【完結】好きでもない婚約者に酔いしれながら「別れよう」と言われた

佐倉えび

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 石畳の先の芝生の部分にさしかかったとき、カールがアルヤの前に跪いて胸に手を当てて見上げてきた。

「アルヤさん。まだ婚約に戸惑いがあるなら、その前に僕と付き合ってもらえませんか?」
「付き合う……?」
「駄目? やっぱり婚約が先がいい? あれ? でも婚約の前に会いたいって言ったのはアルヤさんだから……僕とは結婚も付き合うのも考えられないから断ろうとしてたのかな? あれ? でも相手が僕って知らなかったんだよね?」
「そうですね、カール様だとは思いもよらず……」

 アルヤの容姿を見て不機嫌になるような人ならすぐに断ろうと思っていた。
 というより、そういう人がくると決めつけていた。
 まさかカールだとは思っていなかったのだ。

 そしてアルヤの脳裏には「別れよう、アルヤ」というゴットロープの顔が浮かんでいた。

(私とゴットロープ様はお付き合いなんてしてなかったのよ。だからやっぱり『婚約破棄だ』って言わるほうがしっくりくる……それをゴットロープ様は『別れよう』って……)

 ゴットロープはあのときと同じ顔で歴代の彼女たちと別れてきたのだろう。
 自分の言葉に酔いしれた彼の顔は気持ちが悪かった。

 彼は付き合ってる彼女と婚約者を混同していたことに気付いていなかったのではないだろうか。そしてアルヤも男性と付き合ったことがないから、ゴットロープの言葉を疑問に思いつつも婚約破棄を突き付けられたと思ってしまった。

(そもそも子ども同士が『別れましょう』と言ったところで家同士で結んだ婚約が破棄できるわけないのよね……私もいつかこの婚約は駄目になると思っていたから受け入れてしまったけれど、あの人、別れようとか言っちゃって、あの後ベルツ子爵をどう説得するつもりだったのかしら……)

 正式な婚約の破棄や解消には、両家当主のサインが必要になる。
 コレッティ子爵家とベルツ子爵家の家格は対等なため、破棄や解消には相当な理由がいるだろう。

 ゴットロープはこれまで散々彼女を作っていたのだから、たとえアルヤがカールに懸想したとしても、お互い様ぐらいにしかならない。
 数で言えばゴットロープのほうがはるかに多いのだ。

 なかなか口を開かないアルヤに焦れたカールが、ちょいちょいと指先でアルヤのドレスの裾を引っ張った。
 考えがまとまったわけではないが、アルヤは思ったことを口にした。

「あのときカール様が助けて下さって、とても嬉しかったんです。もうそれだけで十分だと思っていて……私はカール様に迷惑をかけてしまったことを申し訳ないと思うばかりで……」

「迷惑なんて、かけられてないけどなぁ」
「色々なことがありすぎて頭が混乱していて、どうお返事したらいいかわからないのですが……」
「わかった! とりあえず恋人の予約ってことでいいかな!?」
「予約……はい。ではそれでお願いします」

 カールの前向きな提案に思わず頷いてしまった。

「よし! 王宮の庭園なんていつでも来れるから、一周したらご飯行こう!!」

 すくっと立ち上がったカールはアルヤをさっさとエスコートして、本当に一周だけして門へ引き返してしまった。

(なんだか勿体ないわ……)

 アルヤにしてみれば、なかなか入ることのできない場所だ。
 門番も「もう帰るのか?」と驚きながら見送ってくれた。
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