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ガリブルラ王立学園の卒業式当日。
神聖な空気の中、卒業証書の授与が終わりを告げ、第二王子のオーブリー・ガリブルラが壇上にあがった。
「私から皆に伝えておきたいことがある」
リアの席からでもわかる、オーブリーの白く長い指が金色の髪をかきあげる。卒業生の一部から「きゃー」という悲鳴にも似た声が聞こえた。美しい顔立ちは王妃譲りで、眩い金の髪と、澄み渡る夏の空の如き蒼の瞳は国王陛下そのものだ。
「リア・ボンズ」
突然の名指しに、リアの体は飛び跳ねた。
一斉に注がれる視線に、体中が針に刺されたような感覚を覚える。
「貴様は、我が愛しのヴァイオレットに嫌がらせを受けていると虚偽の申告をしたな?」
突然の暴言に、リアは全力で首を振った。
慌ててオーブリーの後方に控えている側近たちを見ると、全員が口を開けてオーブリーを見ていた。貴族然とした彼らのそんな表情は一度も見たことがない。
「ヴァイオレット」
甘やかな声でヴァイオレットの名を呼んだオーブリーは、壇上にあがってきた彼女の細い腰を抱き寄せる。艶やかな黒髪に金色の瞳の美女は、顔の半分を扇子で隠しながらリアを見ていた。
ヴァイオレットはその昔、大聖女と呼ばれた王妃の血を引くテナント公爵家の令嬢だ。
「未来の王妃となるそなたに、一点の曇りなきよう、いますぐ疑惑を晴らしてあげるからね」
「まぁ。ありがとうございます」
オーブリーを見上げるヴァイオレットは、瞳を瞬かせていた。
「リア・ボンズ。貴様への嫌がらせなど存在しない。全ては自作自演。自ら本を破り、池に落ち、階段を転がった。さながら喜劇役者のよう。残飯をかぶる様は見事であったが、その狂言も今日まで」
壇上からリアに向かって言い放つオーブリー。
「殿下っ、話が違います」
背後で控えていた宰相家子息のエッカルトが焦ったように声をあげた。
「エッカルト、この程度の策略も見抜けぬとは情けない。それでは私の側近として役に立たぬ」
「何を、おっしゃって」
「まぁいい。後で詳しく話してやる。この世界が『大聖女ガリブルラ王妃伝』の世界であり、そこに隠された真実の話をな――まずは真の断罪からだ」
高らかに宣言するオーブリーを、エッカルトは真っ青な顔で止めようとしていた。
「リア・ボンズ。私にヴァイオレットを断罪させ、自らが私の婚約者におさまる腹積もりだろう?」
(まさか!!)
リアの本が破られたり、池に突き落とされたり、階段から突き落とされたりしたのは事実だ。
ヴァイオレットの取り巻きに「あなたみたいなどぶネズミ、これでもお食べなさいな」と言われ、残飯を投げつけられたリアを助けてくれたのはオーブリーだった。
「聖女候補などと持ち上げられているが、貴様の能力など、せいぜい軟膏を作る程度。ヴァイオレットを陥れようとする腐った性根、とても聖女などと言えぬ」
オーブリーの隣に立つヴァイオレットの瞳が、嗤うように細められた。
「お前が悪役令嬢だ!!」
顎を反らしたオーブリーは顔を真っ赤に染めながらリアを指さして言った。
リアの髪に絡む残飯を取ってくれた優しいオーブリーはそこにはなく、リアは打ちひしがれたように首を垂れた。
「貴様は国外追放。断罪の中で最もぬるいもの。私からの温情だと理解しろ」
何を言われているのか理解ができないまま、罪だけが着せられていく。
体からは血の気が引き、胃の中のものがせりあがった。
(もう、無理……)
揺れ出した体を支えきれなくなったとき、ふわりと体が宙に浮いた。
「大丈夫?」
抱き上げられた温かさと落ち着く香りに、リアの思考は徐々に薄れていく。
(ここはとても華やかで優雅な世界――どぶネズミなんて呼ばれる私には似合わない世界――)
神聖な空気の中、卒業証書の授与が終わりを告げ、第二王子のオーブリー・ガリブルラが壇上にあがった。
「私から皆に伝えておきたいことがある」
リアの席からでもわかる、オーブリーの白く長い指が金色の髪をかきあげる。卒業生の一部から「きゃー」という悲鳴にも似た声が聞こえた。美しい顔立ちは王妃譲りで、眩い金の髪と、澄み渡る夏の空の如き蒼の瞳は国王陛下そのものだ。
「リア・ボンズ」
突然の名指しに、リアの体は飛び跳ねた。
一斉に注がれる視線に、体中が針に刺されたような感覚を覚える。
「貴様は、我が愛しのヴァイオレットに嫌がらせを受けていると虚偽の申告をしたな?」
突然の暴言に、リアは全力で首を振った。
慌ててオーブリーの後方に控えている側近たちを見ると、全員が口を開けてオーブリーを見ていた。貴族然とした彼らのそんな表情は一度も見たことがない。
「ヴァイオレット」
甘やかな声でヴァイオレットの名を呼んだオーブリーは、壇上にあがってきた彼女の細い腰を抱き寄せる。艶やかな黒髪に金色の瞳の美女は、顔の半分を扇子で隠しながらリアを見ていた。
ヴァイオレットはその昔、大聖女と呼ばれた王妃の血を引くテナント公爵家の令嬢だ。
「未来の王妃となるそなたに、一点の曇りなきよう、いますぐ疑惑を晴らしてあげるからね」
「まぁ。ありがとうございます」
オーブリーを見上げるヴァイオレットは、瞳を瞬かせていた。
「リア・ボンズ。貴様への嫌がらせなど存在しない。全ては自作自演。自ら本を破り、池に落ち、階段を転がった。さながら喜劇役者のよう。残飯をかぶる様は見事であったが、その狂言も今日まで」
壇上からリアに向かって言い放つオーブリー。
「殿下っ、話が違います」
背後で控えていた宰相家子息のエッカルトが焦ったように声をあげた。
「エッカルト、この程度の策略も見抜けぬとは情けない。それでは私の側近として役に立たぬ」
「何を、おっしゃって」
「まぁいい。後で詳しく話してやる。この世界が『大聖女ガリブルラ王妃伝』の世界であり、そこに隠された真実の話をな――まずは真の断罪からだ」
高らかに宣言するオーブリーを、エッカルトは真っ青な顔で止めようとしていた。
「リア・ボンズ。私にヴァイオレットを断罪させ、自らが私の婚約者におさまる腹積もりだろう?」
(まさか!!)
リアの本が破られたり、池に突き落とされたり、階段から突き落とされたりしたのは事実だ。
ヴァイオレットの取り巻きに「あなたみたいなどぶネズミ、これでもお食べなさいな」と言われ、残飯を投げつけられたリアを助けてくれたのはオーブリーだった。
「聖女候補などと持ち上げられているが、貴様の能力など、せいぜい軟膏を作る程度。ヴァイオレットを陥れようとする腐った性根、とても聖女などと言えぬ」
オーブリーの隣に立つヴァイオレットの瞳が、嗤うように細められた。
「お前が悪役令嬢だ!!」
顎を反らしたオーブリーは顔を真っ赤に染めながらリアを指さして言った。
リアの髪に絡む残飯を取ってくれた優しいオーブリーはそこにはなく、リアは打ちひしがれたように首を垂れた。
「貴様は国外追放。断罪の中で最もぬるいもの。私からの温情だと理解しろ」
何を言われているのか理解ができないまま、罪だけが着せられていく。
体からは血の気が引き、胃の中のものがせりあがった。
(もう、無理……)
揺れ出した体を支えきれなくなったとき、ふわりと体が宙に浮いた。
「大丈夫?」
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