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40.気持ち
しおりを挟む今日はいつもと違う朝になった。
マイナと同時か、いつもは先に起きているレイが、まだ眠っているのだ。
レイの寝顔は何度も見ているが、朝のキラキラした輝きの中で見るレイは珍しい。
マイナがほんの少し先に起きたとしても、大抵すぐにレイも目を覚ましてしまう。
それが今日はすでに三十分以上も寝たままなので、眺め放題である。
(尊い、美しい、尊い!!)
マイナは歓喜した。
この素晴らしい朝に。
(今日は食パンにハムエッグを乗せたものが食べたい。すこ~しだけ半熟の玉子がこぼれないようにアワアワしながらレイさまと食べたい……レイさまの口の端についた玉子を拭いてあげて、一緒にコーヒーを飲んで……違う、やっぱりカフェオレが飲みたい……それにしてもレイさま起きないなぁ)
いつも朝食はお米なので、変更のお願いは急いで伝えなければならない。
(身じろぎしたら起こしちゃう……でも伝えたい……たまにしかこないパンの日だって言わなきゃ)
そーっと。
そーっと抜け出し、ベッドの端まで這っていく。
端に腰掛けてスリッパを履いた。
(このベッド、本当に広いな)
ニコは起きてるだろうから、ニコからバアルに伝えてもらおう。
立ちあがろうと腰を浮かせたら後ろからレイに捕まってしまった。
背中に優しい温もりを感じて、振りかえる。
「おはよう、マイナ」
「おはよう、レイさま」
「私を置いてどこに行くの?」
「どこにも行かないよ? 今日はパンの日だって伝えに行くだけだよ?」
「パンなの?」
「パンなの!」
「それなら私が言ってくるからマイナは支度してていいよ」
「ハムエッグとカフェオレもお願いします」
「ん」
返事の代わりにマイナにキスをして、レイはガウンを羽織ると髪をかきあげながら出て行った。
(うなじがヤバい……ガウン姿もめちゃくちゃカッコいいし、残り香めっちゃいい匂い……)
爽やかさを残しつつ、寝起きの気だるさがレイの色気を増していた。
(重症かも)
重症である。
もうレイと一緒じゃなきゃ眠れないかもしれない。
人々が古来からありとあらゆる小説や舞台、音楽にしてきたことが、今ようやく理解できる。
(これが恋……)
もはや、疑う余地はない。
(なんで今までこれほどの気持ちに気付かずにいられたのっ!?)
鈍感だ鈍感だとは言われてきたが、これほどとは。
いつからと聞かれたら明確には答えられないが、きっかけはやはり遊園地だろう。
昔から何となく苦手だった王太子殿下に会ったり、ぶりーざど宰相に会ったりすると、レイの隣にいる安心感が半端なかった。
ホッとするし、頼り甲斐があるし、優しいし、かっこいいし、ときどき可愛いし、大切にしてくれる……。
(レイさまって、スパダリじゃ!?)
風に揺れるカールした髪。
ブランコの邪魔になる長い脚。
差し出された手はあたたかい。
向けられた笑顔の優しさと甘さ。
ちゅき!
(こうやって恋の歌ができるんだわ、多分!)
かなり舞い上がっている自覚はあるが、レイと一日ゆっくり過ごせる今日という日ぐらい浮かれてもいいではないか。
悶えつつドレスを選ぼうと自室に戻るとニコがオフホワイトに淡いピンクのレースのついたドレスを用意してくれていた。
着つけてもらっていざ、朝食へ!!
「あれぇ!? レイさまはお米なの!?」
「うん。お味噌汁飲みたくて」
「昨日も結構お酒飲んだから?」
「そう。でもほら、ハムエッグはお揃いだよ」
「そっか!」
では玉子をつけた口元を拭ってあげることはできる。
バアルもタコさんウィンナーを習得してくれたので、ハムエッグの横にちょこんと立ててあった。
かわいい。
別盛りの色とりどりのフルーツも素敵。
いざ、パンの上にハムエッグをのせて。
(うまぁ~!!)
バアル特製マヨネーズめちゃうま。
酸味が効いてて、振りかけた塩コショウもいい感じ。
黄身がたれないように気を付けながらアワアワしたあとハムハムして、ゆっくり飲み込んだ。
優しい色のカフェオレも美味しい。
(たまらん……)
「マイナ、こっち見て」
「ん?」
隣から腕が伸びてきて、口元をナプキンで拭われた。
レイは目を細めて幸せそうな顔をしている。
「それはわたくしがやりたかったやつ!」
「ん?」
よくわからないと首を傾げるレイ。
「ん"ん"ん"ーーー」
萌え殺す気か。
驚いたわ。
イケメンの首傾げの破壊力よ。
「食べ終わったら庭を散歩しよう」
「それなんですけど!!」
「うん?」
「もう朝からずっと香ってるんですよ」
「やっぱりバレた?」
「バレバレです!!」
「昨日はその作業があったから、べイエレン公爵家に行けなかったんだよ。内緒にして驚かせたかったんだけど、いい香りだからバレちゃうね」
「嬉しい。ありがとう、植えてくれて」
「うん。これから毎年楽しみだね」
食べ終えたマイナとレイは、草木が朝の露を光らせる庭をゆっくり歩いた。
目的の場所は『金木犀』だ。
この時期だけの贅沢な香りの前に立ち止まって、レイと共に長い時間を過ごした。
四阿に入り、お茶を飲んでメイドたちを下げた。
ニコとヨアンは今日も面接があるので出かけている。
「レイさま」
「うん?」
四阿の大きなソファーは楕円形の背もたれにフカフカのクッションが敷き詰められている。
そこで腕を広げて寛いでいるレイの横で、レイの体にもたれかかるようにしてくつろいでいた。
「あのね」
「うん」
「…………です」
「うん?」
覗き込むようにしてマイナを見たレイの、綺麗な琥珀の瞳にマイナの顔が映っていた。
「……大好きです」
「……それって、そういう?」
「はい……あの……その……」
「男として?」
もう限界だった。
これ以上は頷くだけで許してもらいたい。
恋です、なんて言えない。
大きく頷いてから、真っ赤な顔を両手で押さえて、返事を待った。
(……急にこんなこと言って、引かれたかな?)
なかなか反応がないせいで徐々に不安になってくる。
(好きって自覚した途端、伝えたくなっちゃうものなんだなぁ)
マイナのために希少な金木犀を手配して植えてくれたレイが好き。
ずっと待ってくれたレイが大好き。
(兄じゃないよって言ってくれたから、気持ちを伝えても大丈夫だよね?)
そっと顔から手を離してレイの顔を見上げると、レイも真っ赤な顔を手で覆っていた。
(あぁ! なるほど? その仕草はそういう感情!?)
カールに馬鹿にされるはずである。
こんなことにも気付かないなんて。
レイはしばらくそのままの状態だった。
顔から手を離したとき、「嬉しい」と呟いてくれた。
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