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しおりを挟むそれからまた日は過ぎ、待ちに待ったお盆休みがやって来た。
「え?!パパとママ、今日から旅行行くの?!」
「え?そうよ?行ってなかった?」
「今日から10日間、学会も兼ねてパリに行ってくるよ。」
聞いてない。というか忙しすぎてパパとママにもほとんど会えてなかったし。
「朱南ちゃん、今日から2人きり、よろしくね?」
「はは。」
何でこんな時に限って私も心陽君も休みなんだろう。しかもバアヤたちもお盆の帰省ラッシュで、本当に2人きりになってしまうのだ。
家でゆっくりさせてくれとか言っちゃったから、今さら旅行に行くこともできないし。
逆に2人となると別々にご飯を食べるなんてこともできず、仕方なく一緒に食べることになった。私はウーバーする気満々だったのに、なんと心陽君がお昼ご飯を作ってくれたのだ。
「す、すごい!!何この創作料理の数々!!バアヤより凄いんじゃない?!」
色とりどりの食材を活かした和洋折衷料理だ。牡蛎にアボガドを乗せたものや、細切ショウガを乗せた牛ひれ肉のステーキ、どれも珍しい組み合わせだ。
「ねえこれは何?このゴマ団子みたいな丸いやつ。」
「それはコラーゲンの塊だよ。ほら朱南ちゃんの女子力を少しでも高めようかと。」
「わあ余計なお世話。」
「僕が弟になってよかったね。」
「···そうだね。今初めてそう思えました。」
同じ研究者でもこんなに料理の腕に差が出るもんなんだな。私なんて鍋くらいしか作れないし。
2人でワインを飲みながら創作料理に舌づつみを打つ。久々にゆっくりと満足のいくご飯が食べれたかもしれない。
ご飯を食べ終えると、さすがに食べっぱなしでは申し訳ないので、お皿を食洗器に入れた。
「この後一緒に映画でも見ない?朱南ちゃんが見たいって言ってたBLの恋愛映画でも見ようよ。」
「ええー····まあ、いいけど。」
この後は1人で買い占めていた同人誌を一気読みするつもりだったが、BL映画ならまあいいか、と心陽君と一緒に過ごすことを選んでしまった私。
この時からすでに、それは効いていたのだろう。
リビングでソファを背にしてフワフワな絨毯に座ると、私は妙な気分になってしまっていた。
隣に座る心陽君の体温が、やたら熱く感じる。触れていないのに、腕からその体温が伝わってくる気がする。
心陽君の一つ一つの動作が気になってしょうがない。リモコンでテレビをつけ、そのボタンを人差し指で押す仕草にまで目がいってしまう。
こんなこと思うの、前世以来かもしれない。
その指先に触れられたらどうなるのだろう、背が伸び、少し逞しくなったその腕に抱かれたらどうなるのだろう、なんて柄にもなく思ってしまったのだ。
何だろう、疲れてるのかな。頭がぼーっとする····。
「朱南ちゃん、だいじょぶ?」
心陽君の声に含まれる優しい空気がふわりと額に感じた。心陽君が私のおでこに手を当ててくれていて、それがわかった瞬間ビクリと変に身体が反応してしまう。
鼓動が波打って、自分の呼吸が荒くなると、自分でも信じられないような甘えた声が出た。
「こ、こはるくうん、」
「ん、なに?」
「なんか····わたし、やばいかも···。」
おでこに当てられた心陽君の手をぎゅっと握り締めてしまい、今にも抱きついてしまいそうになる。
「いい感じになってきたね。」
心陽君の声が響いて聞こえた気がして、シャッと音がした方を見れば、なぜだかリビングのカーテンを閉めている人物がいた。···心陽君じゃない。
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