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本編
六夜ー7 3連泊、楽しもうね
しおりを挟むバスルームもパステルピンクのタイルが使われており、かなり可愛らしいテイストだ。
ふんわりと甘い香りも漂っているなと浴槽を見ると、白とピンクの薔薇がたくさん浮かんでいた。
「薔薇風呂……あ、でも、花ごと浮かべてるんだ」
「これはかわいらしいな」
グランは物珍しそうに浮かんでいる花をつついている。
真紅の花びらならちょっと引くけど、この薔薇は香りもいいし、何より艶っぽさがなくていい。
「そうだね。真紅の薔薇ならいかにもって感じだけど、これなら可愛い」
「いかにも?」
「ラブホっぽいなと思って」
「らぶほ……?」
ラブホテルは通じないよね。えっちなことする宿だと言って、藪蛇にならないように遠回しに説明する。
「……恋人向けホテルのことかな」
「恋人ということはつまり」
「友達同士でも泊まるし、恋人限定ってわけじゃないけど。とにかく、体洗って入ろう。背中流す?」
グランが核心をつきそうな気配を感じて早口で捲し立て、持ってきていたスポンジを手に取った。
「今夜は私にさせてくれないか」
「じゃあ、順番に洗いっこしよ。まずは俺が洗うからグラン、イスに座って?」
備え付けのパステルピンクの椅子にグランを座らせ、背中に泡立てたスポンジを滑らす。
凛々しい美形にファンシーな椅子はチグハグだけど、これはこれで可愛いなと思えるから重症だ。
可愛い時も、かっこいい時も、弱ってる時も、ボロボロな時も、甘えたな時も、どんなグランもそれぞれ魅力的で困る。
一緒にいて新しい面を知るたびに好きになっていく。明日も明後日も、一緒にいればいるほど想いは募って行くんだろう。
その分、別れがつらくなるってわかっているのに。
ため息を飲み込み、泡を洗い流す。スポンジをグランに渡し、背中以外を洗っているうちに髪を洗おうと声を掛けた。
「ついでに頭も洗うから髪解くね」
「あぁ、頼む」
ブラシを通す銀糸は艶やかで櫛通りがいい。初めて会った時はボサボサでブラシが何度も引っかかったのに今はちゃんと手入れされている。泡立ちもいい。
「初めて会った時に比べてかなり綺麗になったね」
「トモルのお陰だな。髪もだが、顔色が良くなったと言われるようになった」
グランはそう言ってくれるけど、俺がしたことなんて殆どない。たまに来て、髪を洗って一緒に寝てご飯を食べただけ。グランの日常を支えているのは俺じゃない。
「違うよ。それは料理長さんとかキリノさんとか周りの人と、グラン自身が頑張ったからだよ」
頭皮を優しくマッサージしながらグランを支えてくれる人たちを思う。特に俺の提案のせいで料理長は仕事が増えて大変だったろう。
「お礼はその人たちに伝えて」
「それはもちろんだが、きっかけをくれたのはトモルだ」
身体を洗い終えたグランが俺を探すように手を伸ばす。その手にそっと触れた。
「そうだったら、嬉しいな。グランが元気になる助けになってたなら何よりだよ」
「心身だけじゃない。トモルが来てくれるようになってから、周囲との関係もよくなった」
再び伸びてきた手を躱し、桶に湯を汲んだ。
「それは流石に褒めすぎかな。ーーお湯、流すよ」
髪だけでなく全身の泡を流し終えると、グランの腕に捕まった。
「褒め足りないぐらいだ。ーーところで、そろそろ交代してくれるか。私もトモルに触りたい」
「触るんじゃなくて、洗うんだよ?」
「任せてくれ。トモルがしてくれたみたいに気持ち良くできるよう頑張るつもりだ」
俺がいやらしいことしたみたいな言い方やめて。
一抹の不安を覚えながらも大人しく椅子に腰掛けた。
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