【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

文字の大きさ
101 / 125

101.ちらし寿司

しおりを挟む


 食堂へレイに運ばれている間も、昼間のエレオノーラの発言が頭をよぎって仕方がなかった。

(ヤンデレ……もしかしてレイさまってヤンデレ……いえ、単に私の足を心配しているだけのはず……でも、今日は妙な気迫があるし……)

 マイナがモゾモゾ動くたびにレイが気にする素振りを見せるので、安心させるように微笑んでおいた。
 多少は緊張感が弱まった気がするが、やはりどことなく表情が硬い。

 もしかして……。

「あの、今朝のお食事がやはり……不評でしたか?」

 レイにしか聞こえない声で囁いた。

 義父母があまりにも和食に抵抗を示さないので、味噌を知らない人がネギ味噌焼きおにぎりを見ると、色に驚くということを失念していた。
 驚かなかったのはバアルぐらいだろう。
 彼は興味の方が勝ったようだった。

「いや、すごく感心していたし、本当に喜んでたよ」

「……でもお義母さまが……」

 驚かせてしまったお詫びも兼ねて、晩餐は可愛らしいちらし寿司を作ってもらった。
 円形の小さな型に、スモークサーモンときゅうりと酢飯を重ねて層にしてもらい、上にもたっぷりサーモンをのせて錦糸卵を真ん中にちょこんと置いて、その上にぷりぷりの海老をのせてもらった。
 義母は海老だけでなく貝類も好きだとバアルに聞いたので、はまぐりのお吸い物も添えてもらった。

「母上も見た目に驚いたようだけど、父が食べているのを見て安心したようだったよ」

「本当に?」

「うん、大丈夫だから。むしろ……」

「むしろ?」

「……いや、なんでもない」

 レイはそう言ったきり、口をつぐんでしまった。

 心配していた義母は、嫌がる素振りもなく晩餐では嬉々としてちらし寿司を食べてくれた。
 味や見た目を気に入ってくれたようで、義母はずっと笑顔だった。

 義父は食べ足りない様子で何度もおかわりをしてバアルを忙しくさせていた。
 まかない分には回らないかもしれない。

(お義父さまだと、ふた口なんだもの………足りないわよね)

 けれども、味は大層気に入ったらしく今度は大きく作れと言ってバアルを苦笑させていた。
 義母のためのチラシ寿司なので、それでは本末転倒なのだが、そんな義父を義母は微笑ましいという顔で眺めていたから、次は大きくてもいいのかもしれない。

 そういえば今朝はやけに義父がお喋りだった。
 今までの食事の中で気に入ったものを色々と教えてくれたが、特に餡子に執着していることがわかった。

(領地の料理人に来てもらって、イーロと一緒にドルーに弟子入りしてもらおうかしら?)

 それが一番、安全に餡子を領地で食べてもらえる案だと思う。

 そんなことを考えながら湯浴みを終え、夫婦の寝室に入るとおもむろにレイに抱きしめられた。

 一体、何があったというのだ。
 やっぱりおかしい。
 いつもなら、お酒でも飲みながらのんびりする時間である。

「レイさま、何があったのです?」

「……父上が……マイナの料理を気に入り過ぎて、領地に連れて行くと言いだした」

「バカンスですか?」

 それとも新婚旅行だろうか?
 領地に?

「いや、マイナを預かるという言い方をしていたから……」

「預かる……なぜ?」

 つまりレイとは離れ離れということだろう。
 城で何かよからぬことでも起きているのか?
 いや……先ほど料理を気に入ったと言っていたから、まさかそれだけで?

「戴冠式が終わるまでには子ができているだろうと、領地にいたほうが子がよく育つからと、医者や産婆を連れて行くと言ってきかない」

「すみません、ちょっと理解が追いつかないのですが……」

「そうだよね、ごめんね。突拍子もないのはいつものことだけど参るよ。子どものことは建前で、本当はマイナの料理が領地でも食べたいというのが本音なんだ」

「なぜそうなります!?」

「父上の中では何ら不思議なことでもない、整合性のとれた話になってるんだよ。父の傍にいる人間はみな、この手の父の思いつきに振り回されてきたんだ」

「極端ですね」

「そういう人なんだよ。マイナ、お願いだから父上から誘われても、領地には行かないと断って欲しい。お願いだから」

「なるほど。それでレイさまは不安そうにしてたんですね」

 怯えたようにマイナを抱きしめるレイの背中を、安心させるように撫でた。

「レイさま、今朝、わたくしがなぜネギ味噌焼きおにぎりを作ったかご存知ですか?」

「父上を喜ばせるためでは?」

「違いますよ」

 レイの胸元を押し、顔をあげて微笑んだ。
 不安そうなレイの顔を両手で挟む。

「レイさまは、甘めの味噌味お好きですよね? サバの味噌煮まで食べられる和食上級者ですもの。まだ披露していない甘味噌分野があったと、わたくし気付いたのですわ」

「それって」

「そうです。レイさまに喜んでもらいたかったのです。ですから、お義父さまに領地行きを勧められても、お断りしますし、わたくしはレイさまの傍を離れません」

「マイナ……!!」

「もう、レイさまってば心配し過ぎです! わたくしがレイさまの傍を離れるわけないでしょう?」

 だって、レイさまのことが大好きなんですから。

 という言葉は、レイの唇に塞がれて紡ぐことはできなかった。

 少々刺激し過ぎたらしい。
 眠りについたのは真夜中をだいぶ過ぎた時間になってしまった。

 翌日は起き上がることができず、朝食の席に着くことができなくなってしまったマイナであった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...