【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

文字の大きさ
90 / 125

90.コスモス

しおりを挟む


(政略結婚じゃなかった……!!)

 マイナは歓喜していた。
 政略結婚でも仲のいい両親を見て育ったので忌避感はなかったが、恋愛結婚は憧れであった。
 マイナも普通の女の子だったのだ。

(レイさまは、私のことが好きで好きで結婚したって!!)

 レイは二度も好きを連呼した。
 そんなに好きだったとは……!!
 愛されているなぁとは思ったが、本人の口から出た言葉は破壊力が違う。

 慌てて駆けつけてきたニコに「どういった経緯で今日なのですか!?」と質問攻めにされたが、マイナはニヤけた顔のままであった。
 肩を揺すられたところで、疑問に答えるのは無理だ。

(脳内にコスモスが咲き乱れているの!!)

 なぜかピンクのコスモス畑にいる脳内のマイナはレイを待っているらしい。
 そんな風景が頭から離れない。
 なぜコスモス?

「マイナさま、足を上げてください」

 妄想している間に肌は綺麗に磨かれていった。
 いい香りの香油を塗られそうになったが、それは断った。

「わたくしがベトベトしてると思われたくないの」

 興奮しすぎて脂汗をかいている女なんて思われたら嫌だ。

 ニコが足首が動かないように、きっちり包帯を巻いてくれた。
 少々大げさだが、これで変に動かしてしまう危険がなくなった。

 髪を丁寧に拭かれ、整えられていく。
 鏡に映るマイナの顔はだらしなかった。

「わたくし、こんなだらしない顔だったかしら?」

「ええ。私が来てからはずっとデレデレしてますよ」

「あらそう」

 そのあと、布の面積の狭いスケスケのナイトドレスを着させられた。
 太もも以下は布がない上に、裾がヒラヒラしている。
 ちょっと捲れたら、もうすぐにでも、という仕様だ。

「最初からこれなの!? 布、無さ過ぎじゃない!?」

 色も紫陽花よりも濃い青紫色である。
 どうしてこれ??

 やり直しとはいえ初夜である。

 もっと初々しいものがあるだろう。
 ピンクとかピンクとかピンクとか。

 コスモス色のものがあるはずなのに!!

「今のマイナさまにはちょうどよいかと」

「なんでよ!?」

「やる気がみなぎってますから」

「これはこの間お母さまが強引に作った上級者のやつだわ」

(わたくしでこれって、お母さまはいつもどんなの着てるの!?)

「つべこべ言ってないで寝室へ行きますよ」

 ニコは容赦がなかった。
 何度も準備した挙句、空振りしてきたのだ。
 今回こそはと、ニコも力が入るのだろう。
 旦那さまが絶対に手をつけたくなるからとか言っていたような気がするけれど、聞き間違えだったかもしれない。
 聞き間違えであって欲しい。

 ミリアはそんな二人を微笑ましいという表情で見ていた。

(ちっとも微笑ましくないからね!?)

 準備とは実に時間がかかるものである。
 空ぶった最初の初夜の際も、相当気合が入っていた。

(以前の私があまりにも鈍感だったから、レイさまも時間をかけざるを得なかったのよね)

 今度はそんなことにはならない。
 なってはいけない。
 タイミングは今だとマイナの第六感が騒いでいるのだ。

(二人のためだけじゃない。ヴィヴィアン殿下のためでもあるのよ)

 いくらマイナの父やその他有力貴族がヴィヴィアン殿下を推したとて、後継問題を持ち出す人はいるはずだ。
 弱い部分は突かれてしまう。

 ヴィヴィアン殿下が揺らげば、レイが揺らぐ。

「行ってくるわ!!」

 マイナは手を握り締めてニコとミリアに頷いた。

「行ってらっしゃいませ」

 ニコが深々とお辞儀をし、ミリアもお辞儀をしてから車椅子を押してくれた。
 ノックをすると返事がかえってきたので、ミリアにも下がってもらった。

 扉が開く。

 マイナを見たレイは微笑み、マイナを抱き上げてくれた。
 いつも以上に石鹸の香りがするレイの大きめに開いた胸元を見て、顔が熱くなる。

「お待たせしました」

「そんなに待ってないよ。待ち遠しかったけれどね?」

(本気のレイさまって凄い……)

 語彙力が死ぬぐらい色っぽい。
 もうすでに色々駄々漏れている。
 いまから漏らしてどうするのだ。

 優しくベッドの縁に降ろされた。

「気持ちは変わらない?」

「まったく」

「そう……」

 膝の上に置いていたマイナの手を、そっと避けるようにしてベッドに降ろされた。
 太ももが丸見えなので裾を押さえておきたかったのだが、レイの表情を見てしまえば何も言えなかった。

「レイさま、ひとつだけ」

「ん?」

 近付いてきたレイの顔を止めた。

「わたくし、レイさまの好きなぼんやりしたマイナではなくなってしまったのですけれど、それでも好きだと思っていただけますか?」

(すごくズルい言い方だわ)

 けれども、どれだけ悩んだところで以前のマイナには戻れないのだ。
 これが本当のマイナでもある。
 少々残念に思われたとしても、今のマイナを受け入れてもらう他ない。

 それが悩んだ末に出した、マイナなりの結論だった。

 晩餐の間、心ここに在らずに見えたかもしれないが、今はとてもすっきりしている。

「もちろん。俺が好きなのはマイナだよ。前とか後とかでもなく、マイナの全て」

「レイさま、本当はご自分のことを俺って仰るのね」

「そうだね。そういう時期があったけれど、家庭教師に正されたよ。幼少期はもっと粗野で我が儘だったよ」

「それも素敵!」

「素敵ではないと思うけれど」

「レイさまがわたくしの全てと言ってくださるように、わたくしもレイさまの全てが好きなんですわ」

「なるほど?」

 クスクス笑いながら髪を耳に掛けたレイは、熱をはらんだ瞳をマイナに向けた。
 伸びてきた指先が頬を辿る。

「質問はそれだけ?」

 頬を辿っていたレイの手が首筋に触れる。

 マイナは静かに頷いて、そっと目を閉じた。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...