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5-1.屋根の補修
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昼前にこっそりと救民院に姿を現し、ネリーは周囲を見渡す。人影が無い事を確認してから、ネリーは穴の空いた屋根から陽が落ちる椅子に腰を下ろした。木漏れ日のおかげか、椅子は僅かにあたたかい。
ネリーがここへ来はじめて、そしてセレストと約束をしてから、一ヶ月。つまりは補修を始める、と約束した月がやってきたわけである。
今日のために、ネリーは先んじていくつかの候補を絞っておいた。屋根を補修する、と一口に言っても、やりようは沢山ある。
デイラシアの家の屋根は、木を組み立てた上に天然の石を薄く切ったものを乗せていく。人によってはここでデザインに凝り、色の付いた石を並べるなどして明るくするのだが、それは貴族や、金を持ち余している商家がすることである。
一般市民の多くは、安価で手に入る石を屋根材として使う。
救民院は、ロゼが色々とこだわって建てた場所だ。子どもが入りやすいように扉の木材は軽く、そして飾り窓をつけて外からの光を取り入れる。過ごしやすいように中の家具にもこだわって、経年劣化が少ないものを選んだ。
ただ、風雨にさらされる、ということを一切考えていなかったので、今思うと雨風に強い素材を選んで家具などを選ぶべきだったかもしれない、と思う。
まさかここまで荒廃するとは思って居なかった、と言うのは言い訳のようになってしまうだろう。王家の手に渡り、ロゼの死後も、公共の福祉事業として継続されると思っていたのだ。見通しが甘かったと言わざるを得ない。
ロゼは悪役である。少なくとも、王太子や王家の筋書きでは、そうなっている。そんな存在が、市民のために識字率向上のための施設を運営していた、という事実は公にすることを許されない。
だって、悪役なのに、どうしてそんなことをしていたのか、という話になるからだ。
ぼんやりと考えていると、視線の先、少し古びた扉が軋みながら開く。ゆっくりと顔を出すのは、セレストだ。セレストはもう、ネリーが居ることに一切驚かなくなってしまって、視線が合うと『今日も居るんだな』と思っているような顔をする。
セレストの日常に上手く入り込めているようだ。このまま、幸せになるまでをしっかりと傍で見守りたいものだ、なんて考えながら、ネリーは椅子を降り、セレストの傍に駆けるように近づく。
「騎士様! 今日で一ヶ月です!」
「え?」
「騎士様が、来月、補修を始めると言った日から!」
唐突に紡いだ言葉に、一瞬セレストは理解が追いつかなかったのだろう。呆けたような顔をして、それから「――ああ、そうか」と小さく頷いた。
「確かに、……君の言うとおりだな。律儀に待っていてくれたのか?」
「それはもちろん。騎士様のお心の準備だって必要だろうと思って、ずっと待っていました」
「君は時々、変な気の回し方をするな」
セレストは呆けたように――けれど、少しばかり感心したような様子で、小さく頷く。それから、ゆっくりと視線を上げた。同じようにネリーも顔を上げる。その先には、屋根に空いた穴がある。
屋根を支えていたであろう木材が、腐ったのか、朽ちたのか、それとも――色々と理由はあげられるだろうが、とにかく屋根には穴が空いている。早急に手を打つべきところだろう。
「私は沢山の人に聞いて、屋根の補修のことについて、調べました。かかる金額や、利点、そして欠点を!」
「行動力があるな」
「褒めて頂けて嬉しいです。それでですね、流石に騎士様に全てを負担させるのもなんなので、私も金銭を用意してきました!」
ネリーは胸を張る。そう、ネリーには前前世の記憶がある。つまり、ファタールの天秤を楽しみ、やりこんでいた、一般人女性としての記憶と知識が。
設定資料集を熟読し、文字を舐めるようにキャラクターのプロフィールを閲覧していた日々が、今になって日の目を見た。つまり、ネリーは、このデイラシアに生きる人々の誰よりも、デイラシアの地理に詳しいのである。
デイラシア国内で希少な薬草が採れる場所や、希少な鉱物が採掘される場所、精霊の宿った指輪など、そういったものがどこにあるかを知っている。なので、今回はその知識をフルに活用し、いくらかの金銭を作ってきたのである。
(ロゼの時に、何か残せていたら良かったんだけどなあ)
ネリーがここへ来はじめて、そしてセレストと約束をしてから、一ヶ月。つまりは補修を始める、と約束した月がやってきたわけである。
今日のために、ネリーは先んじていくつかの候補を絞っておいた。屋根を補修する、と一口に言っても、やりようは沢山ある。
デイラシアの家の屋根は、木を組み立てた上に天然の石を薄く切ったものを乗せていく。人によってはここでデザインに凝り、色の付いた石を並べるなどして明るくするのだが、それは貴族や、金を持ち余している商家がすることである。
一般市民の多くは、安価で手に入る石を屋根材として使う。
救民院は、ロゼが色々とこだわって建てた場所だ。子どもが入りやすいように扉の木材は軽く、そして飾り窓をつけて外からの光を取り入れる。過ごしやすいように中の家具にもこだわって、経年劣化が少ないものを選んだ。
ただ、風雨にさらされる、ということを一切考えていなかったので、今思うと雨風に強い素材を選んで家具などを選ぶべきだったかもしれない、と思う。
まさかここまで荒廃するとは思って居なかった、と言うのは言い訳のようになってしまうだろう。王家の手に渡り、ロゼの死後も、公共の福祉事業として継続されると思っていたのだ。見通しが甘かったと言わざるを得ない。
ロゼは悪役である。少なくとも、王太子や王家の筋書きでは、そうなっている。そんな存在が、市民のために識字率向上のための施設を運営していた、という事実は公にすることを許されない。
だって、悪役なのに、どうしてそんなことをしていたのか、という話になるからだ。
ぼんやりと考えていると、視線の先、少し古びた扉が軋みながら開く。ゆっくりと顔を出すのは、セレストだ。セレストはもう、ネリーが居ることに一切驚かなくなってしまって、視線が合うと『今日も居るんだな』と思っているような顔をする。
セレストの日常に上手く入り込めているようだ。このまま、幸せになるまでをしっかりと傍で見守りたいものだ、なんて考えながら、ネリーは椅子を降り、セレストの傍に駆けるように近づく。
「騎士様! 今日で一ヶ月です!」
「え?」
「騎士様が、来月、補修を始めると言った日から!」
唐突に紡いだ言葉に、一瞬セレストは理解が追いつかなかったのだろう。呆けたような顔をして、それから「――ああ、そうか」と小さく頷いた。
「確かに、……君の言うとおりだな。律儀に待っていてくれたのか?」
「それはもちろん。騎士様のお心の準備だって必要だろうと思って、ずっと待っていました」
「君は時々、変な気の回し方をするな」
セレストは呆けたように――けれど、少しばかり感心したような様子で、小さく頷く。それから、ゆっくりと視線を上げた。同じようにネリーも顔を上げる。その先には、屋根に空いた穴がある。
屋根を支えていたであろう木材が、腐ったのか、朽ちたのか、それとも――色々と理由はあげられるだろうが、とにかく屋根には穴が空いている。早急に手を打つべきところだろう。
「私は沢山の人に聞いて、屋根の補修のことについて、調べました。かかる金額や、利点、そして欠点を!」
「行動力があるな」
「褒めて頂けて嬉しいです。それでですね、流石に騎士様に全てを負担させるのもなんなので、私も金銭を用意してきました!」
ネリーは胸を張る。そう、ネリーには前前世の記憶がある。つまり、ファタールの天秤を楽しみ、やりこんでいた、一般人女性としての記憶と知識が。
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