ギャルゲー美女が不良校に放り込まれた件

由汰のらん

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Prolog

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「空音、好きだよ、愛してる。」


「××っ・・・!なんで、なんで今更なのよっ!!」


「ゴメン、俺が優柔不断なばっかりに。でも俺はもう、空音以外考えられない!!」


「××、わたしも、わたしもあんたのことが好きっ!!」




 丘の上に立つ大きな柿の木の下。


 抱き合う男女の姿。


 高校の卒業式。

 皆が校庭で仲間との思い出に浸り、別れを惜しむ中、私は校舎の裏手にある物陰からじーっと身をひそめています。


 丘の上で2人の男女が、長かった恋愛ストーリーを完結させているのが見えて、私はそれを、遠目にぼーっと見守る事しかできません。


 今彼から告白を受けているのは、美吉空音みよしそらねさん。


 美吉財閥の御令嬢でわがままツンデレキャラ。

 少しツリ目で一見とっつくにくそうなキャラなのに、なぜか事あるごとに嫌味でつっかかりプレイヤーさんたちに絡んでいく。


 プレイヤーさんが近づけば近づくほど空音さんはツンで返し、それに根強く対応していけば、時折デレを見せてくれるようになります。

 他のキャラとの距離を縮めてしまえば、その時折見せてくれるデレの中の嫉妬がまた男性プレイヤーさんの心をくすぐり、それがいつしか、「空音いいな」と鷲掴みにしていく、"後出し愛"。



 ずっと××さんは私のことを好きだと思っていたのに、今あそこで彼に告白されるのは、おこがましくも私だとばかり思っていたのに。


 そう思ってきたのは今回で何千回、いえ何万回となるのでしょう?


 こんな実らない想いにも慣れてしまって、なんてこともなく、私は一人そっと涙を流しました。


 私の名前は山元織羽やまもとおるは。17歳高校3年生。家族は母と、上京している兄が1人います。

 父はいなくとも、その兄に可愛がってきてもらったお陰か、おっとりとした母性キャラというのが私の位置づけです。


 プレイヤーである男性主人公は高校2年生という設定ですから、私は少しお姉さんになります。


 何でも快く、優しく受け入れてしまう私の性格が、周りのキャラに埋もれてしまえば掠れて見えてしまうようで、最初はプレイヤーさんととてもいい雰囲気で過ごしていても、必ず最後には違う女性キャラが選ばれてしまうという辛い現状なのです。


 
 ここは『あの柿の木の下で。』という美少女ゲームの世界。通称"あの柿"。


 美少女ゲームというのは、数いる女性キャラたちとの健全な恋愛シミュレーションを楽しむためのゲーム。主にプレイヤーは男性が多く、彼らは"ヲタク"や"草食系"と呼ばれる方たちだそうです。


 ゲームの世界だと気付いたのはいつだったか、そう、あれは新たなゲーム機本体が発売され、それに伴いこのゲームの移植版が発売された時だったはず。


 自分の肌がやたらきめ細やかになっているのに驚きました。それに心なしか目元もぱっちりとした雰囲気で、周りの景色の色調も鮮やかに。


 でも他の女性キャラは全く気付いていない様子で、それよりもプレイヤーを落とすことに必死だったようです。


 疑問を持ち始めた私は、こっそり皆さんの行動を盗み見るようになりました。


 女性キャラが彼に告白された後から、また同じ行動パターンを繰り広げていく。まさにループしている世界。

 
 同じクラスのヲタクさんたちが、こそこそと美少女ゲームについて語っているのを耳にしているうちに、この世界も美少女ゲームなのではと思い始めた次第です。


 それでも、すでに行動パターンを理解しているにも関わらず、どうしても彼の心を掴むことはできないまま、また今日という日を迎えてしまいました。


 最近ではもうプレイヤーの方自体が少なくなっているため、もう私はこのまま恋を実らすこともできず、ここでひっそりと最期を迎えることになるのかもしれません。

 
 

 私は、さっき彼と空音さんがいた柿の木の下に行くと、大きな太い木の幹に自分の拳を打ち付けました。


 「うっううっ、」


 いつもは冷静で、乱れた姿など誰にも見せたことのない私ですが、もう涙も嗚咽も止まりません。


 辛い、つらいです。あんなに優しく接してくれていた彼が違う女性と結ばれていく姿を見るのは、もうこれ以上耐えられません!嫌です!この世界から抜け出したいです!!


 
 木の幹に左右の拳を打ち続けていると、地鳴りが身体に響いてくる気がしますが、きっと気のせいでしょう。


 ひとしきり涙し、少し我に返った私は、柿の木を後にしました。




「ふう、少し、すっきりしました。」


 と、丘を下ろうとした時でした。


 後ろから柿の木が倒れてきたのは。


 ミシミシッという音と共で振り返れば、柿の木の幹がすぐ目の前まで倒れてきていて


私は意識を手放しました────。







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