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しおりを挟む「なによ……聞いてた話と全然違うじゃない……」
フィアンマは唇を噛みしめていた。
「私は、ゴットロープ様のことをお慕いしたことは一度もありませんよ。それこそ、ほんの一瞬も」
「ほんとに? あの見た目にも?」
「……彼、カッコいいですか?」
「かっ……」
フィアンマは口をつぐんだ。
女を置き去りにする男なんて、かっこよくないだろう。
「別れよう、アルヤ……悪いけど、自分で帰って……別れた女を送るほど、お人好しにはなれない」
アルヤは髪をかきあげる仕草をしながらゴットロープの口調を真似た。
カールはお腹をかかえてヒィヒィ笑い出し、フィアンマは口を開けて真っ赤な顔をしていた。
似たようなことを言われたのではないだろうか。
「好きでもない人に酔いしれながら『別れよう』と言われた私の気持ちをわかれとは言いませんが、せっかくフィアンマさんの見た目はいいのですから、他の男性になさっては? 縦ロールは古臭いですけど」
「一言余計なのよ!!」
「せっかく美しい銀髪なんですもの。ハーフアップがよろしいんじゃありません?」
縦ロールが古いことも、図書館の資料を見ていて気付いた。
さして令嬢の髪形に興味はなかったのだが、あえて言ってみた。効果は抜群だった。
「ダサいアルヤ様に言われたくない!!」
「はぁ、そうですか。ちなみに、私の根っこのような眼鏡もゴット……ベルツ子爵令息様に強要されたのであって、趣味ではありませんが?」
「なんなのあの男!! 最低じゃない!!」
「だからさっきから申し上げているではありませんか。彼に懸想したことなど一度もないと」
ようやくゴットロープの本性を理解したのか、フィアンマが大人しくなった。
カールは相変わらずヒィヒィ笑っている。
(なんだか言いたいことを言うとすっきりするわね……)
すっかり大人しくなったフィアンマをボチェク男爵家の近くで降ろし、カールと二人きりになった。
すっと馬車の重心が傾き、カールが隣に座ったことに気付く。
「はーーーー。面白かったーー!! 最高!! アルヤさん、めっちゃ言い返せるじゃん。なんで今まで黙ってたの?」
「前は本当に思ったことを口にできなくて……おそらくこれも小説のお陰です」
「そっかー。作家は偉大だなぁ」
「作家じゃないです……本当にただの妄想です」
「創作でしょ? 僕は、僕をヒーローにしてくれた可愛いアルヤさんのことを好きになったけど、今日のやりとりを見て、ますます好きになっちゃった」
カールの薄い茶色の瞳に、揺れるアルヤの瞳が映る。
小説に書いたからわかる。
これはキスの合図だ。
(あぁ……困る……)
本当に愛おしいみたいな顔をされ、顔を近付けられてしまえば――
それが大切な小説を守ってくれた人ならば。
フィアンマとのやり取りで興奮していたアルヤは、カールからのキスを受け入れるために瞼を閉じてしまった――
* * *
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