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11 リュダール視点
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「あなたに大切な話があるの」
ティアラが真っ直ぐに視線を寄越した。俺は真剣な表情の彼女に魅入られる。
どうしていつもこんなに綺麗なんだろう。毎日見たら少しはこの鼓動も落ち着くのかな。
「大切な話って何?」
今俺達にとって大切な話は結婚式の事だろう。あぁ、結婚指輪を相談しに行く日を決めるのかもしれない。
「リュダール…もう…嘘は吐かないでいいのよ…」
今にも雨が降りそうな空の下、ティアラは静かにそう言った。悲しげでどこか諦めを含んだような、抑揚のない声で。
「ティアラ…?」
俺は一体何の話をされているのかわからなかったが、一つだけ『嘘』に思い当たるふしがある。でも、それをティアラが知るはずもない。
「あなたが本当に好きな…アリーシャと婚約したら?」
俺の大好きな笑顔でティアラはありえない事を言う。どうして俺がアリーシャを好きなんだ。俺が好きなのは君以外いないのに。
タチの悪い冗談かと、ふと苛立ちが芽生える。冗談にしても言っていい事と悪い事がある。
「ティアラ…本気で言っているのか?」
俺はいつだってティアラだけを見ている。幼い頃からずっと、大人になった今でも変わる事のない想い。
「本気でなければ、言わないわ。嫌いな女と結婚するより、好いたアリーシャとあなただって添い遂げたいでしょう?」
嫌いな女?ティアラを?あり得ない。好きで好きで好きすぎてどうにかなりそうなのに、嫌いな訳がないだろ。しかも、アリーシャと添い遂げるだと?天地がひっくり返っても、嫌だ。
「アリーシャを女として好きだと思った覚えはない」
妹としてなら好きの部類だが、大好きなティアラの妹だから、大切にしている。それ以上でも以下でも無い。俺は優しくて、みんなの事を優先して自分が割を食うようなお前を愛してるんだ。そうでなくても全部好きなのに。
一体何を言い出すのかと、ティアラを見たら背筋がぞっとした。何の感情も無いような、こんな冷たい表情を見た事は……一度しか…ない。
まさか…。
いや、あれではないはず。
俺達のしていた事をティアラは知らないはず。
つ、と背中を嫌な汗が伝った。
「まぁ!ふふふ…!あんなにアリーシャと密会を繰り返し続けてもまだ否定するの?」
「え……」
俺は頭が真っ白になった。全身の血の気が引いていく。まさか、の予感が的中してしまった。
一番知られてはいけない、俺の中では絶対に表に出せない感情を知っているというのか。
焦って逸らした視線をティアラに向けるのが怖い。
俺がして来た事が、彼女に知られているかもしれない事が…こんなにも恐ろしいなんて。
「私は、あなたと婚約解消を要求します」
冷たい視線を浴びながら、ティアラは静かに…それでいて揺るぎない意志を持った声で俺を貫いた。
「ぁ…ティ…」
絞り出そうとした声はギリギリと何かに首を絞められているかのようにそれ以上出なかった。
どうして?いつから知っていた?
グルグルとそんなくだらない疑問が浮き沈みを繰り返す。アリーシャと交わした約束は俺にとっては甘美な物であったから。
ティアラに隠れてアリーシャに会っていた。どうしても、ティアラには知られたく無かったから隠した。アリーシャは俺が喉から手が出る程欲しい物を、いとも簡単に手に入れていたから…それを俺に渡すと言われて欲が出たんだ。どうせティアラ以外の女にコソコソ会わなきゃならない事を考えたら、それくらいの褒美がないと割に合わない。
だから、俺は。
「待っ……ティアラ……」
すでにそこに彼女はいない。行かなければ…しかし縫い付けられたみたいに足が動かない。ティアラを追わなければ。今すぐに全てを話して、赦しを乞えば……でも、話す事によって…二度と俺を視界に入れたく無いと思われたら…?
「嫌…嫌だ……ティアラ…」
ぽつぽつと空から雨が降って来る。それが次第に激しく落ちて来ようとも、暫くそこから動けなかった。
俺は…君が好きで…君も…俺を好きでいてくれて。
結婚式だってもうすぐ……楽しみだねと笑っていたのに。
「…ティアラ…君だけ…俺には…」
見開いた瞳に映るのは降り注ぐ雨と君がいるはずの席。
今は、誰もいない。
「…婚約解消なんて…しない……絶対……」
呟いた言葉は流れ出た涙と一緒に雨に流された。
ティアラが真っ直ぐに視線を寄越した。俺は真剣な表情の彼女に魅入られる。
どうしていつもこんなに綺麗なんだろう。毎日見たら少しはこの鼓動も落ち着くのかな。
「大切な話って何?」
今俺達にとって大切な話は結婚式の事だろう。あぁ、結婚指輪を相談しに行く日を決めるのかもしれない。
「リュダール…もう…嘘は吐かないでいいのよ…」
今にも雨が降りそうな空の下、ティアラは静かにそう言った。悲しげでどこか諦めを含んだような、抑揚のない声で。
「ティアラ…?」
俺は一体何の話をされているのかわからなかったが、一つだけ『嘘』に思い当たるふしがある。でも、それをティアラが知るはずもない。
「あなたが本当に好きな…アリーシャと婚約したら?」
俺の大好きな笑顔でティアラはありえない事を言う。どうして俺がアリーシャを好きなんだ。俺が好きなのは君以外いないのに。
タチの悪い冗談かと、ふと苛立ちが芽生える。冗談にしても言っていい事と悪い事がある。
「ティアラ…本気で言っているのか?」
俺はいつだってティアラだけを見ている。幼い頃からずっと、大人になった今でも変わる事のない想い。
「本気でなければ、言わないわ。嫌いな女と結婚するより、好いたアリーシャとあなただって添い遂げたいでしょう?」
嫌いな女?ティアラを?あり得ない。好きで好きで好きすぎてどうにかなりそうなのに、嫌いな訳がないだろ。しかも、アリーシャと添い遂げるだと?天地がひっくり返っても、嫌だ。
「アリーシャを女として好きだと思った覚えはない」
妹としてなら好きの部類だが、大好きなティアラの妹だから、大切にしている。それ以上でも以下でも無い。俺は優しくて、みんなの事を優先して自分が割を食うようなお前を愛してるんだ。そうでなくても全部好きなのに。
一体何を言い出すのかと、ティアラを見たら背筋がぞっとした。何の感情も無いような、こんな冷たい表情を見た事は……一度しか…ない。
まさか…。
いや、あれではないはず。
俺達のしていた事をティアラは知らないはず。
つ、と背中を嫌な汗が伝った。
「まぁ!ふふふ…!あんなにアリーシャと密会を繰り返し続けてもまだ否定するの?」
「え……」
俺は頭が真っ白になった。全身の血の気が引いていく。まさか、の予感が的中してしまった。
一番知られてはいけない、俺の中では絶対に表に出せない感情を知っているというのか。
焦って逸らした視線をティアラに向けるのが怖い。
俺がして来た事が、彼女に知られているかもしれない事が…こんなにも恐ろしいなんて。
「私は、あなたと婚約解消を要求します」
冷たい視線を浴びながら、ティアラは静かに…それでいて揺るぎない意志を持った声で俺を貫いた。
「ぁ…ティ…」
絞り出そうとした声はギリギリと何かに首を絞められているかのようにそれ以上出なかった。
どうして?いつから知っていた?
グルグルとそんなくだらない疑問が浮き沈みを繰り返す。アリーシャと交わした約束は俺にとっては甘美な物であったから。
ティアラに隠れてアリーシャに会っていた。どうしても、ティアラには知られたく無かったから隠した。アリーシャは俺が喉から手が出る程欲しい物を、いとも簡単に手に入れていたから…それを俺に渡すと言われて欲が出たんだ。どうせティアラ以外の女にコソコソ会わなきゃならない事を考えたら、それくらいの褒美がないと割に合わない。
だから、俺は。
「待っ……ティアラ……」
すでにそこに彼女はいない。行かなければ…しかし縫い付けられたみたいに足が動かない。ティアラを追わなければ。今すぐに全てを話して、赦しを乞えば……でも、話す事によって…二度と俺を視界に入れたく無いと思われたら…?
「嫌…嫌だ……ティアラ…」
ぽつぽつと空から雨が降って来る。それが次第に激しく落ちて来ようとも、暫くそこから動けなかった。
俺は…君が好きで…君も…俺を好きでいてくれて。
結婚式だってもうすぐ……楽しみだねと笑っていたのに。
「…ティアラ…君だけ…俺には…」
見開いた瞳に映るのは降り注ぐ雨と君がいるはずの席。
今は、誰もいない。
「…婚約解消なんて…しない……絶対……」
呟いた言葉は流れ出た涙と一緒に雨に流された。
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