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サファスレート王国の婚約事情(2)
ジークハルト(3)
しおりを挟むヴァレンティーナを救うためにも、無能な第二王子を演じ、婚約破棄しなければならないと決意したのが、十一歳のとき。
改革派の貴族が、保守派やデジュネレス公爵派と水面下で政争を繰り広げていたため、無能の第二王子という悪評が流れたぐらいでは婚約破棄にはならなかった。
サファスレートの発展のためなら古いしきたりなど壊してしまいたい改革派にとって、デジュネレス公爵は目の上のたんこぶであり、排除したい人物であったからだ。
ヴァレンティーナがレオンハルトの婚約者になり、デジュネレス公爵がさらに力を持つことに危機感があったのだと思う。
一見、デジュネレス公爵と結託してるかのように見える保守派も、一枚岩ではないようだった。
それぞれの派閥、それぞれの家に思惑があり、水面化での攻防は激しさを増していった。
当時、その内容を詳しく知っていたわけではなかったけれど、大人たちの内緒話を繋ぎ合わせれば、そのぐらいの予想はできた。
その一方で、レオンハルトの婚約者探しはますます難航していた。
それならばと、ヴァレンティーナを娶るようレオンハルトに直訴してみたものの、頑なに固辞されてしまったのが十二歳のとき。
父王が、デジュネレス公爵派と保守派の貴族たちに、王家のさらなる安定のためという理由で無理やり妾を抱えさせられたのが十三歳のとき。
父王の体調の悪さを隠すため、敢えて妾を受け入れたようだった。父王だけでなく、レオンハルトにとっても苦渋の決断だったようだ。
妾を持てるくらい健康であるというアピールだったようだ。むしろ、そうしなければならないほど追い込まれていたとも言える。
この時ばかりはジークハルトも神経をすり減らした。
レオンハルトは立太子していないため、父王に何かあれば国が混乱することは明らかだったからだ。
父王の側近たちが、ジークハルトの寝所に父王の妾を通し、貞操が危うくなったのが十四歳のとき。
このころ、ヒースと二人で異国の武道と呼ばれる書物に夢中になっており、相手の力を使いながら逆に相手の手首を捻るという技に夢中だった。
咄嗟に妾の手首を捻り上げることができたのは、武道のお陰だったといえる。共に技の鍛錬をしてくれたヒースには感謝してもしきれない。
手を縛られたり、意識を飛ばす薬を嗅がされたり飲まされたりしていたら、どうなっていたか。今でも思い出すたび身の毛がよだつ。
デジュネレス公爵たちは初めから、父王の妾としてではなく、ジークハルトと恋仲にさせる計画だったようだ。亡き母を愛していた父王が、妾をお飾りにすることは容易に想像ができたからだ。
王家のさらなる安定などという建前など、まったく信じてはいなかったが。
これまで以上に誰も信用できなくなった。
父王の妾に手を出した第二王子という醜聞を理由に、ジークハルトとヴァレンティーナの婚約を破棄させ、レオンハルトと婚約させようとしたのだろう。
実にデジュネレス公爵らしい、厭らしい計画だ。父王が断れない時期を狙ったのは流石とも言える。
しかし、妾の容姿がヴァレンティーナに似ていたのはいただけない。
若いジークハルトなら、すぐに陥落すると思っていたのだろう。それこそ、見込み違いというもの。
ヴァレンティーナとジークハルトは戦友と呼ぶのが相応しい間柄だった。
もしも、ヴァレンティーナと恋仲であったとするならば、なおさら妾に手を出すなどありえないのだが。
偏った考えの人物は、ときおり突拍子もない計画を立てるものである。
そこまでするなら毒でも盛ればよいものを、などと当時は思ったりしたものだが。
王子のスペアとしては、生かしておきたかったようだ。
難儀なことだと思う。
ヒースを通してこっそり騎士団に混ざり、剣術と護身術を学んだのが十五歳のとき。
演じることに慣れてはいても、疲労は少しずつ溜まっていった。
この時には、レオンハルトが婚約者を探していないことにも気付いていた。ヴァレンティーナとジークハルトの婚約を継続させようと奮闘しているのだということも。
絡み合う思惑の中で、互いの愛情が邪魔をして状況は悪化した。
何もかもが手詰まりに感じ、鬱々とする日々の中、アルフレッドやリアム、そしてヒースが傍にいてくれたことが嬉しかった。
ジークハルトの評判を上げようと奮闘してくれていた彼らの友情に、報いることはできなかったけれど。
父王の妾が父王の護衛騎士と駆け落ちしたのが十六歳のとき。
父王の体調が回復を見せ始め、公務に復帰し始めたのが十七歳のとき。
ヴァレンティーナをレオンハルトの婚約者にできたのが十八歳のとき。
ほどなくして父王が、完全に公務に復帰できるようになった。
留学を目前に控え、ようやく肩の荷を下ろすことができた。
婚約破棄騒動を、見事に演じ切ってくれたヴァレンティーナ、アルフレッド、リアムには感謝しかない。ひたすら傍にいてくれたヒースも、黙っているのが苦手なはずのマーガレットも、ずいぶん我慢してくれたようだ。
気付かないフリをしてくれたエミーリアにも、不安にさせてしまったであろうアリシアにも謝罪したかった。
そして。
ヒースとマーガレットを引き裂いてしまったこと、マリアを巻き込んでしまったことは、私の罪だと思った。
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