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あのお披露目パーティーから二週間、私は神殿で祈りを捧げている。
「で、ジャスティンとはどう?」
「婚約者候補筆頭になってしまって、困っている所です。相変わらず顔は可愛いんですけど」
「そうよね!可愛いわよね!」
祈祷室で祈りを捧げると現れる女神様は、ジャスティンとの進展具合に興味深々だが女神様が望むほどキャッキャうふふな雰囲気にはなっていない。
「素直じゃないからね、ジャスティンは」
「前に比べればまだ子供らしいですよ」
「それはミリオネアが、18歳目線で見てるからでしょ?」
「あ、そうでした」
一つ不可解なのは、ジャスティンは私を聖女殿と呼び、名前を呼ばない。
それが謎で疑問が残る。
「ジャスティンは私の名前を呼ばないんですよ、何でなのかしら…?」
「うーん…もしかしたら前の記憶か感情が薄ら残ってるのかもね?無意識に距離を取らなければ、と思ってるのかも」
「なら、婚約まで行かないですね。私の予想ではクリスティ様が有力かと思いますが」
「えー…ミリオネア、頑張ってぇ…」
女神様は私達をどうしてもくっつけたいらしい。
アダム様の事を聞いたら教えてくれないかしら。
「女神様、あの…」
「あっ!ヴェーレイが来るわ!またね、ミリオネア!」
ふっと空間が元に戻る。
直後に祈祷室のドアが開き、紅茶とお菓子を持った神官がゾロゾロと入って来た。
「ミリオネア様!疲れたでしょう!さぁ、お茶でも飲んで下さい!」
「ヴェーレイ様、お気遣いなく…。大丈夫ですから」
「ミリオネア様の為にお茶が用意出来る幸せを噛み締めているのです!この年寄りの楽しみを奪わないで下さい」
「まぁ…ヴェーレイ様ったら…」
にこにこと好好爺のような顔をして、ヴェーレイ様は私と話をする。
聖人として崇められたラジュラン様の事や、その時の歴史などを細かく教えてくれた。
私も興味深く、面白い為に延々と聞いてしまって一日が終わる。
最近はそれの繰り返しだ。
「そういえば、ジャスティン殿下が後でこちらに来るようですぞ」
「そうなんですか」
はて?何かあるのかな。
あのパーティー以来、二回程お茶をしているがそれも周りがお膳立てしての話で彼自ら神殿に来るのは初めてだ。
「あ、来られたようです。こちらにお通しします」
「はい、お願いします」
ヴェーレイ様達はそっと祈祷室を後にした。
開けられたドアの向こうに護衛が二名立っている他は誰もいない。
「子供だからいいのかしら…」
ぽつりと呟く。
成長すれば、部屋に二人きりはありえないから。
「聖女殿、失礼する」
「王国の小太陽にご挨拶申し上げます」
席を立って、私は挨拶をする。
ジャスティンは嫌そうな表情をして「挨拶はいいよ」といつも言うのだが。
「新たな婚約者候補が決まったらしい」
「まぁ、そうなんですか。どちらのご令嬢ですか?」
「ジーランド公爵家のクリスティ嬢だ」
「お綺麗な方で良かったですわね」
「……本当にそう思うか?」
「え?」
私はきょとんとした。
ジャスティンからそんな事を聞くとは思わなかったからだ。
前はよくダンスしてましたよ、とは言えないけれども。
「殿下はご不満で?」
「不満というか、そんなに候補は沢山必要なのかと疑問なんだ」
「まぁ…相性の良い人を探すには、数はいるかも知れませんね」
「相性ね…聖女殿はどんな人だったらいいと思う?」
そうねぇ、素直で賢くて清楚で可憐で…私以外かしら!
そう言ってしまったら色々問題なんでしょうね。
「そうですね…一途に殿下を思って、国を大事にする人ですかね…?」
「ふぅん。俺を一途にね…。居るのかな、そんな人」
「居るでしょう、そりゃ」
「聖女殿は違うんだろう?」
「私は聖女枠でいるお飾りのようなものですから」
お飾り。
自分で言うのって、何だか虚しいわ。
それに、ジャスティンだって私を好きじゃないでしょうに。
「お飾りね…」
ジャスティンが以前に見せていた熱の籠ったような顔は見た事がない。
10歳の頃から、ジャスティンは私にべったりだった。
今は違う。
用が無ければお互いに会わない。
「いわば殿下の防御壁みたいなもんでしょう、私は」
「防御壁…」
「候補希望者をふるいにかける網みたいな?」
「……ふっ…はは!!網!!ははは!!」
ジャスティンが肩を揺らして笑い出した。
どこがそんなに面白かったのかしら。
「自分を網と言うとは…聖女殿は中々面白い」
「至って真面目に生きておりますわ」
「不真面目だとは言ってないだろ?」
「まぁそうですけど…」
「聖女殿は不満らしい。頬が膨れている」
「…殿下、嫌味ですか。肉ですわ、肉」
「ぶっ…あはは!!令嬢が肉と言うなんて!!普通の令嬢なら泣いているぞ!」
ジャスティンはいつからこんなに面白い子になったのかしら。
冗談とか言う子だった?
「あら、普通の令嬢じゃなくてすみませんね。殿下は泣かせるのが趣味なのかしら?」
「ふっ…そうだな、そうかもな」
「悪趣味ですこと。笑うとお可愛いらしいですわね」
「聖女殿に褒められて嬉しいよ」
「まぁ、前はプンプンしてたのに!可愛くない!」
ジャスティンとこんな会話が出来るなんて、やっぱり変化はあるのね。
良い方向に変わっているから、良かったわ…。
「プンプンしてれば可愛いのか?ならばずっとプンプンしていないとな」
「それは面倒…いえ、困りますね」
「面倒…ふっ…ははは!!面倒なんて言われたのは初めてだ!」
ジャスティンはとうとうお腹を押さえて笑い出した。
何事かと中を覗いた護衛がぎょっとしている。
わかるわ、その気持ち!
私もびっくりしているもの!
「失礼しました。でもずっとプンプンはやめて下さいね。笑っている殿下の方が素敵ですから」
「ふふ…そうか?なら聖女殿といる時は笑っていよう」
「光栄ですわ」
目を見合わせて笑い合う私達は、あの頃よりもずっといい関係だ。
きっとこういう関係の先にある物が、恋や愛に変われば上手くいくのだろう。
あの頃の二人は、お互い以外は受け入れないようなどこか歪でドロリとした何かに纏わりつかれているみたいだったから。
「お邪魔しますよ」
「あ、ヴェーレイ様」
「大神官、どうした」
「私も話に交ぜてもらおうかと思いましてな」
ヴェーレイ様は色んな話をしてくれる。
歴史の話や、神々の話など。
ジャスティンもすっかりハマってしまって、真剣な顔をして聞き入っている。
すっかり日が落ちてしまい、私は慌てて帰るハメになった。
「聖女殿、今日は楽しかった。大神官があんなに面白いとは知らなかったよ」
「ヴェーレイ様はお話し好きですからね。また一緒に聞きましょう」
「あぁ、次はいつ来るんだ?」
「そうですね…魔法の訓練があるので…三日後でしょうか」
魔法の訓練と口にした瞬間、ジャスティンの目がキラリと光った気がした。
「それは、聖女殿の家でか?」
「そうです、お兄様に教えて貰っているので」
「あの…俺も、俺も明日…行っても良いだろうか…」
おずおず…といった様子で聞いてくるジャスティンはまるで天使のようで。
今頃、女神様も悶絶しているんじゃないのかしら。
「良いですよ、ぜひいらして下さい」
「本当か!?」
「はい、本当です」
思わずにっこりと笑ってしまう。
ジャスティンも奇跡を起こしそうな満面の笑みを弾けさせた。
あぁ可愛い!!可愛いわ!!
私は思わず手を伸ばしてジャスティンの頭を撫でてしまった。
「あ、すみません、つい」
「う、いや…」
目を見開いて固まったジャスティンに、しまった!と焦った私は謝る選択をした。
ジャスティンは下を向いてしまったが、耳が赤くなっているのが見えて笑いそうになる。
久しぶりに触れた柔らかな髪が手に心地いい。
「では殿下、明日お待ちしていますね」
「あぁ…」
私は馬車に乗り、ジャスティンに手を振る。
ジャスティンは一瞬迷った後、そっと手を上にあげた。
幼い頃は、ジャスティンが不器用に示していた態度も気付いてあげられなかったけど。
馬車が出発した後、私は優しい気持ちになった。
次の日、緊張した面持ちで我が家にやって来たジャスティンは、お兄様に防御の魔法を習いたいと言っていた。
「殿下、いいですか。防御魔法は弾いたり、吸収したりと使い方が多いです。殿下は何を防御したいですか?」
「…人…かな」
「では、ミリオネアを守り通して下さい」
「聖女殿を…守る」
ジャスティンはじっと私を見る。
濃紺の瞳がゆらりと揺れた。
「そうです、俺はミリオネアを攻撃しますから。殿下が失敗したら、ミリオネアは傷だらけになりますよ。死ぬ気で守って下さいね」
「う、わかった」
「殿下、私をお守り下さいませ!」
芝居がかった風にジャスティンを頼ってみる。
ジャスティンはぐっと拳を握り、「わかった」と真剣な顔つきになった。
私はじっと見惚れてしまった。
あんなカッコいい表情をされたら、うっかり惚れてしまいそうだ。
「防御」
キィンと私の周りを透明な壁が覆う。
でもこの防御魔法は弱い。
これではお兄様の攻撃は弾けない。
「じゃあいきますよ」
ぴんっと指を弾いたお兄様の攻撃魔法はあっという間にジャスティンが展開した防御壁を破った。
パン!と音がして、私は無防備になる。
「あっ…!防御!」
キィンとまた壁が出来たが、これも弱い。
ムラがあるというか、均等になっていないというか。
すぐにお兄様の攻撃に破られてしまう。
数十回と繰り返し、とうとうジャスティンが座り込んでしまった。
「殿下、防御のイメージはちゃんと出来てますか?」
「イメージ…」
「俺がミリオネアを守るなら、ミリオネアのどこにも傷を付けたくない。だから、全部丸ごと防御します。でも殿下はそうじゃない」
「俺も、聖女殿の全体を覆うつもりでいるが…」
ジャスティンは困惑した表情を見せる。
自分が抱いているイメージと、実際に展開される物が違うのだろうか。
「で、ジャスティンとはどう?」
「婚約者候補筆頭になってしまって、困っている所です。相変わらず顔は可愛いんですけど」
「そうよね!可愛いわよね!」
祈祷室で祈りを捧げると現れる女神様は、ジャスティンとの進展具合に興味深々だが女神様が望むほどキャッキャうふふな雰囲気にはなっていない。
「素直じゃないからね、ジャスティンは」
「前に比べればまだ子供らしいですよ」
「それはミリオネアが、18歳目線で見てるからでしょ?」
「あ、そうでした」
一つ不可解なのは、ジャスティンは私を聖女殿と呼び、名前を呼ばない。
それが謎で疑問が残る。
「ジャスティンは私の名前を呼ばないんですよ、何でなのかしら…?」
「うーん…もしかしたら前の記憶か感情が薄ら残ってるのかもね?無意識に距離を取らなければ、と思ってるのかも」
「なら、婚約まで行かないですね。私の予想ではクリスティ様が有力かと思いますが」
「えー…ミリオネア、頑張ってぇ…」
女神様は私達をどうしてもくっつけたいらしい。
アダム様の事を聞いたら教えてくれないかしら。
「女神様、あの…」
「あっ!ヴェーレイが来るわ!またね、ミリオネア!」
ふっと空間が元に戻る。
直後に祈祷室のドアが開き、紅茶とお菓子を持った神官がゾロゾロと入って来た。
「ミリオネア様!疲れたでしょう!さぁ、お茶でも飲んで下さい!」
「ヴェーレイ様、お気遣いなく…。大丈夫ですから」
「ミリオネア様の為にお茶が用意出来る幸せを噛み締めているのです!この年寄りの楽しみを奪わないで下さい」
「まぁ…ヴェーレイ様ったら…」
にこにこと好好爺のような顔をして、ヴェーレイ様は私と話をする。
聖人として崇められたラジュラン様の事や、その時の歴史などを細かく教えてくれた。
私も興味深く、面白い為に延々と聞いてしまって一日が終わる。
最近はそれの繰り返しだ。
「そういえば、ジャスティン殿下が後でこちらに来るようですぞ」
「そうなんですか」
はて?何かあるのかな。
あのパーティー以来、二回程お茶をしているがそれも周りがお膳立てしての話で彼自ら神殿に来るのは初めてだ。
「あ、来られたようです。こちらにお通しします」
「はい、お願いします」
ヴェーレイ様達はそっと祈祷室を後にした。
開けられたドアの向こうに護衛が二名立っている他は誰もいない。
「子供だからいいのかしら…」
ぽつりと呟く。
成長すれば、部屋に二人きりはありえないから。
「聖女殿、失礼する」
「王国の小太陽にご挨拶申し上げます」
席を立って、私は挨拶をする。
ジャスティンは嫌そうな表情をして「挨拶はいいよ」といつも言うのだが。
「新たな婚約者候補が決まったらしい」
「まぁ、そうなんですか。どちらのご令嬢ですか?」
「ジーランド公爵家のクリスティ嬢だ」
「お綺麗な方で良かったですわね」
「……本当にそう思うか?」
「え?」
私はきょとんとした。
ジャスティンからそんな事を聞くとは思わなかったからだ。
前はよくダンスしてましたよ、とは言えないけれども。
「殿下はご不満で?」
「不満というか、そんなに候補は沢山必要なのかと疑問なんだ」
「まぁ…相性の良い人を探すには、数はいるかも知れませんね」
「相性ね…聖女殿はどんな人だったらいいと思う?」
そうねぇ、素直で賢くて清楚で可憐で…私以外かしら!
そう言ってしまったら色々問題なんでしょうね。
「そうですね…一途に殿下を思って、国を大事にする人ですかね…?」
「ふぅん。俺を一途にね…。居るのかな、そんな人」
「居るでしょう、そりゃ」
「聖女殿は違うんだろう?」
「私は聖女枠でいるお飾りのようなものですから」
お飾り。
自分で言うのって、何だか虚しいわ。
それに、ジャスティンだって私を好きじゃないでしょうに。
「お飾りね…」
ジャスティンが以前に見せていた熱の籠ったような顔は見た事がない。
10歳の頃から、ジャスティンは私にべったりだった。
今は違う。
用が無ければお互いに会わない。
「いわば殿下の防御壁みたいなもんでしょう、私は」
「防御壁…」
「候補希望者をふるいにかける網みたいな?」
「……ふっ…はは!!網!!ははは!!」
ジャスティンが肩を揺らして笑い出した。
どこがそんなに面白かったのかしら。
「自分を網と言うとは…聖女殿は中々面白い」
「至って真面目に生きておりますわ」
「不真面目だとは言ってないだろ?」
「まぁそうですけど…」
「聖女殿は不満らしい。頬が膨れている」
「…殿下、嫌味ですか。肉ですわ、肉」
「ぶっ…あはは!!令嬢が肉と言うなんて!!普通の令嬢なら泣いているぞ!」
ジャスティンはいつからこんなに面白い子になったのかしら。
冗談とか言う子だった?
「あら、普通の令嬢じゃなくてすみませんね。殿下は泣かせるのが趣味なのかしら?」
「ふっ…そうだな、そうかもな」
「悪趣味ですこと。笑うとお可愛いらしいですわね」
「聖女殿に褒められて嬉しいよ」
「まぁ、前はプンプンしてたのに!可愛くない!」
ジャスティンとこんな会話が出来るなんて、やっぱり変化はあるのね。
良い方向に変わっているから、良かったわ…。
「プンプンしてれば可愛いのか?ならばずっとプンプンしていないとな」
「それは面倒…いえ、困りますね」
「面倒…ふっ…ははは!!面倒なんて言われたのは初めてだ!」
ジャスティンはとうとうお腹を押さえて笑い出した。
何事かと中を覗いた護衛がぎょっとしている。
わかるわ、その気持ち!
私もびっくりしているもの!
「失礼しました。でもずっとプンプンはやめて下さいね。笑っている殿下の方が素敵ですから」
「ふふ…そうか?なら聖女殿といる時は笑っていよう」
「光栄ですわ」
目を見合わせて笑い合う私達は、あの頃よりもずっといい関係だ。
きっとこういう関係の先にある物が、恋や愛に変われば上手くいくのだろう。
あの頃の二人は、お互い以外は受け入れないようなどこか歪でドロリとした何かに纏わりつかれているみたいだったから。
「お邪魔しますよ」
「あ、ヴェーレイ様」
「大神官、どうした」
「私も話に交ぜてもらおうかと思いましてな」
ヴェーレイ様は色んな話をしてくれる。
歴史の話や、神々の話など。
ジャスティンもすっかりハマってしまって、真剣な顔をして聞き入っている。
すっかり日が落ちてしまい、私は慌てて帰るハメになった。
「聖女殿、今日は楽しかった。大神官があんなに面白いとは知らなかったよ」
「ヴェーレイ様はお話し好きですからね。また一緒に聞きましょう」
「あぁ、次はいつ来るんだ?」
「そうですね…魔法の訓練があるので…三日後でしょうか」
魔法の訓練と口にした瞬間、ジャスティンの目がキラリと光った気がした。
「それは、聖女殿の家でか?」
「そうです、お兄様に教えて貰っているので」
「あの…俺も、俺も明日…行っても良いだろうか…」
おずおず…といった様子で聞いてくるジャスティンはまるで天使のようで。
今頃、女神様も悶絶しているんじゃないのかしら。
「良いですよ、ぜひいらして下さい」
「本当か!?」
「はい、本当です」
思わずにっこりと笑ってしまう。
ジャスティンも奇跡を起こしそうな満面の笑みを弾けさせた。
あぁ可愛い!!可愛いわ!!
私は思わず手を伸ばしてジャスティンの頭を撫でてしまった。
「あ、すみません、つい」
「う、いや…」
目を見開いて固まったジャスティンに、しまった!と焦った私は謝る選択をした。
ジャスティンは下を向いてしまったが、耳が赤くなっているのが見えて笑いそうになる。
久しぶりに触れた柔らかな髪が手に心地いい。
「では殿下、明日お待ちしていますね」
「あぁ…」
私は馬車に乗り、ジャスティンに手を振る。
ジャスティンは一瞬迷った後、そっと手を上にあげた。
幼い頃は、ジャスティンが不器用に示していた態度も気付いてあげられなかったけど。
馬車が出発した後、私は優しい気持ちになった。
次の日、緊張した面持ちで我が家にやって来たジャスティンは、お兄様に防御の魔法を習いたいと言っていた。
「殿下、いいですか。防御魔法は弾いたり、吸収したりと使い方が多いです。殿下は何を防御したいですか?」
「…人…かな」
「では、ミリオネアを守り通して下さい」
「聖女殿を…守る」
ジャスティンはじっと私を見る。
濃紺の瞳がゆらりと揺れた。
「そうです、俺はミリオネアを攻撃しますから。殿下が失敗したら、ミリオネアは傷だらけになりますよ。死ぬ気で守って下さいね」
「う、わかった」
「殿下、私をお守り下さいませ!」
芝居がかった風にジャスティンを頼ってみる。
ジャスティンはぐっと拳を握り、「わかった」と真剣な顔つきになった。
私はじっと見惚れてしまった。
あんなカッコいい表情をされたら、うっかり惚れてしまいそうだ。
「防御」
キィンと私の周りを透明な壁が覆う。
でもこの防御魔法は弱い。
これではお兄様の攻撃は弾けない。
「じゃあいきますよ」
ぴんっと指を弾いたお兄様の攻撃魔法はあっという間にジャスティンが展開した防御壁を破った。
パン!と音がして、私は無防備になる。
「あっ…!防御!」
キィンとまた壁が出来たが、これも弱い。
ムラがあるというか、均等になっていないというか。
すぐにお兄様の攻撃に破られてしまう。
数十回と繰り返し、とうとうジャスティンが座り込んでしまった。
「殿下、防御のイメージはちゃんと出来てますか?」
「イメージ…」
「俺がミリオネアを守るなら、ミリオネアのどこにも傷を付けたくない。だから、全部丸ごと防御します。でも殿下はそうじゃない」
「俺も、聖女殿の全体を覆うつもりでいるが…」
ジャスティンは困惑した表情を見せる。
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