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しおりを挟むこの世界が漫画の中であると気付いたのは入学して半年経った頃だった。
「.....ファブリーズが20本いるな。」
体育が終わり教室で着替える野郎共の中で本を読みふける(ふりをする)私は、あまりの男臭さにファブリーズの単語を呟いたその時、急速に頭の中が真っ白になった。
これが転生していることに気付く瞬間、というやつだ。
真っ白になった後は酷いものだった。
激しい倦怠感と吐き気、胃痛腹痛食あたりetc.....
仕方無く気の進まない保健室に行って、いつもの軽いノリを携えた保険医、高梨先生に向かって私は言った。
「.....せ、先生って、実在するとかなりウザいキャラですね.......。」
ベッドの縁に座る私の前でタレ目をさらに下げた保険医が笑いながら言った。
「はあ?まさかお前、俺にそれ言うためだけにここ来たんとちゃうやろな?」
ああ思い出した、この男が操るのは大阪弁ではなく三重弁だ。
確か『狼さんに食べられちゃう♡』4巻でこの保険医である高梨稔先生が奥さんと喧嘩し三重の実家に帰ったなんて1コマがあったはずだ。
つまり今私が体調不良を覚えつつ思い出したのはここがBL漫画、『狼さんに食べられちゃう♡』という略したくても略せない漫画の世界だということ。
おかしいなとは思ってはいた。
だってこのセレブしか通えない男子校に、理工学系の研究者である父と母を持つそれなりにセレブな私が通う羽目になっているのだから。
私は女だ。戸籍上メス♀としてこの世に生を受けた。
しかもそれなりにセレブの家だ。普通セレブの家なら変な虫がつかないようにと女子校に入学させられるのが普通だろう。
しかしうちのパパとママは普通じゃない。研究者故なのか、世間一般常識からかけ離れているのだ。
「同じ研究者よりも将来主となる人間を見てみたいとは思わないか?朱南。」
父が「狼贅学園」のパンフレットを私に差し出すと、その一言が母の背中を押した。
「確かに、将来研究者として従事する企業のご子息を見て勉強するのが高校生活のいい活用方かもしれないわね!さすがパパ!朱南ちゃんのお婿さんを探すいい機会かもしれないし~!」
「ちょうどいとこの稔が狼贅学園で保険医をやっていることだし、学園にも稔にもお前が女だということは説明しておくから。朱南、男装して入学しなさい。」
あほか。
うちは代々研究者としての血が流れているせいか研究職に携わってきた。
しかし研究だけでは当然家業は成り立たず、企業に従事し託された研究を請け負い生活してきた。
パパとママはどっちも研究者だが、パパもママもあわよくば私が大企業の御曹司と結婚出来ればと考えている。
しかも"狼贅学園"は名前は馬鹿そうだがこの世界では一番ブルジョワでレベルの高い全寮制の名門校だ。
中学校、高校、大学まであり生徒のほとんどが中学校から通っている。
だからいきなり高校から入学なんてのは相当な難関だ。それなのに私は見事合格した。
たまたま私の髪はグレーの男っぽい色で、丸みのあるショートボブに背も女にしては168cmと高めだった。
色々無理矢理感が否めないし、そんな運良く保健医のいとこが学園に勤めているだなんて話もあり得ない。まだ教師の友達がいる方が現実味がある。
つまり漫画の世界だから現実味がなさすぎるのだ。
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