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21.魔王様とお出かけ(前編)
しおりを挟む「で、どこへ連れて行ってくれるんだ?」
弁当の入ったバスケット片手に部屋へ戻ると、フォルティスはにこやかな笑みで俺を出迎えた。
「そんなに遠くじゃないが、寒いから上着は厚手がいい」
改めてフォルティスを見ると、暖かそうなコートを着ている。手触りの良さそうな濃紺のコートはフォルティスに似合っているが、暑そうだ。
「さっき食糧庫行ってきたけど、そんなに寒くなかったよ」
「地上はな」
含みのある言い方に突っ込もうとしたとき、フォルティスが両手を広げた。途端に突風が巻き起こる。
「は?」
ぽかんと間抜けな俺の前に立つフォルティスの背中に真っ黒な翼が生えていた。風で抜けたのかふわふわの羽根が宙を舞う。
「魔王なのに羽毛タイプなのか」
魔王、つまり魔族なのでドラゴンとかコウモリみたいなツルッとした羽のイメージだったんだけど。
ポツリと漏れた疑問にフォルティスの眉が下がった。
「羽毛は嫌なのか?」
「いや、想像と違ったってだけ。似合ってるし、かっこいいよ」
正直に伝えるとパッと顔をあげ、嬉しそうに羽を動かす。
「そうか? じゃあ、このままずっと出しておこうかな」
「普段は邪魔になると思う」
「え」
「ベッドとか風呂とか狭くなるだろ」
大人2人余裕で寝転がれる大きなベッドとはいえ、流石に邪魔になる。同衾するものとしてそこは譲れない。風呂に関しても羽根が舞うのは遠慮してほしい。
「そう、だな。ベッドと……風呂か……」
フォルティスの瞳が欲に濡れる寸前にストップをかける。
「お出掛けするんだろ?」
「……もちろんだ」
少し残念そうにこちらを見つめるフォルティスに背を向け、厚手の上着を取りにクローゼットへ向かった。
「たっかいなー! 夜も賑やかなんだな」
フォルティスは俺を抱きかかえると魔王城を飛び立ち、漆黒の翼をはためかせながら夜空を駆けた。
眼下に広がる魔国の王都は、たくさんの魔族や魔物が闊歩し、時折楽しげに声を上げている。
活気のある光景に見てるだけで楽しくなってきた。
「夜行性の魔族や魔物も多いからな。伊織が可愛がってるケットシーたちも本来は夜に活動する種族だ」
フォルティスのいうケットシーは食糧庫で物品管理をしている猫の魔物だ。真っ白なふわふわの長毛と青い猫目が可愛い。人あたりのいい魔物でこちらへ来て一番に仲良くなった。仕事はまじめにしているが、いつも気怠げに欠伸をしている。
「へぇ。だから、いつも眠そうなのか」
「来月には子が生まれるらしいから夜に会いに行こう」
「そういえば、そんなこと言ってたな……」
もうすぐパパになるんですよと、猫目を嬉しそうに細めた友人の顔を思い出す。生まれる前から子煩悩なケットシーのことだ、生まれたらきっと可愛い子猫にデレデレになるに違いない。
子どもかぁ。魔王の実から生まれるフォルティスの子どももきっと可愛いんだろう。俺の平凡な遺伝子だか魔力だかが混ざっても、片方がこれだけ美形なら間違いない。フォルティスみたいにダイヤモンドの瞳を輝かせてハンバーグを食べたり、寂しいとぐずって甘えたりするのかな。
フォルティスもきっといいパパになるだろう。
俺が決断しさえすれば、そんな未来もある。
でも、日本に未練を残したまま、フォルティスの側にいるのは……
母さんの顔が浮かぶ。俺が幼い頃に亡くなった父さんの分まで働き、愛情を注いでくれた。
最後に会ったのは、盆休みだったか。昔と変わらないふんわりと優しい笑顔で迎えてくれたが、目尻の皺が深くなっていた。
育ててくれた感謝も伝えないままだ。
フォルティスに気づかれないようにそっと息をはいた。
ーー優柔不断だな、俺は。
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更新お待ちしております🥺
ガンツさんとシャリヤさんお似合いですね。ガンツさんがシャリアさんもの凄く大切にしてそう♡
こちらへも感想をありがとうございます
ガンツは愛妻家です♪
フォルティス、かわいすぎる~!!かっこいいのに可愛いなんて、凄い。
はあ、、、続きがたのしみです。
感想ありがとうございます。
不定期にはなりますが、頑張って続きをあげて行きますので、もう少々甘えたな魔王様をお待ち頂けると幸いです。