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本編
三夜ー4 24時間、国王じゃなくていいんだよ
しおりを挟むたくさん喋って長湯したお陰か身体の芯から温まった。
グランにそろそろ出ようかと声を掛け、トリートメントを洗い流す。
脱衣所へ戻る頃には汗ばむくらい熱くなっていた。
湯冷めが心配だけど、この後ベッドでマッサージするならTシャツと短パンでいいか。
と涼しい格好で出ると、先にベッドで寛いでいたグランにガン見された。
「なに?」
「いや、何でもない」
「そう? ならいいけど。ーーじゃあ、肩揉みするからうつ伏せで寝て」
そう頼むと、グランは不思議そうな顔をした。
「肩を揉んでくれるんじゃなかったのか?」
「肩もするけど、背中も腰も全体的に揉むから」
あれだけ肩が凝ってるなら、背中も腰も固まっているはずだ。
せっかくなら全身マッサージしよう。肩だけより楽になるはず。
そんなことを説明すると、納得したのかグランはベッドに寝そべってくれた。
「こんな感じでいいか?」
「うん。このまま寝ちゃっていいからね」
「いや、今夜もトモルを抱えて寝たいんだが」
「大丈夫じゃない? 俺が近付くと反対向いてても絶対抱き込んでるし」
前回泊まった時のことを思い出して伝えると納得してくれたらしい。
「じゃあ、始めるね?」
と声を掛けてグランの腰に体重を掛けないように跨ると。
「その態勢で、するのか?」
上半身だけ起こし、こちらを向いたグランと目が合う。こちらを射抜くような瞳にたじろいだ。
「う、うん。嫌?」
「嫌ではない。全くないが……」
思案するように目を眇めながら、グランは赤い舌でぺろりと自身の口唇を舐めた。
その艶っぽい仕草に腰が重くなる。早くなる鼓動と熱が集まる頬に気付かれないように俯くと。
「ーーあとでトモルにもしていいか?」
するってこの態勢を?
「なんで?」
「……」
「グラン?」
呼び掛けると、ふっと息を吐いたグランの視線が緩んだ。
「忘れてくれ。ーー良い言い訳を思いつかなかった」
言い訳って。
何か言い訳してでも、俺の上に乗りたいってこと?
さっきまでの強い視線を思い出して、腰が震えた。自意識過剰かもしれないけど。
「もしかして、ーーしたいの?」
何を、とは聞けなかったが、伝わったらしい。
「しても、いいのか?」
グランもまた何を、と言わないまま問い返す。
グランと……、と想像し掛けて慌てて首を振る。
「ごめん、したいなら、そういうお店を紹介する決まり、だから」
しどろもどろに返事すると、聞いたことがないほど冷たい声が返ってきた。
「紹介は必要ない」
「ごめん……」
グランがいま、どんな顔をしてるのか怖くて見れない。完全に怒らせた。
そんなつもりはなかったけど、したいの?なんて試すような聞き方しちゃったし。
「ごめん」
もう一度謝ると、グランの纏う空気が柔らかくなった。俺の下で寝返りをうったグランに抱き上げられ、ベッドへおろされる。
「私の方こそ悪かった。今夜はもういい」
もういいってそれは。
「……帰れってこと?」
「違う。揉むのはいいから添い寝してくれ。トモルを抱きしめても、いいか?」
ぎこちなく広げられた腕に倒れるように抱きつくと、温かい胸に優しく抱き止められた。
「トモル……」
俺の名前を呼ぶ声がよそよそしく、ぎこちない。そんな声をこれ以上聞きたくなくて、そっと目を閉じた。
「おやすみ、グラン」
添い寝屋として情けないが、現実逃避するようにグランより先に寝落ちてしまった……
◇◇◇
目を覚ますと、珍しくグランはまだ眠っていた。俺の胸に顔を埋め、甘えるように抱きつきながら。
先に寝ちゃったせいで、眠れなかったのかもしれない。
ごめんねとそっと頭を撫でていると、グランが目を覚ました。
金色の瞳がゆっくりと開かれ、俺をとらえる。
「おはよう、トモル」
「おはよ。先に寝ちゃってごめんね」
「気にするな……」
まだ完全に起きていないのか、ぼんやりしている。
「まだ寝てても大丈夫だよ」
「今朝も、一緒にごはんを食べてくれるか?」
瞼が重そうに閉じかけている。
「グランがいいなら、ご馳走になるよ」
「良かった……用意させよう。ーーだが、もう少しこのままでもいいか?」
「うん。まだ眠い?」
「もう少し、トモルに甘えたい」
「いいよ」
髪を梳かすよう撫でていると、グランが寝息を立て始めた。
また呼んでくれる、かな……?
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