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しおりを挟むしかも当のロジェは剣にこだわりはなく、成長するにつれ体術のほうへ転向してしまったし、さらさら騎士になるつもりなどないわけで。
そもそも、ロジェの剣はあまりにも老成しており、言うならば父と剣を交えたときのような威圧感すらあり、騎士団にいたらさぞかし浮いていたことだろう。
(天才、とも違うんだよなぁ……)
それについては深く考えないことにしている。無駄だからだ。ロジェは決して必要以上の情報を家族にも漏らさない。そして、家族に頼るということもないロジェが、第二隊にと願うなら、レイモンドに断る理由はなかった。
(ま。策を弄するのが得意なのは、兄貴よりも俺だってことだろう?)
ロジェは家族の中でレイモンドを一番信用しているらしく、それが一匹狼を手なずけたようで、なかなか気分がいい。外ではラッセルを長男として立てているため、ロジェとは不仲とまではいかなくとも仲がいい素振りは見せていないのだが。
(その方が何かと都合がいいしな)
カヌレ三兄弟が仲が悪いと見誤り、ポロリと口が軽くなるような輩が出てくるのだ。非常に仕事がやりやすい。
実のところ、ラッセルの態度はツンケンしているが、別にロジェと不仲なわけではないのだが。それは長年一緒にいた家族にしかわからないだろう。そのぐらいラッセルもロジェもわかりにくいのだ。
そんな環境で育ったことが大きいのだろう。
レイモンドは観察や推察が得意であり、それに伴う捜査ができる。
ミシェルに対する噂の出どころを突き止めるのも、第二の仕事の合間に難なくこなした。
城にはカヌレ家の息のかかった使用人がたくさんいるので、その者たちからの話も合わせればあっという間だった。
噂の出どころは王太子の周りの侍女やメイドからだった。女の嫉妬である。
経理部を訪れる男がミシェルと笑顔で会話しているのが気に食わないらしい。ミシェルは媚びるわけでもなく業務上での愛想笑いを浮かべているだけなのに、彼女の容姿がそれを邪推させてしまうのだろう。男の方には下心があるやつは大勢いるので厄介な話ではある。
(王太子付きはこぞって暇人なのかよ、仕事しろっつーの……)
我がベツォ王国の王太子は無能で有名だ。重要な政務は第二王子が担っている。主が主なら臣下も臣下である。
噂話に花を咲かせる女の顔を覚え、そろそろいいかと踵を返したところでよからぬことを耳にした。
「ですからわたくし、ある殿方にあの女を妾にしてはどうかとご教授しましたの!」
「まぁ! あのふしだらな女には妾でも贅沢ですわ。それで、お相手の方は?」
「興味をもたれていたわ。今度の夜会にあの女も参加するという情報を衣装屋から掴んだので、それを教えて差し上げたんですの」
(何がですのだ、ぶっ殺すぞ)
思わず殺気を漏らしたレイモンドは踵を返し、ミシェルが参加する夜会を突き止めるべく動き出した。
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