ドS王子は溺愛系

王冠

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番外編〜エマの物語〜

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 皆様おはようございます。

 レティア様専属侍女のエマ•レクスターでございます。

 レティア様にお仕え出来る事が私の生きる源となっているのですが、最近困った事がございまして。

「エマさん、殿下の執務室にお茶を頂きたいのですが」
「…また殿下の病気ですか」
「察しが的確で大変効率が良いですね」
「ちょっとは止めて下さいよ、レティア様だってお忙しいんですから」
「どうせ妃殿下とイチャイチャするまでゴネるから、結果は一緒ですよ」
「はぁ…、アラン様も大変ですね…」
「そうですよ、私にだって癒しは必要です」
「お疲れ様です」


 この、アラン•アンダーソン様がやたらと私の待機室にやって来ては仕事の邪魔をするのです。
 まぁ、元を正せば殿下がレティア様とくっついて居たいがためにアラン様を執務室から追い出すのが悪いのですが。

「アラン様もお茶飲みますか?」
「もちろん頂きます。エマさんのお茶は美味しいので」
「まぁ、ありがとうございます。では執務室にお茶をお出ししたら、休憩しましょう」
「いいですね」

 にこり、と笑うアラン様はここ最近とても表情が柔らかくなりました。以前は眉間に皺を寄せて難しい顔ばかり拝見していましたが。

 貴族令嬢の間でも、優良物件として人気が高いそうです。
 確かに見た目も黒髪に深緑の瞳、鼻も高いし背も高い。家格も侯爵家の嫡男で次期国王の側近ともなれば、令嬢達は放っておかないでしょう。

「私はここで待ってます。早く帰って来てくださいね」
「はい、行って来ます」

 ひらひらと手を振りながら椅子に座り長い足を組む姿は、一枚の絵になりそうな程ですが。
 レティア様の寝起きの可愛さに比べたら、それほどでもない、と言うのが私の本音です。

「失礼致します、殿下、妃殿下」

 ノックをして、殿下の執務室に入った瞬間に真っ赤な顔のレティア様と目が合いました。
 まったく朝も昼も夜も盛るこの猿…いえ、殿下には困ったものです。

「殿下、お茶をお持ちしました」
「ありがとう、アランはエマの所にいる?」
「はい、休憩すると言われて」
「へぇ、だから最近機嫌がいいのか…」
「アラン様、ご機嫌なの?」
「ティア、彼にも癒しは必要だよ、もちろん俺にもね?」

 さくさくとお茶を用意して、レティア様のお好きなお菓子も多めに出しておく。
 午後からの執務はないが、殿下がレティア様の体力と精神力を減らしそうだから。

「エマ、アラン様と仲がいいのね」

 にこにこと屈託のない笑みを浮かべるレティア様。
 眼福!眼福でございます!!
 エマはその笑顔で癒やされるのです!!

「仲が良いかどうかはわかりませんが、良く待機室にいらっしゃいます。殿下のせいで」
「えー?俺のせい?」
「はい、殿下がレティア様との時間を取りすぎるあまりアラン様が待機室に入り浸る時間が増えているのです」
「レオ、アラン様が困ってるんじゃないの?」
「ティア、アランにだって休憩は必要でしょう?一昨日も残業だったしね?」
「確かにレオもアラン様も働き過ぎかもしれないわね」

 んー、とレティア様が顎に手を当てて考えている。
 何でしょうか、この可愛らしい仕草は!!
 今すぐ宮廷絵師にスケッチさせたいわ!!

「エマ、アラン様が待機室にいる時はエマも一緒に休憩してね?エマだって働きすぎよ。エマが倒れでもしたら、心配だわ」
「ありがとうございます、レティア様。そうさせて頂きます」
「無理はしないでね」
「はい、レティア様にそう言って頂けるだけでエマは幸せでございます」
「じゃあ、アランの事は頼んだよ。アランに伝えて、今から2時間休憩だって」


 2時間も休憩ってなんだ。
 何する気だ、レティア様に。

「恐れながら殿下、レティア様の本日のドレスは皺になりやすい素材ですので扱いには十分にお気をつけ下さいませ」
「はいはい、わかってるよ。エマは本当にティアにしか興味ないよね」
「当然です。我が太陽はレティア様ですから」
「まぁ、エマったら!」

 くすくすと笑うレティア様が女神に見えるのは何故でしょうか。あっ!女神様だからでした!!
 なるほど納得。

「では失礼致します」
「また後でね、エマ」
「はい、レティア様」

 ぺこりとお辞儀をして、執務室を後にする。
 待機室でアラン様が待っているので、足早に廊下を歩いた。

「アラン様、お待たせしま…」

 そっとドアを開けると、すぅすぅと寝息が聞こえ首元を緩めたラフなアラン様が目を閉じていた。

「お疲れなのね…」

 そっとブランケットを掛けてあげる。
 その間に、お茶の準備を終わらせようとアラン様から離れようとした時。

「きゃっ…!」

 ぐっと腕を引かれてアラン様の胸に倒れ込んでしまった。
 ぎゅっと抱き締められて、私は慌てて離れようとするが思った以上に力が強くて動けない。

「な、何を!アラン様!?」
「エマ•レクスター伯爵令嬢、俺のお願い聞いてくれますか」
「な、とにかく離して下さい!」
「聞いてくれるって約束してくれたら離します」
「いい加減に…」
「え?」
「しなさい!!!」

 ダン!!!と凄まじい音が床に響くと同時に「ぐぅぅっ!」と唸る声も聞こえました。
 それもそのはず。
 私は靴の踵で思いっきりアラン様の足を踏みました。
 無防備な状態からの激痛は予想もしていなかったでしょうから、さぞかし痛いと思います。

「アラン様、先程からお戯が過ぎます。欲を発散したいだけなら、娼館にでも行かれたらいかがでしょうか」
「ち、違…」
「では、一体何なのですか?私は貴方様の暇つぶしの道具ではございません」
「暇つぶしじゃない!俺はエマさんだから抱き締めたいんだ!」
「は…?」

 痛さで浮かんだであろう涙をうっすら溜めて、子犬のような幻影を纏わせつつアラン様からのまさかの攻撃に一瞬思考が停止しました。

「エマ•レクスター伯爵令嬢、どうか、俺と結婚して下さい!!」

 バッと差し出したアラン様の手には、高価そうな箱にちょこんと挟まった金色の指輪が。
 台座には質の高そうなエメラルドが嵌っておりました。

「あの…」

 赤く染まったアラン様の顔、私を射抜く様な真剣な眼差し。
 これで落ちない女はいないと思わせるほど、いつもの冷静な様子とはかけ離れた情熱的な告白。
 私はこれが現実なのか、それともレティア様達の甘い結婚生活に魅せられた幻想なのか、判断がつきませんでした。

 ただ、私には1つの曲げられない想いがございまして。

「レティア様以上には考えられません。お断り致します」

 どうやっても、私の女神を超える事はございません。

 以前の私はどこか侍女という仕事を甘く見ていました。
 ただ、主人の望む様に仕えればいいのだろう、と。

 しかし、転機が訪れたのです。

 隣国の王女様と殿下の縁談が持ち上がり、レティア様と殿下の関係が一時期冷えた事がありました。
 実際はレティア様が殿下にキツいお仕置きを与えたに過ぎませんでしたが。

 殿下に心無い言葉を投げられたレティア様は、泣くでもなく、詰るでもなく、ただ美しい笑みを浮かべてお怒りになったのです。
 あの時の微笑みをみた瞬間、雷に打たれたかのような、神からの啓示を受けたかの様な神聖な気持ちになりました。
 儚げで、殿下の意見には従ってしまいそうな雰囲気を持ちながら、実は芯が強くしっかりとした意志を貫くそのお姿に私は一生を捧げると誓ったのです。

 それからは心を入れ替え、レティア様の恥にならないように立ち居振る舞いから武術に関するまで様々な技術を身に付けました。

「私は、レティア様に一生を捧げたのです」
「それは良かった」
「え?」

 にこにこと微笑みながら、まだ指輪を差し出しているアラン様の意図が読めずに、今度は私がぽかんとしてしまいました。

「エマさんの中で妃殿下が一番なのは解っています。でも、妃殿下は殿下の伴侶です。ということは、エマさんの伴侶の座は空だ。そこに俺を入れて下さい」
「は?」
「というか、伴侶そこに収まるのは俺だと決めていますので、他の奴には絶対に譲りません」
「え?」
「だから、俺と結婚して下さい」
「えぇ?」


 めちゃくちゃな言い分をさも当たり前のように突っ込んでくるこの男。さすが、殿下悪魔と渡り合っている実力はあるというべきか。
 でも、私には必要がないのです。

「お断り致し「そうそう、殿下がそろそろ御子を考えているようですよ、乳母は誰になるんでしょうね?」……はい?」
「妃殿下だけでは大変でしょうし、乳母は必要ですよね。あと、生まれて来た御子には歳の近い友人も必要かもしれませんね」
「ま、まぁ…そうでしょうね」

 ぺらぺらと御子について話し始めるアラン様が何が言いたいのかさっぱり、わからないのですが。

「初めての妊娠は不安が強いと言いますし、妃殿下はお優しいので余計に心配されるでしょうし」
「そうですね…、私も妊娠•出産の知識を身に付けなければ…」


 そうだ、レティア様が不安になった時に1番側にいるのは殿下以外では私の確率が高い。出来るだけ健やかにお過ごし頂く為に、今からすぐに勉強しなければ。

「それがすぐに見つかるいい案があるんですよ」
「え?乳母と、友人ですか?今、高位貴族や城内に妊娠中の方はおられませんが…」
「今は、いないでしょうね」
「どういう事ですか?」

 アラン様は変わらずニコニコとしています。
 アラン様とはレティア様付きになった頃からお話させて頂く事が増えたのですが、未だに底が知れない。
 たまにぞっとする程だ。
 腹黒いというか、頭が良過ぎて理解出来ないというか…とにかく殿下を制御出来る時点で只者ではないと思います。

「エマさんは、妃殿下の御子を妃殿下と共に育てたいとは思いませんか」
「!!!」


 アラン様の一言にはっとする。
 何て魅力的な響きなのでしょうか。
 レティア様の御子なら天使に決まっています。
 ″共に育てたいとは思いませんか″だなんて。

「思うに決まっています」

 むしろ私が立候補します!!
 レティア様と御子のお姿を目にして、悶えないはずがありません。
 女神と天使ですよ!!
 キラキラしてさぞ美しい光景なんでしょうね!!

 乳母…ということは、私も妊娠して出産をしなければ!!
 あぁ、知識だけで何とかなると思った自分が恥ずかしい!!レティア様の御子の乳母になるには2、3ヶ月先に出産しなければ!!

「今すぐに御子を授かる方法…」

 …ない。
 未だに婚約すらしていない私には御子など望めない。
 何という事でしょうか。
 私としたことが、レティア様をお支えする事が出来ないなんて。

「アラン様…私は無力です…」

 絶望感でいっぱいの私はアラン様にそう呟いていました。

「エマさんに出来る事は1つだけありますよ」
「私に…こんな私に何が出来るのでしょう…」

 先を見越す力のない私などに。

「今すぐ俺と結婚して、妃殿下の妊娠時期を予測し、それに合わせて俺との子を授かりましょう」
「御子は神からの授かりものです。予測など…」
「殿下と俺が予測すれば、出来ます。必ず」
「どこからその自信が出てくるんですか」

 思わず唖然とした表情で聞いてしまいました。
 だって神の所業ですもの。

「以前、東洋から女性が妊娠•出産に至るまでの医学書を手に入れたんですが、どうやら妊娠しやすい周期が存在するらしいのです。妃殿下が妊娠について悩む事のないように、殿下は熱心にそれを読んでいました。証明とまではいきませんが、婚約中から現在に至るまで妃殿下が妊娠していない事の方がおかしいと思いませんか」
「それは…そうですが」
「あれだけ毎日励んでいるにも関わらず、妊娠の兆しはない。殿下は計算して妊娠しやすい日は子種を中には出していません」
「あ、貴方がたは何て話をしているんですか…」

 かぁっと顔が熱くなる。
 昼間から子種だの、中で出してないだのとよく平気で言えますね。

「大事な事です。子供は未来の国の宝ですから。周期を知っているのと知らないのでは確率が違いますからね」
「では、殿下は御子を授かる時期を検討していると」
「そうです、結婚後しばらくは2人で居たいと言っていましたが、あまりに期間が空くと妃殿下に心無い事を言う輩が出るかもしれないから、と」
「そうですか」
「だから俺と結婚して下さい」
「…どうしてそうなるんです!私はアラン様が好きではありませんし、アラン様だって女性ならより取り見取りでしょう?」

 そうなのです。アラン様は数多のご令嬢の中からお好きな方を選んで結婚すれば良いのです。
 何も私でなくとも。

「俺は、エマさんが好きなんです」
「私は、アラン様には釣り合いませんし、好きでもありません。自分を好きでもない女と結婚など、不幸への第1歩ですよ!」
「俺は、自分が好きな女性と結ばれたい。そして、エマさんを必ず俺に惚れさせます。どんな手を使っても必ず、ね?」


 にっこり、と微笑む様はまるで天使のようで。
 思わず見惚れてしまいました。
 ドクドクと心臓が痛くなってきました。
 そう、すでに遅かったのです。
 私はアラン様の罠にかかっていたようです。

「絶対幸せにします、俺のたった1人のお姫様」

 そう言って、アラン様はそっと私の左手薬指にキスを落とし、指輪を嵌めました。


「で、上手く求婚は成立した、と」

 ニヤニヤしている殿下と、にこにこしている女神なレティア様が寄り添いながら私を見つめてくるのですが。

 居た堪れない気持ちでどうすれば良いか、わかりません。
 しっかりと繋がれた手が熱くて手汗が止まりません。

「はい、殿下、妃殿下、ご協力ありがとうございました」
「アラン様、きちんとエマの心は得られましたか?」
「はい、エマさんは俺にきちんと惚れて頂きます」
「今から惚れさすのかよ」
「え?今からなの?」

 にこにことアラン様が殿下とレティア様に報告をしているのですが、決定事項のように私はアラン様に惚れさせられるようです。
 レティア様も驚いた様子で私を見ていますが、今日もお麗しいので幸せです。

「エマ、アラン様に無理矢理迫られたわけじゃないのよね?大丈夫なのよね?」

 心配そうにオロオロとして、私に問いかけるレティア様は何て愛らしい…。

「アラン様?エマに無体な事をしたら私は許しませんよ?」
「妃殿下、私は殿下ほど策士ではございませんので、ご安心ください。ある提案をして、エマさんがそれに乗っただけです。気持ちはこれから追々手に入れますので」
「提案?」

 訝しげな表情で、アラン様を睨むレティア様もまた大変貴重なものです。

「今すぐ結婚して、妃殿下の御子の乳母になりましょう、と」
「は?…え!?」
「あはははは!!エマには殺し文句だね!!」
「え!?それがプロポーズ!?」
「プロポーズをきちんとした上で、断られたので提案に形を変えたのです」
「断ったの!?エマ!?ちょっと、話をしましょう!!」
「あっはははは!!アラン断られたんだ!?だよねぇ!!」

 慌てるレティア様、淡々と報告するアラン様、大笑いする殿下。
 温度差がとても酷いです。

「エマ、ちょっとこちらへ」
「はい、レティア様」

 レティア様に手招きをされ、執務室の隅に移動した私達はヒソヒソと話を始めました。

「エマ、アラン様に脅されたりしてない?あの人たまにレオみたいになるのよ」
「大丈夫です、脅されていません。大変魅力的な提案をされて、納得した上ですから。他の女性も勧めてはみましたが、私が…いいと言う…ので…」
「良かった!エマもアラン様が好きなのね!」
「なっ!違いますよ!私はレティア様の御子を共に育てたいと…」
「違うわよ、エマ。気付いてないかも知れないけど、アラン様とエマはいつもお互いを探してたのよ、視線で」
「は!!?」
「レオと2人でいつ付き合うのかしらっていつも言ってたの」


 にこにこと笑いながらレティア様がそう告げられ、ぼっと顔が赤くなるのがわかりました。

「自覚はないんだろうなって思ってたけど、やっぱりそうなのね。でも良かったわ、実は他に好きな人がいる可能性もゼロではなかったから、協力するかどうかちょっと悩んだのよ」
「あ、ご心配をおかけしました。あの、レティア様、いつからそう思っていたのでしょうか」
「そうねぇ、エマが侍女の仕事極めるって勉強しだしてしばらくしてかしら?アラン様の視線がレオみたいに甘くなる瞬間があって」
「えぇ…そんな時から…?」
「で、挙式前にアラン様が愚痴ってるって話からレオの企みをエマが推測したってあったじゃない?あれで確信したのよ、アラン様の気持ち」
「そんな事もありましたね、確かに。でも愚痴くらいなら他の方にも言うでしょうし、それで良く解りましたね」
「あら、アラン様は余り他人に興味もないし、私をレオに仕事させるための燃料くらいにしか考えてないような人よ?そんな人が機密も多い仕事内容を信用してない人以外に言うなんてありえないわよ。しかもあの甘い目。少なくとも私に向けられた事はないわ」
「う、そ、そうですか…」
「エマもアラン様には心を許してるみたいだったし。他の人がそんな愚痴言ったら、そんなに嫌なら辞めたらどうですか、とか言いそうなもんだけど。アラン様の話はいつも聞いてたじゃない?」
「あ、まぁ、確かに…」
「だから、エマもアラン様が好きなのかなって。両思いなら協力しようかしらって思ったの」
「なるほど…」

 レティア様の観察眼恐るべし!!
 とても良く見られていて、エマはびっくり致しました。
 しかし、アラン様め…レティア様を燃料だなんて何て失礼な…もっと足を強く踏めば良かった!!

「ティア、エマにアランの良い所だけ言って。破談になるよ」
「妃殿下、協力して下さると約束したじゃありませんか」

 2人の悲しげな視線がレティア様に向かっている。

「あら、ごめんなさい?エマ、アラン様はいい所もあるのよ、女性はエマ以外どうでもいいって思ってるわ!!」
「待って!ティアそれ悪口じゃない?」
「妃殿下、俺はエマさん以外の女性は…確かにどうでもいいですね」
「アラン!?それ認めていいやつ!?」

 殿下が慌てて取り繕っておりますが、当のアラン様は顎に手を当てて考えた後、肯定してしまいました。

「あら、女性にとっては大事な事ですわ。なら、レオは私以外に興味がおありなのかしら?」
「ないです、全く!」

 きっぱりと曇りない眼で殿下がそう言い切っていました。
 レティア様は満足そうに笑っています。
 確かに誰にでも優しい方は嫌かもしれません。
 いや、非道であって欲しいわけではありませんけれども。

「レオだって、私が他の男性にもいい顔をしたら嫌そうな顔するじゃありませんか」
「ティアは俺のだから仕方ないでしょ?」
「そういう事です」
「あぁ、そうか」

 殿下も納得して最早何の話か解らなくなってきました。

「エマ、私達の子供の乳母の話は凄く嬉しいけど、そうじゃなくて、エマの気持ちを1番優先してね。結果がどうでも私達がお互いに大切に思っているのは変わらないんだから」
「レティア様…」

 じわり、と涙が浮かんできました。レティア様が尊過ぎて、レティア教に改宗したいくらいです。
 けれど、先程のレティア様のお話を聞いてきちんと自覚しました。

「私は、アラン様が…、ちゃんと好きです」

 顔が熱いし、手も震えますがレティア様に嘘はつけません。

「まぁ、良かったわ。アラン様、エマを宜しくお願いしますね」
「良かったな、アラン」
「はい、お2人ともありがとうございました。それから、エマ」
「は、はい」
「俺は一生を掛けて貴方を幸せにします。一緒に殿下、妃殿下を支えつつ、2人の幸せも大事にしましょう」
「アラン様、ありがとうございます。これから、宜しくお願いします」
「はい!」


 それからとんとん拍子に話は進み、殿下とレティア様の尽力もあり挙式まで最短で進みました。
 殿下、レティア様に出席して頂いた挙式では、ティアラブランドからレティア様がデザインした幻のドレスと、アラン様が何日も徹夜で考えたデザインの宝飾品一式を身に纏い感動で泣いてしまいました。

 それから数ヶ月後の今、私はお腹に宿った小さな命を想いながら殿下と妃殿下をモデルにした実話に近い絵本を作成しています。
 我が子と、数ヶ月違いで生まれる殿下とレティア様の第一子の為に、愛の詰まった物語にしようと思いますが、殿下の猿っぷりは省略したいと思います。子供に読ませる内容ではございませんので。
 ともあれ、殿下のレティア様に対する愛情だけは尊敬に値するので、生まれてくる子供達に継いでいきたいと思います。レティア様の神々しさや、優しい所は存分に盛り込むので、読んだ人がレティア様を神と崇めればいいと願いを込めています。

 アラン様と何度も意見を交わし、もうすぐ出来上がる絵本。
 まずはレティア様に読んで頂きたいと思って、日々過ごしています。

「エマ、もう遅いから寝よう?」
「そうね、アラン」

 夫となったアランは、殿下の過剰な溺愛を真似る事なく、ちょうどいい愛で私を大切にしてくれている。
 今は、長い物語の序章の部分を2人で書いている途中。

 きっとハッピーエンドが待っている。


 終
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