異世界に迷い込んだ給食のお兄さんは魔王様にごはんを作りたい。食べるならごはんをどうぞ。

猫屋町

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20.魔王様の不意打ち

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デートにでも誘われるのかと思ってたけど、何も言われないままいつも通りそれぞれ出勤し、昼が来た。

普段は食堂まで降りてくるフォルティスだけど、今日は忙しいのか昼休みを過ぎても顔を見せない。

「ガンツ、俺ちょっと陛下のとこご飯届けて来るわ」

「おお。そういや、今日はまだいらしてなかったな。ーー何作ったんだ?」

手元を覗き込んで来たガンツにバスケットの蓋を開け中身を見せた。中には小振りのコッペパンに具材を挟んだものが並んでいる。

「コッペパンサンド。仕事が立て込んでるのかもしれないから片手間に食べれる物がいいかと思って」

「具は?」

「ランチの残りだよ。唐揚げと卵サラダとメンチカツの3種類」

唐揚げ大好きだから喜ぶと思うと言うと、ガンツは顔をしかめて声を潜める。

「……魔王陛下に残りモン出していいのか? 不敬にならねぇか?」

「そのまま出してるわけじゃないから大丈夫だろ。それにフォルティスはそんなことで怒らない」

「呼び捨てはさすがに不敬じゃねぇか?」

「あ」

「ほぅ。ーーまあ、なんだ。シフトの調整が必要な時は遠慮なく言えよ」

「どういう意味?」

なんで俺がフォルティスを呼び捨てにすると、シフト調整が必要になるんだ?

「まんまの意味だ。お前さんが見た目よりは頑丈で体力あるのは知ってるが、相手は魔王様だからな」

「喧嘩するつもりはないけど」

「あのなぁ、陛下がお前さん相手に喧嘩して勝てるわけねぇだろ。惚れた方が負けって昔から決まってんだよ」

いやに実感のある言い方だ。これはもしかして。
ニヤッとしてガンツを小突く。

「ガンツって奥さんに弱いの?」

「ったりめぇだろ。結婚して100年、勝てた試しがねぇよ」

はぁとため息をつきながらもどこか嬉しそうなガンツに好奇心が湧いた。

「へぇ。今度奥さんに会わせてよ」

「ん? なんだ、言ってなかったか? 嫁さん、陛下の補佐官だぞ。お前さんも何度も会ってるだろ」

その言葉に優美な有能補佐官の姿を思い出す。フォルティスの執務室で何度か話したことがあるが、いつもこの世界に不慣れな俺を心配してくれた。

美しい容姿と繊細な優しさを持ったエルフ補佐官がワイルドなイケおじだけど、料理以外は粗野でガサツなガンツの奥さんとは。

「……マジで? あの美形エルフ補佐官のシャリヤさんがガンツの奥さん?」

疑いの眼差しを向けると、ガンツは褒め言葉しか聞こえていないのか自慢気に笑い飛ばした。

「はっはっは!うちの嫁さんは世界一美人だろう」




上機嫌のガンツに見送られ、バスケット片手に執務室をノックすると、部屋から柔らかな声が返ってきた。

「はい」

「伊織です。陛下の昼ごはんをお届けにきました」

名乗ると自動でドアが開き、噂の美形補佐官シャリヤが微笑みと共に出迎えてくれた。

「イオリさん、いつもすみません」

「いえ……」

この儚げな美人がガンツの奥さん、とまじまじと見つめてしまい、不振に思われたのか戸惑ったような顔で見つめ返された。

「どうかされましたか?」

「あの、シャリヤさんがガンツの奥さんって本当ですか?」

「え? あ、はい。そうですけど」

「本当だった……」

「どうかされたんですか? ガンツが何かしました?」

心配そうに尋ねられ、首を振った。

「いえ。お二人がご結婚されてると、さっき初めて知ったもので」

「そうだったんですか。てっきりガンツが伝えているものだと思ってまして」

すみませんと謝罪され、俺の方こそと頭を下げる。

「いえ、変なこと聞いてすみません」

謝り合う俺たちを不審に思ったのか、シャリヤの後ろからフォルティスが現れた。

「伊織」

「フォルティス。ごめん、忙しいところ邪魔して」

「いや、それは構わないが。弁当を持って来てくれたのか?」

俺の持っていたバスケットを気にしていたので、蓋を開けて見せた。

「今日はコッペパンサンドにしたよ。具はフォルティスの好きな唐揚げ」

「いい匂いだ。唐揚げと卵と、もう一つは?」

「メンチカツ! 今日の日替わりのメインだったんだ」

と、残り物だと隠さずいうと、俺の想像通り全く気にした様子はない。
それよりもメンチカツ自体が気になるらしく、バスケットから目を離さないでいる。

「コロッケとは違うのか?」

「そういえば、フォルティスにはまだ作ってなかったかも。ハンバーグのコロッケみたいな感じ。甘辛いソースを染み込ませてるから好きだと思うよ」

フォルティスは結構お子様舌だから日替わりで使ったものより甘めにソースを作り直したことは内緒。

はい、とバスケットを手渡すと嬉しそうに両手で受け取ってくれた。

「美味そうだな。ーーところで伊織、今夜だが」

大事そうにバスケットを抱えながら、フォルティスは急に真剣な顔になった。

「うん? 夕飯のリクエスト?」

「それもある。ーー今夜は出掛けないか?」

これはもしや、デートのお誘い?

忙しい最中に時間を作ってくれる嬉しさと昨夜のコトを思い出した恥ずかしさを隠し、平静を装って笑顔を向ける。

「じゃあ、お弁当にするね。おかずのリクエストある?」

「ポテトサラダがいい」

「ん。他には?」

「あとは任せる」

「了解」

じゃあ仕事に戻るねと踵を返そうとした時、不意にフォルティスの顔が近づいて来る。

どうしたのかと問おうとした瞬間、頬に口付けられた。

「また後で」




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