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しおりを挟む「アルヤさん、とっても綺麗だね」
「ありがとう……カール君」
アルヤの首元に重たいネックレスをつけながら、夫のカールが耳元で囁く。
深い色合いのガーネットを探し出して加工したネックレスは、カール渾身の愛の証だ。
このガーネットでアルヤを飾るときは、カールが他の男性を牽制したいと思っているときだとアルヤは知っている。
(私なんてモテやしないのに、相変わらず謎な人よね……)
馬車でファーストキスを体験したアルヤは、出席できないと思っていた卒業パーティーにカールのエスコートで参加することになり、パーティーの真っ只中でプロポーズされて婚約した。
結婚後はタルコット公爵家内の夫婦用の使用人部屋に住み、アルヤは公爵家の使用人の子どもたちに読み書きを教えながら執筆をし、カールは変わらずマイナの護衛として働いている。
あれから五年。
ベルツ子爵家は次男が子爵位を継ぎ、ろくに仕事ができないゴットロープは婚約者不在のまま子爵家のお荷物になっているらしい。そろそろ領地に送られるのでは、という噂が流れている。
フィアンマとアルヤは、フィアンマがしつこくお茶やら食事に誘ってくるのでそれに渋々付き合っているうちに気の置けない友人になってしまった。彼女は幼馴染だった男爵家の次男と結婚し、子どもがいる。
そして。
タルコット公爵家の支援を得て作家デビューを果たしたアルヤは、処女作だった『謎の男に恋をしてしまった』を改稿し、納得のいくものに仕上げて発表した。
それが若い令嬢の間で広まり、ベストセラーとなったのはつい先日のこと。
本日はそのお祝いとしてタルコット公爵家で夜会が開催される。
「今日もアルヤさんのことを馬鹿にしてた奴らが手の平を返してくるよ」
「そうね……慣れてるわ」
「またあの虫けらを見るような目で『たんぽぽ令嬢と呼んでくださったお陰でデビューできましたわ』っていうアルヤさんの冷たい台詞が聞けるのかと思うと……僕はウキウキして夜も眠れなかったよ」
「やっぱり変わった趣味してるよね……カール君て」
「そう?」
ニコニコと、人好きのする笑顔は相変わらずだ。
差し出された腕に手を添える。
「では行きましょうか」
「うん。僕のお姫様は今日も最高だね」
「あら、『にくまん』最高って言わないの?」
「それを言うとマイナ様に叱られるんだよ。女性を『にくまん』にたとえるなんてって」
「別にいいのに。ふわふわして可愛いって意味なんでしょ?」
「うん」
初めて『にくまん』なるものをタルコット公爵家で出されたときは驚いたが、ふわふわの生地とジューシーなお肉が口の中に広がって、とても美味しかった。
カールの好物だと聞いていたから、『にくまん』と言われても嫌な気持ちにはならなかった。
(変わった趣味の夫だけど、幸せだからいいの)
カールの口づけを頬に受け、アルヤは笑いながら一歩を踏み出した。
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