謀殺された悪役令嬢は、前世の護衛騎士の幸せを見届けたい

うづき

文字の大きさ
16 / 63

5-1.屋根の補修

しおりを挟む
 昼前にこっそりと救民院に姿を現し、ネリーは周囲を見渡す。人影が無い事を確認してから、ネリーは穴の空いた屋根から陽が落ちる椅子に腰を下ろした。木漏れ日のおかげか、椅子は僅かにあたたかい。
 ネリーがここへ来はじめて、そしてセレストと約束をしてから、一ヶ月。つまりは補修を始める、と約束した月がやってきたわけである。

 今日のために、ネリーは先んじていくつかの候補を絞っておいた。屋根を補修する、と一口に言っても、やりようは沢山ある。
 デイラシアの家の屋根は、木を組み立てた上に天然の石を薄く切ったものを乗せていく。人によってはここでデザインに凝り、色の付いた石を並べるなどして明るくするのだが、それは貴族や、金を持ち余している商家がすることである。
 一般市民の多くは、安価で手に入る石を屋根材として使う。

 救民院は、ロゼが色々とこだわって建てた場所だ。子どもが入りやすいように扉の木材は軽く、そして飾り窓をつけて外からの光を取り入れる。過ごしやすいように中の家具にもこだわって、経年劣化が少ないものを選んだ。
 ただ、風雨にさらされる、ということを一切考えていなかったので、今思うと雨風に強い素材を選んで家具などを選ぶべきだったかもしれない、と思う。

 まさかここまで荒廃するとは思って居なかった、と言うのは言い訳のようになってしまうだろう。王家の手に渡り、ロゼの死後も、公共の福祉事業として継続されると思っていたのだ。見通しが甘かったと言わざるを得ない。
 ロゼは悪役である。少なくとも、王太子や王家の筋書きでは、そうなっている。そんな存在が、市民のために識字率向上のための施設を運営していた、という事実は公にすることを許されない。

 だって、悪役なのに、どうしてそんなことをしていたのか、という話になるからだ。

 ぼんやりと考えていると、視線の先、少し古びた扉が軋みながら開く。ゆっくりと顔を出すのは、セレストだ。セレストはもう、ネリーが居ることに一切驚かなくなってしまって、視線が合うと『今日も居るんだな』と思っているような顔をする。
 セレストの日常に上手く入り込めているようだ。このまま、幸せになるまでをしっかりと傍で見守りたいものだ、なんて考えながら、ネリーは椅子を降り、セレストの傍に駆けるように近づく。

「騎士様! 今日で一ヶ月です!」
「え?」
「騎士様が、来月、補修を始めると言った日から!」

 唐突に紡いだ言葉に、一瞬セレストは理解が追いつかなかったのだろう。呆けたような顔をして、それから「――ああ、そうか」と小さく頷いた。

「確かに、……君の言うとおりだな。律儀に待っていてくれたのか?」
「それはもちろん。騎士様のお心の準備だって必要だろうと思って、ずっと待っていました」
「君は時々、変な気の回し方をするな」

 セレストは呆けたように――けれど、少しばかり感心したような様子で、小さく頷く。それから、ゆっくりと視線を上げた。同じようにネリーも顔を上げる。その先には、屋根に空いた穴がある。
 屋根を支えていたであろう木材が、腐ったのか、朽ちたのか、それとも――色々と理由はあげられるだろうが、とにかく屋根には穴が空いている。早急に手を打つべきところだろう。

「私は沢山の人に聞いて、屋根の補修のことについて、調べました。かかる金額や、利点、そして欠点を!」
「行動力があるな」
「褒めて頂けて嬉しいです。それでですね、流石に騎士様に全てを負担させるのもなんなので、私も金銭を用意してきました!」

 ネリーは胸を張る。そう、ネリーには前前世の記憶がある。つまり、ファタールの天秤を楽しみ、やりこんでいた、一般人女性としての記憶と知識が。
 設定資料集を熟読し、文字を舐めるようにキャラクターのプロフィールを閲覧していた日々が、今になって日の目を見た。つまり、ネリーは、このデイラシアに生きる人々の誰よりも、デイラシアの地理に詳しいのである。

 デイラシア国内で希少な薬草が採れる場所や、希少な鉱物が採掘される場所、精霊の宿った指輪など、そういったものがどこにあるかを知っている。なので、今回はその知識をフルに活用し、いくらかの金銭を作ってきたのである。

(ロゼの時に、何か残せていたら良かったんだけどなあ)
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

処理中です...