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1ー1
しおりを挟む「ほら、口を開けて」
「んっ」
頭の後ろを片手で支えながら器用に水を飲ませた男はにんまりといい笑顔で笑った。
身支度を済ませている男の硬い騎士服の袖が顔に触れる。
不快感から苦虫を噛みつぶしたような顔をすれば、あやすように頬を撫でられた。
「俺は仕事に行くけど、ミシェルはゆっくり休んでから出るといい」
男はご丁寧に、起こされたせいではだけたミシェルの胸元に柔らかな布をまとわせた。そのあまりの優しい手つきに、だったらなぜもっと手加減できないのかと文句を言いたくなる。
事後の気怠さに、普段の仕事ぶりからは想像もつかないほど緩慢になるミシェルを見るのが、この男――レイモンドの悦びであることは知っていたが。
(本当、意地悪)
悔しくてたまらない。
起き上がって出仕するレイモンドと一緒に邸を出ようと、いつか出てやろうと、そのとき、どんな顔をするのだろうと、そう思い続けて四年も経ってしまった。
(そろそろこの関係も、潮時よね……)
ミシェルは、非常に女らしい体つきのせいで十代のころから無駄に言い寄られることが多かった。
女性の文官の数が少ないこともあって、ただでさえ目立つというのに、胸元が詰まった文官用の制服は、豊満な肉体を隠してはくれなかった。むしろ隠しているせいで、かえって強調していていやらしいとか、それで男を誘ってるなどという不名誉な噂がまことしやかに囁かれる始末。
そんな声にもすっかり慣れてしまい、否定するのもバカらしくなっていたころ、勘違いした男に妾にしてやると夜会の控室に連れ込まれそうになった。
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