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しおりを挟むレーヌ子爵には、懇意にしている王都の店を紹介し、ミシェルをそこに招いて欲しいと頼んだ。
先に婚約相手がレイモンドだと言えば、彼女は婚約に応じてくれないかも知れない。長年友達として接してしまっていたからと――そう言って眉を下げたレイモンドに、レーヌ子爵は俺に任せろと胸を叩いた。
ミシェルは事前に話があると伝えると逃げるだろうと子爵が言うので、当日、職場に行って誘うのはどうかと提案した。
誤算だったのは、予定よりも早くレーヌ子爵が王都入りしたことと、ミシェルがマークに食事に誘われたこと、レーヌ子爵が職場を訪れるよりも早く彼女が職場を離れたことだった。
ミシェル付きの護衛の一人から聞いたときは焦ったが、無事に二人は合流できたようだ。
仕事を何とか切り上げて店に向かい、馴染みの店員に部屋へ案内してもらった。
(あのタイミングで入れたのは奇跡だったな)
ミシェルは父親に既に純潔ではないと告白しようとしていた。
顔には出さなかったが、レイモンドの背中には汗が伝っていた。
(危なかった……)
手を出したことが知られたならば、真摯に謝罪をするだけだ。ミシェルには伝わっていなかったが、いい加減な気持ちで付き合ってきたわけじゃない。
むしろ結婚を前提とした大人の付き合いをしてきたのだと、婚約の申し入れのときに話をしてもよかったのだから。
しかしそうなると、矛先が手を出したレイモンドではなく、身体を許したミシェルに向いてしまう可能性があった。子爵とミシェルが険悪な状態になることは想像に難くない。そんなことになれば、言い返せない彼女が意固地になって婚約への道が遠ざかりそうだったのだ。
(だからもっと早く婚約していればよかった――ってなるけど、それだとやっぱり兄貴が煩くてミシェルが仕事ができなくなるし、子爵も適齢期を過ぎて婚約状態が長いことをよしとしないだろうし……)
ミシェルと子爵の仲がこれ以上拗れるのは避けたい。カヌレ家ほどではなくとも、二人の関係がよくなって欲しいと思っている。
(お互いがお互いを大切に思っていても上手くいかないことってあるからなぁ)
まるでラッセルとロジェのようだとレイモンドは思う。あの二人はツンケンしながら、何かあれば手助けしようと思い合っているのが手に取るようにわかるのだ。
ミシェルと子爵にも同じような雰囲気を感じる。
(ややこしいけど、これが最適解だったはず……)
ミシェルに関わると、レイモンドはどうにもお節介になってしまうようだ。
(まったく俺としたことが、自分にこんなところがあるなんて知らなかったよ)
レイモンドは苦笑しながら、テーブルの下でミシェルの指先を擦ったり、わざと太ももに触れたりしていた。
声にならない声を上げたミシェルは、どうやら感じているらしい。
(くそ可愛いな……)
婚約に関する根回しで忙しかったレイモンドは、ミシェルの可愛い反応に癒された。
そして、それが少々癖になった。
ただ『わからせ』るだけではなく、必要以上に煽ったのだ。
手をつなぎながら親指をゆっくり動かしてみたり、腰に添えた手で背中側をなぞったり。
そのたびに震えるミシェルは控えめに言って猛烈に可愛かった。
(焦らしっていいな)
そんなことを考えていたからか。
ミシェルはどんどん余裕をなくしていった。
とうとう抱いて欲しいと迫ってきて、レイモンドを押し倒そうとしてできなくて――それが死ぬほど可愛くて、レイモンドは悶え苦しんだのだが――その後のデートのあと、服を脱ごうとしはじめたので止めて、さらにそれから。
一日たっぷりと恋人らしいデートをしたあと、カヌレ伯爵家の馬車に乗り込むなりレイモンドの膝にミシェルが跨ってきたのだ。咄嗟に受け止めたレイモンドの耳に唇を寄せ――履いてないの――と。
ミシェルはとんでもない告白をしてきた。
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