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しおりを挟む目を見開いて、厚い胸元を押しやる。
ピクリともしない厚い体に目が回りそうだった。
「なっ、なにを……なさるんですか……!!」
ようやく顔が離れ、息も絶え絶えになりながら睨むようにしてレイモンドを見上げる。
「助けていただいたことには感謝いたしますが、何もここまですることはっ……」
キスすら初めての経験なのに、こんな濃厚な、身体をあばかれているような感覚のものは知らない。
ミシェルは震える身体を抱きしめた。
それは先ほどの子息に手を取られたときのような震えとは違う、知らない類のものだった。
「嫡男があんな態度に出られるぐらいエスコラ侯爵の力は強い。いずれ国母の父ともなれば、君を邸に囲い、親子二人の性奴隷なんて未来もたやすいほどにな?」
そんなわけない、などという軽口は、いくら男性に交じって負けん気だけで文官を続けるミシェルでも叩けなかった。むしろ、現実を突きつけられたような面持ちになり、首を垂れないようにするのが精一杯だった。
先ほどの子息の父、エスコラ侯爵の評判は、末端貴族のミシェルの耳にも入っている。
評判の悪い王太子に嬉々として娘を差し出すような人物だ。ミシェルのことなど、道端に生えた草ぐらいの扱いをするだろう。
悔しくて唇を噛み締めていると、レイモンドがふと息を漏らすように笑った。
「好い顔だな」
「笑っている場合ですか!? 貴方こそ、あんなことを言って無事で済むと!? いくらお兄様が近衛騎士副団長で弟君が次期宰相筆頭で、貴方自身も騎士団第二隊長のレイモンド・カヌレ様だとしても!!」
「心配してくれんの? 優しいねぇ?」
レイモンドはからかうようにミシェルの頬を撫で、その手を首筋に這わせてきた。
ぞくぞくとした、不思議な震えが止まらない。
「やめてください」
「さっきはあんなに熱烈だったのに」
「それは貴方が!!」
「レイモンド」
「レイ……カヌレ卿が突然」
「カヌレ卿は王宮に多すぎるんだよ。父や兄、弟だっているし、そのうち甥も騎士団入りするだろう? だから皆レイモンドって呼ぶし、君だって威勢よく騎士団に来ては、やれこんな領収書は落ちないだとか、読めない字で収支報告書を出すなとか言いに来るときはレイモンド卿と叫んでいるじゃないか」
「それは「それに、すでに遅いよ。俺たちのことは、通りすがりの噂好きの貴族たちが吹聴して回っているころだ。そう思わせたほうがいい。君にまとわりつくハエどもを追っ払うにもいい機会だ」
「ハエ……」
「違うか? 俺なら君を守れる」
「自信家ね」
「そうでなければカヌレ伯爵家では生き残れない」
「まぁ……」
由緒正しく王家からの覚えもめでたいカヌレ家のご子息らしいことだとミシェルはため息をつきながら思った。
カヌレ伯爵家には、三人の子息がいる。
三人共、見目も肩書きも大層派手な上に皆が揃いも揃って有能。城で知らぬ人はいないほどの有名人だ。
そしてなぜか兄弟仲が悪い。
特に長男と三男が水と油のカヌレ兄弟として有名で、その争いごとに巻き込まれた人は皆、二度と関わりたくないとこぼす。
(次男のレイモンド卿が一番大人しいとか言ってたのは誰よ!?)
挑発的な視線をレイモンドから感じて、思わず身をすくめた。
体は三兄弟の中ではレイモンドが一番大きい。纏う覇気やオーラは三男が一番怖いが……。
(子息もレイモンド卿の女と勘違いしてくれたから、あっさり引き下がったのかも……カヌレ兄弟を敵に回してもいいと考えるほど馬鹿ではなくてよかった……)
実際、助けてもらわなければ、それこそハエのような子息に純潔を散らされていたことだろう。
どんなにヒョロく見えても、相手は男だ。長引けば力で負けてしまうだろう。
「助けてくださったことには感謝いたします」
「うん」
「ですが、」
「ストップ。悪いけど、話は後で。俺のこれ、ちょっとおさまりそうにないんだよね」
涼しい顔をしているくせに、ミシェルの腰に下半身を押し付けてくる。
「何を、」
して――
続く言葉は、強引なキスで塞がれた。
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