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しおりを挟む「貸切ったから乗って」
三人の前に辻馬車が到着し、カールはアルヤにだけ手を差し伸べた。
「ちょっと! わたくしには手を貸して下さらないの?」
「アルヤさんがボチェク男爵令嬢を送るっていうから渋々乗せるだけなのに、本当に図々しいね」
「あなた、あのクールキャラはどうなさったの!?」
「僕はクールなんかじゃないんで。喋らなかったら勝手にそっちがそう思っただけでしょ?」
「裏切られたわ! あのカッコいいと言われていたカール様がこんな男だったなんて!!」
「勝手に期待したのはそっちなのに、勝手に裏切られたと騒ぐのはやめてもらえるかな? 迷惑なんで」
しれっとアルヤだけ馬車に乗せ、さっさと自分も乗り込んだカールは馬車内から「乗らなくてもいいよ?」と、かなり意地悪なことを言っていた。
フィアンマは送ってもらえなければ困るとばかりに、大股で馬車に乗り込むと音を立ててアルヤの隣に座った。
タルコット公爵家の馬車とは違い、座面が硬くて痛い。
それでも馬車に乗れたフィアンマは幸運だろう。
(私もカール様に助けてもらえたから幸運だったわね……)
よからぬことを考えるような人物に捕まっていたら、どうなっていたかわからない。
他国で奴隷になっていた可能性すらある。
「アルヤ様に助けてもらったわけじゃないから、お礼なんて言わないわよ!!」
フィアンマはまだ強気の姿勢を崩していなかった。
泣きたいぐらい心細かったくせに、必死で耐えているようだ。
帰りはゴットロープが送ってくれるだろうと思い、辻馬車に乗るための銅貨すら持っていなかったのだろう。
「ええ。フィアンマさんを助けたのはカール様ですし、私はあなたを置き去りにしたら後味が悪いなって思っただけですから、お礼は結構ですよ」
「うわっ、最低」
「お金がなくて辻馬車に乗れなくて泣きそうだった方に、とやかく言われたくないですね」
「たんぽぽ令嬢のくせに!!」
「図星ですか?」
「ち、違うわよ。ほんっと嫌味な女。大っ嫌い」
「私もフィアンマさんのことは嫌いですね」
「そんなだからゴットロープ様に嫌われるのよ」
「ゴットロープ様のことはもっと嫌いなので問題ありません」
フィアンマとのやり取りを、カールは嬉しそうな顔をして眺めていた。
自分でも自分の口からするする出る言葉にびっくりする。
嫌味な令嬢を撃退する場面を小説に書いたお陰かもしれない。
自分の中にこんな引き出しがあるとは思わず、うっかり感心してしまったぐらいだ。
「あなた、ゴットロープ様のことが好きで別れるのが嫌でゴネたんじゃなかったの!?」
「誰の話ですか? そもそも私とゴットロープ様はお付き合いなんてしてませんよ」
「婚約者だったんでしょ?」
「確かに仲のいい婚約者であれば恋人のような関係にもなれるんでしょうね。婚約は家同士の契約に過ぎませんから、互いの気持ちが揃わない場合は……どういう関係になるんでしょうね? 契約婚約者?」
変な言葉を創作してしまい、首を傾げていたら、カールが堪えきれずに噴き出した。
カールがあまりにも楽しそうにお腹を抱えて笑うから、つられてアルヤも笑ってしまった。
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