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親世代の奮闘
ブレイデン(5)
しおりを挟むファミーユ商会の裏路地にある空き店舗内で、クレイグと共に待機していた。
いい天気だが、使われていない部屋特有の薄暗さがある。しばらくしてマクスウェルと共にヒースが入って来た。デオギニアから帰国したばかりだというのに、もうアルフレッドにこき使われているらしい。
「久しぶり。元気そうだな」
声をかけると、綺麗な礼をしながらヒースはにこやかに笑った。
「お久しぶりでございます」
「帰国したばかりだろうに。悪いな」
「いいえ。慣れてますから」
「グラント公爵は宰相より人使いが荒いからなぁ?」
笑って言えば、頷いてブレイデンの向かい側の席に座った。その背後にマクスウェルが立った。
「情報通りであれば、今日取引があるはずなんだが」
窓の外に視線を向ければ、ちょうどそこへ古びた馬車が横付けされた。
窓際に控えていたクレイグに合図を送る。頷いたクレイグは、素早く表へ出ると馬車のほうへ向かった。他にも待機させていた三人がクレイグに続いて馬車付近を取り囲む。それを確認したあと、ポケットから出した耳飾りをヒースに見せた。
「来てくれて助かった。これがデオギニアから持ち込まれた物だという調べはついたのだが」
小さなリボンの形をした耳飾りで、サファスレートでは見ない珍しいデザインだ。非常に軽く、偽物であることはあきらかだ。
「え、これは……」
目を見開いたヒースが、ブレイデンから受け取った耳飾りを手の平に乗せて困惑していた。
その様子をマクスウェルも興味深そうに見つめていた。
「これは、私の妻がデザインしたものだと思います」
「部下の話では、デオギニアでいま人気のある、若者向けのお店のものだという報告が入っているのだが」
マーガレットがミユのファンなので、新作のチェックは欠かさない。このようなデザインの耳飾りはなかったはずだ。若者向けのデザインも手がけてるとは聞いてはいたが、そちらの物だろうか。ナターシャまでこんな才能があったとは。
「はい。実は、このお店の代表者には妻の名前が記載されておりまして。しかも旧姓なので知らない人も多い話です。服にはちゃんとミユ様のブランドロゴが入っているのですが、仕入れているのだと思ってる人が多いらしくて。装飾品のデザインは妻が手がけているのですが、こちらは先日出したばかりの新作です。どうやってこれを?」
「マクスウェルの娘のケイシー嬢が客のフリをして潜入してくれてね。売りつけてくるかは賭けだったんだが、うまくいった。銀貨三十五枚を請求されたよ」
「それは通貨の価値を考慮しても高いですね。デオギニアの庶民の若い女の子がギリギリ買える値段設定なので、デオギニア銀貨で一枚です。主に加工料ですね。複雑なデザインが多いので、これ以上は下げられないのですが、それでも飛ぶように売れますよ」
「これが本物の金であれば、確かに破格なんだが、いかんせん軽いな」
サファスレートの貴族の令嬢は、親の金で値段も知らずに本物を着けているが、触れば偽物とわかるだろう。
相手をよく見て売りつけているということか。
「長時間着けても耳が痛くならないように、わざと軽く作ってるんですよ」
「そうなのか?」
「はい。今回、陛下からデオギニアの商品が不当な値段で転売されているかもしれないという知らせを受けて、急遽ジークと共に帰国したのですが……まさか妻の商品だとは。デオギニアには他にもこういったイミテーションと呼ばれる装飾品が多く売られているんです。主に店主が前世持ちであることが多いのですが、そちらの店の物のほうが重く、本物と見分けがつかないことが多いので、てっきり彼らの商品の転売だと思っていたのですが」
「最初はそういう店の物を売っていたのか、もしくは今も混ぜて売っているのか。どちらにせよ、デオギニアの商品で間違いなさそうだな」
「はい。前世持ちの方の商品ですと、一瞬では偽物とわからないものが多いです。それだけに妻の店の商品よりも高いですが、より、バレにくいでしょう」
「なるほどな。そちらだけにしておけばよかったものを、上手くいきすぎて調子に乗ったか?……ん? アレは誰だ!?」
ブレイデンが指さした方角を、マクスウェルとヒースが素早く見つめた。
口元を押さえられ、馬車に誰かが引きずり込まれたようだ。チラリと見えた髪は金色で、貴族の令嬢のように見えた。
「顔までは見えなかったな」
合図をして、見張りの部下を呼び寄せた。クレイグは既に先ほどの古びた馬車を三人の部下と共に追ってしまっている。
「いま連れていかれた令嬢の名はわかるか? 明らかに貴族だっただろう?」
「すみません、名前までは。金髪に緑色の瞳の可愛らしい女の子でした」
「まさかフローラ嬢?」
「いえ、遠かったので、はっきりとはわかりませんが、違うのではないかと」
フローラよりも濃い金髪に見えたので、違うとは思うが。
「今日はフローラ嬢はアレンと共にルーズヴェルト侯爵家の屋敷にいるはずだが、万が一ということもある。一応、見て来てくれるか? アレンと、シリルもいればその旨、伝えてくれ」
「かしこまりました」
「待て、一人で行くな」
慌てて出て行こうとする部下を引き留め、ヒースを見た。
「すまない、一緒にルーズヴェルト侯爵家へ行ってもらえるか? 部下だけだと、信用してもらえない可能性がある。門前払いは喰らいたくない。その点、ヒースなら侯爵家の執事とも面識があるだろう?」
「はい、大丈夫です。承知しました。フローラ嬢の安全の確認をしたらその後は?」
「宰相の執務室で合流しよう」
ヒースは頷き、素晴らしい速さで出て行った。デオギニアに拠点を移しても、騎士として衰えてはいないようだ。ヒースは強く美しく、しなやかに成長していた。それを、誇らしく感じる。
――護る場所が違っても、我々はサファスレートの騎士だ。
チラリと視線を送り、グレーの瞳をギラつかせたマクスウェルと共に馬車を追うことにする。
部下との連絡用の通信機器を作動させながら移動した。ブレイデンの位置を知らせる物で、赤く点滅させたときは、緊急事態、集合の合図となる。
持ち場での任務が終わったものや、緊急性の低い案件の者などがブレイデンの元に集結することになっている。
令嬢の誘拐は急なことだったようで、馬は途中の道でいう事を聞かず、立ち止まってはしきりに首を振っていた。
馬車はその後、なんとか発車したものの、再び馬が首を振り始めた。
馬は賢い。
いつもならもう少し休めるという時間に出ようとするならば、抵抗もされるだろう。
馬を何度もなだめながらようやく辿り着いた場所は、ファミーユ商会の持ち物にしては古びた建物だった。今までの調査上では浮かんでこなかった場所だ。
元スラム街であり貴族が立ち寄る場所ではない。スラム街の中でも、特に治安が悪かった地区だ。ファミーユ商会が拠点とするには不自然だろう。
「入りましたね」
マクスウェルは瞬きせずに建物を観察していた。
「潜入の許可を」
中にいる人数が確認できない。本来なら潜入はさせないのだが、令嬢の安否が気になる。
「隠し武器と録音機器は持ってるか?」
「はい」
「無理はするな。令嬢の安全と、敵の人数を把握したら、すぐに戻れ」
マクスウェルは頷き、気配を消して建物の裏口へと回って行った。
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