【完結】オトナのお付き合いの彼を『友達』と呼んではいけないらしい(震え声)

佐倉えび

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(食堂でうっかり友達なんて言っちゃったのは大失敗だったわ……)

 そもそも本当にただの友達なら『わからせ』なんて言葉が出たところで怯えないでしょう?と、ロザリーに後から言われて初めて恋人だったのかも、なんて思ったぐらいだ。

 自分の鈍感さに泣きたくなったが後の祭りである。
 いつか別れなければと強く思い込み、本当は別れたくないのに諦める準備ばかりしていて、レイモンドが真剣な話をしようとするたびに逃げていたのだ。

(お父様から逃げてきて、今度はレイモンドとの関係から逃げようとして、勝手に拗ねて『友達』なんて言ったから、自業自得なのに……私はまたレイモンドのことをどエスだとか意地悪だとか言って……本当に嫌になる)

 お友達発言を聞いたレイモンドは、嬉々としてミシェルの実家に婚約を申し入れ、婚約が成立した後からは、清いお付き合いをしている――つまり、ミシェルはレイモンドと長らくご無沙汰なのである。

「俺たちは長らく『友達』だっただろう? そろそろ両親も結婚しろと煩いし、俺は結婚するなら絶対ミシェルがいいって思ってたんだよね。だから婚約を受け入れてくれて嬉しいよ。これから少しずつお互いのことを知っていこう。ミシェルが本音で話せるような夫に、俺はなりたいからね?」

 ミシェルの手を恭しく口元へ運び、指先に触れるだけのキスをして寮の部屋へと送り返された。
 父が帰ったのでレイモンドの私邸に招かれると思っていたミシェルは肩透かしをくらった。
 唖然としてレイモンドを見上げるミシェルを置き去りにして、貴公子然とした彼はいい香りだけを残して去って行った。

「えーっと、つまり欲求不満?」

ロザリーは容赦がなかった。

 でも誰かに聞いてもらわなければレイモンドをどこかで押し倒してしまいそうな自分がいた。だからそうなる前にロザリーを食事に誘った。もちろんミシェルのおごりで。

 長らく躾けられた身体がレイモンドを求めてしまう――なんて話は他の人にはとてもできない。

「そんなんでよくレイモンド卿のことを友達とか言ったわね、あなた」
「言わないで。自分が一番わかってるから!!」

 両手で顔を覆い、羞恥に耐えた。

「でもさ。そうやって私に吐き出してくれて、私はちょっと嬉しいかな」
「え?」

 ハッとして顔を上げると、ロザリーはシチューを口に含んで照れたように笑っていた。

「私なんか平民なのに、ミシェルはそんなの気にしないで仲良くしてくれてさ。ミシェルは知らないだろうけど、平民イジメって多いのよ。でもミシェルは貴族なのにそんなこと絶対にしなかったし、私がこんな口調で話しても怒らないし。それだけで十分ありがたいことなのに、ちょっと贅沢になっちゃって、ミシェルに相談とかされてみたいなぁなんて、思ってたんだよね」

「そんな風に思ってくれてたなんて、全然知らなかった」
「ミシェルって鈍感だもんね」
「そんな……それは……最近ちょっとそう思うこともあるけど……」
「じゃあ、今の室長がミシェルのこと狙ってるの知ってた?」
「ハァ??」
「やっぱり気付いてない。あんなにあからさまなのに」
「だって室長には奥様が、」
「ねぇ、ミシェル。あなた本当に貴族?」
「失礼ね! 商家より貧乏な末端貴族よ!」
「じゃあ、シモーナがレイモンド卿を狙っていて、あなたにいつも意地悪してたのは知ってる?」
「……なんのこと?」
「ほらね、鈍感じゃない」

 シモーナとは王太子付きの侍女である。

「ギリギリに予算案を持ってきて、しかも間違えている個所をミシェルのせいにして、全部ミシェルに修正させてたでしょ?」
「書類を間違えて書く人なんてたくさんいるし、それを教えてあげるのは私の仕事だし。わからないときって余裕をなくすから、誰かのせいにしたくもなるじゃない?」
「そういうところよ」
「そういうところが何よ」
「私やレイモンド卿みたいな、性格の悪いタイプには眩しくて愛おしいのよ。時々意地悪したくなるぐらいね?」
「全然褒められてる気がしないんだけど」
「同時にとても心配になるわ。こんなに真っすぐで大丈夫なのかなって。そういうことだから、せいぜい火照った身体を存分に持て余しておきなさい」
「何よそれ、私がまるで淫乱みたいじゃない!」
「違うの?」
「違っ……!! んーーーーーーー!?」

 ミシェルは頭を抱えた。

 違うとは、言い切れないと思ってしまったからだった。



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