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しおりを挟むレイモンドの焦らし行為は二か月以上も続いていた。
ミシェルはもう、指先を撫でられただけでたまらない気持ちになってしまうほど欲求不満だった。
「頭が狂いそう……」
何をしていても頭の中がレイモンドとの行為ばかりになってしまった。当然仕事でミスをするし、食事の量まで減ってきた。
「ちょっと、本当に笑えないんだけど」
さすがのロザリーにも心配されるほどだ。
ロザリーは食事が喉を通らないミシェルにサンドイッチを作ってきてくれた。人が作ってくれたものはどうしてこうも美味しいのだろうか。
ミシェルはありがたくお腹の中におさめてお礼をいい、再び現状を嘆いてしょんぼりと項垂れた。
「ミシェルに散々嫌がらせしてた奴らが婚約を地団駄踏んで悔しがってるって聞いて、私はスッキリしたというのに、当の本人がこれとはねぇ。ちょっとレイモンド卿、鬼畜すぎない?」
食堂では注目を浴びてしまうので、城内の庭園にあるベンチでロザリーと並んで食事をしていたのだが、ミシェルに庭園の美しさを鑑賞する余裕はない。
どうやらそれはロザリーも同じらしい。
「でも傍から見ると、正しい貴族の婚約期間の過ごし方よねぇ」
まさしくその通りである。
今までの付き合い方がおかしかったのだ。
「もう目の前で裸になってみたら?」
「……」
「まさかもう試した!?」
「脱ぐ前に止められた」
「あー。力じゃ勝てないよねぇ」
冷静に考えてみれば、ミシェルの裸なんて見慣れているのだ。初心でもない男相手に通用するものではなかったと今頃ごろ反省している。
「ロザリーは旦那さんにして欲しいときどうしてるの?」と聞いてみたら、彼女は考えこむように顎に手をあてて首をひねった。
「なんとなく自然と? 言わなくても伝わる感じ?」
「なんて羨ましい!!」
もはやミシェルに恥じらいなどない。
「いやいや、違うでしょ、今回のはそういう話じゃないわよね? はっきりと伝えてるんだから。大体それまでは過剰だったぐらいなんだし」
それもまたその通りで、ミシェルはますます項垂れた。
今まではこんな気持ちになる前に自然にそういう流れになった。
「抱かない『わからせ』もあるんだねぇ」などと言いながらロザリーは顔を引き攣らせている。
「嫉妬深い騎士の彼氏にわからせられちゃう子、割と見てきたけどさ。正直、愛され自慢? とか思ったりしてたんだけど、ミシェルのそれは気の毒だわ……でもまぁ、愛されてるのは確かなんだし、気長に待ったら? そのうちあるかもしれないじゃない? それにほら、結婚すれば、ね?」
結婚まであと半年もある。
これでもノリノリの両家によって、最短日が選ばれているのだ。
しかし、ミシェルは半年など到底待てやしない。
それまでに気が狂ってしまうだろう。
ミシェルは途方に暮れた。
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