ちを抑えきれなくて、田口さんにはっきりと好きだと言ってしまった。
それは、田口さんが僕を愛していると言ってくれたという信頼から、出た言葉かもしれなかった。
でも、僕はもうあんなクズな発言はしたくない。
二人とも好きだ、なんて告げること。
たとえ、成瀬さんも僕に愛していると言ってくれたとしても。
報われなくてもいいと言ってくれたとしても。
無敵のイエスマンは、そんなこと言っちゃいけない。いけなかったんだ。
田口さんと小池君は、僕と成瀬さんが交際することを応援してくれるけれど。
僕は、無敵のイエスマンなんだ。
多分、これからもずっと変わることはないだろう。
だから、成瀬さんと田口さんへの恋心も封印するようなことをしなくちゃいけないだろう。
きっと、成瀬さんや田口さんが僕以外の男子と親しくしていたとしても。
邪魔なんてするはずないし、嫉妬も胸の奥に抑え込むだろう。
さっき、小池君の前でさらしたような醜態を、再現するわけにはいかない。
あれは、小池君が僕の友達だから、きっと見逃してくれたんだ。小池君でなかったら、僕の気持ちを勘づかれていたかもしれなかったのだから。
もうあんなへまはしてはいけない。
敵を作ってはいけない。僕は無敵のイエスマンなんだから。
こんな壊れてしまった僕に、二人の愛を受け取り続ける価値なんてあるのか。
そこまで考えて。
僕は。
ああ、そうか。
僕は、あのときとは対極の、よく晴れたこの春空の下でようやく。
ようやく。
僕が好きな成瀬さんと田口さんに対して、なすべきことが分かった。
「成瀬さん……」
僕は、僕がそれをする前に、せめて今だけでも、表情で気持ちを伝えようと、できる限り愛おしげな表情を浮かべて成瀬さんに言った。
「ありがとう」
成瀬さんが呆気に取られて、僕を見る。
それから、夢が叶った乙女のように瞳を潤ませる。
良かった、僕の気持ちは伝わったみたいだ。
これで、思い残すことはもう、ない。
成瀬さんと田口さん。
この二人を。
僕は好きだからこそ。
無敵のイエスマンらしく。
僕は、君たちを。
きっと妬みもあったのだろうけど、他のクラスの女子たちが成瀬さんのことを悪く言っているのをたまたま聞いたこともあったし、それに直近で言えば、今は小池君の強さによって一件落着したとはいえ、小池君の騒動があった。
だが、人間は人間関係をそんなに無敵に構築できるわけではない。それがきっと、普通、健全なのだろう。
無敵を目指してしまい、その崩壊を恐れてしまう僕のほうが異常、不健全なのだろう。
やっぱり、僕は壊れている。
でも、成瀬さんが打ち明けてくれた話を聞いて思った。誰しも、壊れそうな朝を迎えることがあるのかもしれないと。
朝焼けを見て、ぞっとすることがあるのかもしれないと。
だからこそ。
届け、そんな人に僕の歌詞よ。
「ねぇ、もう何回か想いは伝えたつもりだけど」
成瀬さんはそう言って、怖いくらい澄んだ瞳で、僕を見つめた。
そして、春風に乗せて、告げた。
「好きだよ、できれば、それを、好きを超えたいくらいに」
春風に吹かれた僕は、あの雨の中で、田口さんに好きだと言ったときのことを思い出す。
その言葉だけで十分だと言った田口さんのことを思い出す。
胸が痛む。
それでも、胸は高鳴る。
僕は、成瀬さんのことも、田口さんと同じくらい好きになってしまっていたから。
ただ、僕は無敵のイエスマンだ。
僕が、壊れていても今の傑作品である僕であるためには。
田口さんとは違い、まだ、報われなくてもいいという境地に達していない、愛しているという境地に達していない成瀬さんに。
ここで、イエスと言うわけには。
「安心して。答えを言わせるつもりはないから」
そう言って、成瀬さんはまた春空を見上げながら、すっきりした顔で言ったんだ。
「ただ、毎日でも、そう言いたくて、想いを伝えたくて」
「成瀬さん……」
「でも、私、やっぱり負けたくないの。誰にも、田口さんにも。だから、私」
成瀬さんは、春空に向かって宣言するように言葉を放った。
「愛していると言えるくらいまで、赤崎君を想うつもり」
もしも。
もしも、そうなったとしたら。
僕らは。
僕と成瀬さんは。
僕と成瀬さんと田口さんは。
どうなっていくのだろう。
二人とも、報われなくても、僕を想い続けてくれる。
僕は、二人に愛されながら、無敵のイエスマンであり続けられるかもしれない。
でも、でもだ。
こんなに僕を想ってくれている成瀬さんや田口さんの青春を、こんな壊れてしまった僕に費やさせてしまっていいものなのか?
僕は、もう成瀬さんと田口さんへの自分の恋心を自覚している。
そして、あの雨に打たれながら、打算もありながらも、気持ちを抑えきれなくて、田口さんにはっきりと好きだと言ってしまった。
それは、田口さんが僕を愛していると言ってくれたという信頼から、出た言葉かもしれなかった。
でも、僕はもうあんなクズな発言はしたくない。
二人とも好きだ、なんて告げること。
たとえ、成瀬さんも僕に愛していると言ってくれたとしても。
報われなくてもいいと言ってくれたとしても。
無敵のイエスマンは、そんなこと言っちゃいけない。いけなかったんだ。
田口さんと小池君は、僕と成瀬さんが交際することを応援してくれるけれど。
僕は、無敵のイエスマンなんだ。
多分、これからもずっと変わることはないだろう。
だから、成瀬さんと田口さんへの恋心も封印するようなことをしなくちゃいけないだろう。
きっと、成瀬さんや田口さんが僕以外の男子と親しくしていたとしても。
邪魔なんてするはずないし、嫉妬も胸の奥に抑え込むだろう。
さっき、小池君の前でさらしたような醜態を、再現するわけにはいかない。
あれは、小池君が僕の友達だから、きっと見逃してくれたんだ。小池君でなかったら、僕の気持ちを勘づかれていたかもしれなかったのだから。
もうあんなへまはしてはいけない。
敵を作ってはいけない。僕は無敵のイエスマンなんだから。
こんな壊れてしまった僕に、二人の愛を受け取り続ける価値なんてあるのか。
そこまで考えて。
僕は。
ああ、そうか。
僕は、あのときとは対極の、よく晴れたこの春空の下でようやく。
ようやく。
僕が好きな成瀬さんと田口さんに対して、なすべきことが分かった。
「成瀬さん……」
僕は、僕がそれをする前に、せめて今だけでも、表情で気持ちを伝えようと、できる限り愛おしげな表情を浮かべて成瀬さんに言った。
「ありがとう」
成瀬さんが呆気に取られて、僕を見る。
それから、夢が叶った乙女のように瞳を潤ませる。
良かった、僕の気持ちは伝わったみたいだ。
これで、思い残すことはもう、ない。
成瀬さんと田口さん。
この二人を。
僕は好きだからこそ。
無敵のイエスマンらしく。
僕は、君たちを。
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