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翌朝、久しぶりに私達は共に学園に向かった。
馬車の中で、東の小国から留学してきた生徒がいて、巫女という特殊な立場の人だからと生徒会長のジャスティンがお世話を頼まれたと聞いた。
「…お世話ねぇ…」
「あくまでも日常に慣れるまでだ」
「まぁ生徒会長ですものね、断れないわよね…」
「そうだな。だから一緒にいるのを見かける事もあると思う」
「ふぅん…。仕方ないわよね。もしそれがきっかけで恋が生まれたら隠さずに教えてね?」
「生まれない」
きっぱりと言い切るジャスティンは素敵だと思うけれど、これが逆だったら何て言うのかしらね。
「もし私が見て親密そうに見えたら、荷物を纏めて実家に帰るからね?」
「そんな事はさせない」
「あら、知らないうちにするに決まってるじゃない。それに、他国に嫁いでやるんだから」
「…絶対にやめろ」
一気に低くなった声に臆するとでも思ってるのかしら。
自分だっていつも疑ってばっかりのくせに。
「なら私に勘違いさせない事だわ。ジャスティンだっていつもぶつぶつ言ってるじゃない?」
「わかった。絶対にそんな事はないが、気を付けておこう。ミリオネアも、監視の為に常に側にいろよ?」
「そうねぇ」
クスクスと笑う私と反して、ジャスティンはにこりともしない。
そりゃそうだろう、今、彼は初めて疑いを掛けられているのだから。
前はただ感情を押し殺すだけだったけれど、今回はきちんと態度に出すわ。
だって、その方がお互いにスッキリするでしょうから。
とはいえ、ジャスティンがその方に心を移す事があるなら、さっき言った通り違う人に嫁いでやるんだから。
ジャスティンにその気はなくとも、アイラみたいな女はゴロゴロしているのだから。
「とりあえず、同じ学年だからミリオネアにも紹介する」
「えぇ、わかったわ」
ジャスティンはぎゅっと私の手を握ったまま、窓の外を見ている。
この人の脳と、私の脳を一日取り替える事ができたら、ジャスティンの嫉妬も無くなるのかしら。
そして、私もずっと引きずっているあのどす黒く忌まわしい感情を消し去る事が出来るのかしら。
「ミリオネア、行こう」
「はい」
私はジャスティンと手を繋いで、久しぶりに来た学園の門を潜った。
「カタギリ嬢、昨日お話しした、私の婚約者で聖女である、ミリオネア・ハーヴェストだ。以後宜しく頼む」
「初めまして、カタギリ様。ミリオネア・ハーヴェストです。宜しくお願い致します」
ランチを取りに食堂に来たら、髪色が白で瞳が金色な特徴的な色を持った色白の女性が、私の前に立っている。
さっきジャスティンが言っていた留学生だ。
私は対外用の笑顔で挨拶をした。
「あぁ!ジャスティン殿下が言っていた…。初めまして、東の小国ジャーポから来ました、マナカ・カタギリです。どうぞよろしくお願いします」
にこにこと人好きのする笑顔を向けられ、聞いた事のない国…ジャーポから来たという彼女は清々しい空気を纏っている。
仄暗い感じは微塵もなかった。
ただ…。
「わからない事や困った事があれば、私もお手伝い出来ますので仰って下さい」
「ありがとうございます」
そうだ、至って普通なのだ。
ただ、何かがおかしい…何だろうか…。
そう思ったが、私の目に飛び込んで来たのは真っ白の犬のような人形で。
それは彼女の制服の胸ポケットに姿勢よく収まっていた。
じっと見過ぎたのか、カタギリ様はふふ…と笑って「これは、御守りなんです…」と言った。
「まぁ、そうなんですね!とても可愛らしいわ!御守りは常に身に着けたいですよね!」
「うふふ…この御守りがないと、外にも出られません」
「お気持ちはわかりますわ!私も御守りは肌身離さずつけておきたいですから」
そう、私の首にはいつもあのネックレスが掛かっている。
パーティーなどの時以外は必ず着けているので、ないと逆に気持ちが悪い。
ジャスティンもご機嫌だし。
「私達気が合いますね!!」
「ふふ…カタギリ様とお友達になれそうで嬉しいわ!」
私達はきゃっきゃとはしゃいでランチを取ることにした。
ジャスティンは基本的に外では余り話さないので、私とカタギリ様がずっと話をしている。
時折、ジャスティンに話を振ると彼も会話に入るのだが。
「私、この国の男性ってもっと陽気かと思っていたの」
「陽気な方もいらっしゃいますよ?ただ、殿下は無口な方なので参考にはなりませんが…」
「未だに笑った顔を見た事がないの。もう三日もランチをご一緒しているというのに」
「まぁ…そうなんですね」
ランチを三日も一緒に…ねぇ?
私がしたら怒るヤツよねぇ…?
自分はいいのね?ふぅーん。
「でもハーヴェスト様と一緒にいると、幾らか表情が柔らかくなりますね。やはりおニ人は噂通り仲睦まじいのね!」
「う、噂で…?は、恥ずかしいですわ…」
かぁっと赤くなってしまった。
不意打ちに弱い私…。
ダメね、王太子妃としては。
「こんな美人が隣にいればジャスティン殿下も嬉しいですよね!」
「…まぁな」
「まっ!惚気ですか?ジャスティン殿下ったら!」
うふふ、と笑うカタギリ様はかなり人懐っこい性格なんだな、と感じた。
ジャスティンの無表情にこんなに話しかけられる人はそういない。
ジャスティンも短いけどちゃんと返事をしているし。
いつもなら無言か睨むかどっちかだものね。
意外に仲がいいと見える…。
「あっ!そうだわ!私、図書室に行かなければ!ハーヴェスト様、また一緒にランチして下さいね!」
「はい、もちろん!」
「ありがとうございます。では、私はこれで…」
カタギリ様が席を立った時、ジャスティンも席を立つ。
どこに行くのかと思って見上げたら、「図書室の場所、知らないだろう。案内するから一緒に行こう」と優しく言っていた。
「あら、ハーヴェスト様に申し訳ないわ」
「ミリオネア、悪いが先に戻っていてくれ」
「あ、はい。わかりました」
「すみません、ハーヴェスト様」
そう告げると謝るカタギリ様と、無表情のジャスティンは図書室に行ってしまった。
ぽつんと残された私は、残りのランチを食べて一人で教室に帰るが胸の内側がもやもやする。
「言ってくれれば一緒に行くのに…」
ムッとする自分に、あれは生徒会長の仕事だから仕方ないと言い聞かせる。
慰めかのようにシャランとネックレスが鳴って、少しだけ癒された。
それでも、勘違いさせないようにすると言っていたのにわざわざ私の目の前で行かなくても!!
きっとジャスティンは何も思ってないのよね、仕事だと割り切ってるだろうから。
でもなぁ…とモヤついていたら、教室にジャスティンが既にいた。
「…遅かったな」
「…そう?」
「…顔がムッとしているが」
「そんな事ないわよ」
「さっきのはただの仕事だ」
「わかってるわ」
「ならいいが…」
わかってるわよ、そんな事。
いつもあなたが抱いている気持ちはこういう小さなイラつきなのかしら。
それが溜まれば…いつか爆発して。
人はとんでもない考えに走るのね。
「………」
…確かに嫌な感覚ね。
ロイ兄様と私を見る時はこんな気持ちだった?
うーん…異性との距離は取っているつもりだけれど…。
窓際の一番後ろの私の席は、日当たりがよく学園の庭園が見渡せる絶景ポイントだ。
授業中、ぼうっとしたい時はここから庭園を見渡している。
今日もいい天気だなぁ…。
「ミリオネア?」
「は、え?」
「…どうした?」
「どうもしないわ」
「まだ拗ねてるのか?」
「…あれは仕事なんでしょ?」
「そうだ」
「なら何度も思い出させないで」
「ふっ…わかった…」
私のムッとした顔を見て笑うって、失礼だと怒るべきか、可愛いと撫でるべきか迷うわね。
妬かれてるのが嬉しいんでしょうね、きっと。
前の私なら強がって笑顔を張り付けていたでしょうから。
「…今回も浮気したら許さないんだから…」
誰にも聞かれないように小さく小さく呟く。
そろりと隣のジャスティンに目を向けると、安定の無表情だけれど。
いつもと違うと思ってしまうのは私だけかしら?
気のせいならいいのだけど。
そんな漠然とした気付きが形を成してきたのはそれから半月程が経過した頃だった。
ジャスティンの様子がおかしい。
二人でいる時に触れてこなくなり、あんなに一緒に寝たがっていたのに今では夜に書類仕事をする始末だ。
「…また…なのかしら」
また、と思うのは、学園で私との時間が減るのに比例して、ジャスティンとカタギリ様が一緒にいる時間が増えている事。
周りがそわそわとそれに反応するくらいだ、もうこれは確定してもいいのだろう。
ジャスティンは、私を避けている。
いや、私に触れるのを避けている…のか。
学園に向かう馬車などは変わらず一緒だし、ランチなども回数は減っても共に取る事もある。
だがしかし、だ。
カタギリ様が割と高い確率で、彼の側にいる事が多くなったのは明らかで。
たまたま見かけた二人の距離感は近くはないけれども過ごす時間は多い。
蘇るあの陰鬱な記憶が私を蝕んでいく感覚に身震いがした。
「……魂に刻まれた浮気癖でもあるのかしら…」
生徒会長としての仕事だと言われてしまえば、反論は出来ないし、決定打はない。
けれども、私はこれが入り口に思えてならない。
過去と比べるのは馬鹿らしい事だと思うけれど。
今回は前とは違うはずなのに。
そうならないように努力したのに。
「…結局そうなる運命なのかしらね…」
ジャスティンが部屋に帰ってくるのはいつも夜中。
だから、私は自分の部屋で過ごしているのだが、今日はジャスティンの部屋のベッドで寝たふりをしていた。
彼が、どう出るのかを見たかったからだ。
散々試されて来たのだ、一度やそこらは許してもらいたい。
「そろそろかしら…」
がちゃり、と隣の部屋のドアが開く。
ふぅ、と息を吐くのは間違いなく彼で。
湯浴みをする音が聞こえて、しばらく経つと寝室に歩いてくる足音がする。
ドキドキとうるさくなる鼓動に静かにしなさい!と言いたい気持ちをぐっと押し込めて。
これは酷くリスキーな賭けだ。
彼がそっとベッドに入れば勝ち、そうでなければ負け。
触れるのを避けるのは、生理的に嫌なんだろうから。
同じベッドで眠るのは無理だろう、彼の性格なら。
私は審判を受ける罪人のように、ぎゅっと目を閉じた。
馬車の中で、東の小国から留学してきた生徒がいて、巫女という特殊な立場の人だからと生徒会長のジャスティンがお世話を頼まれたと聞いた。
「…お世話ねぇ…」
「あくまでも日常に慣れるまでだ」
「まぁ生徒会長ですものね、断れないわよね…」
「そうだな。だから一緒にいるのを見かける事もあると思う」
「ふぅん…。仕方ないわよね。もしそれがきっかけで恋が生まれたら隠さずに教えてね?」
「生まれない」
きっぱりと言い切るジャスティンは素敵だと思うけれど、これが逆だったら何て言うのかしらね。
「もし私が見て親密そうに見えたら、荷物を纏めて実家に帰るからね?」
「そんな事はさせない」
「あら、知らないうちにするに決まってるじゃない。それに、他国に嫁いでやるんだから」
「…絶対にやめろ」
一気に低くなった声に臆するとでも思ってるのかしら。
自分だっていつも疑ってばっかりのくせに。
「なら私に勘違いさせない事だわ。ジャスティンだっていつもぶつぶつ言ってるじゃない?」
「わかった。絶対にそんな事はないが、気を付けておこう。ミリオネアも、監視の為に常に側にいろよ?」
「そうねぇ」
クスクスと笑う私と反して、ジャスティンはにこりともしない。
そりゃそうだろう、今、彼は初めて疑いを掛けられているのだから。
前はただ感情を押し殺すだけだったけれど、今回はきちんと態度に出すわ。
だって、その方がお互いにスッキリするでしょうから。
とはいえ、ジャスティンがその方に心を移す事があるなら、さっき言った通り違う人に嫁いでやるんだから。
ジャスティンにその気はなくとも、アイラみたいな女はゴロゴロしているのだから。
「とりあえず、同じ学年だからミリオネアにも紹介する」
「えぇ、わかったわ」
ジャスティンはぎゅっと私の手を握ったまま、窓の外を見ている。
この人の脳と、私の脳を一日取り替える事ができたら、ジャスティンの嫉妬も無くなるのかしら。
そして、私もずっと引きずっているあのどす黒く忌まわしい感情を消し去る事が出来るのかしら。
「ミリオネア、行こう」
「はい」
私はジャスティンと手を繋いで、久しぶりに来た学園の門を潜った。
「カタギリ嬢、昨日お話しした、私の婚約者で聖女である、ミリオネア・ハーヴェストだ。以後宜しく頼む」
「初めまして、カタギリ様。ミリオネア・ハーヴェストです。宜しくお願い致します」
ランチを取りに食堂に来たら、髪色が白で瞳が金色な特徴的な色を持った色白の女性が、私の前に立っている。
さっきジャスティンが言っていた留学生だ。
私は対外用の笑顔で挨拶をした。
「あぁ!ジャスティン殿下が言っていた…。初めまして、東の小国ジャーポから来ました、マナカ・カタギリです。どうぞよろしくお願いします」
にこにこと人好きのする笑顔を向けられ、聞いた事のない国…ジャーポから来たという彼女は清々しい空気を纏っている。
仄暗い感じは微塵もなかった。
ただ…。
「わからない事や困った事があれば、私もお手伝い出来ますので仰って下さい」
「ありがとうございます」
そうだ、至って普通なのだ。
ただ、何かがおかしい…何だろうか…。
そう思ったが、私の目に飛び込んで来たのは真っ白の犬のような人形で。
それは彼女の制服の胸ポケットに姿勢よく収まっていた。
じっと見過ぎたのか、カタギリ様はふふ…と笑って「これは、御守りなんです…」と言った。
「まぁ、そうなんですね!とても可愛らしいわ!御守りは常に身に着けたいですよね!」
「うふふ…この御守りがないと、外にも出られません」
「お気持ちはわかりますわ!私も御守りは肌身離さずつけておきたいですから」
そう、私の首にはいつもあのネックレスが掛かっている。
パーティーなどの時以外は必ず着けているので、ないと逆に気持ちが悪い。
ジャスティンもご機嫌だし。
「私達気が合いますね!!」
「ふふ…カタギリ様とお友達になれそうで嬉しいわ!」
私達はきゃっきゃとはしゃいでランチを取ることにした。
ジャスティンは基本的に外では余り話さないので、私とカタギリ様がずっと話をしている。
時折、ジャスティンに話を振ると彼も会話に入るのだが。
「私、この国の男性ってもっと陽気かと思っていたの」
「陽気な方もいらっしゃいますよ?ただ、殿下は無口な方なので参考にはなりませんが…」
「未だに笑った顔を見た事がないの。もう三日もランチをご一緒しているというのに」
「まぁ…そうなんですね」
ランチを三日も一緒に…ねぇ?
私がしたら怒るヤツよねぇ…?
自分はいいのね?ふぅーん。
「でもハーヴェスト様と一緒にいると、幾らか表情が柔らかくなりますね。やはりおニ人は噂通り仲睦まじいのね!」
「う、噂で…?は、恥ずかしいですわ…」
かぁっと赤くなってしまった。
不意打ちに弱い私…。
ダメね、王太子妃としては。
「こんな美人が隣にいればジャスティン殿下も嬉しいですよね!」
「…まぁな」
「まっ!惚気ですか?ジャスティン殿下ったら!」
うふふ、と笑うカタギリ様はかなり人懐っこい性格なんだな、と感じた。
ジャスティンの無表情にこんなに話しかけられる人はそういない。
ジャスティンも短いけどちゃんと返事をしているし。
いつもなら無言か睨むかどっちかだものね。
意外に仲がいいと見える…。
「あっ!そうだわ!私、図書室に行かなければ!ハーヴェスト様、また一緒にランチして下さいね!」
「はい、もちろん!」
「ありがとうございます。では、私はこれで…」
カタギリ様が席を立った時、ジャスティンも席を立つ。
どこに行くのかと思って見上げたら、「図書室の場所、知らないだろう。案内するから一緒に行こう」と優しく言っていた。
「あら、ハーヴェスト様に申し訳ないわ」
「ミリオネア、悪いが先に戻っていてくれ」
「あ、はい。わかりました」
「すみません、ハーヴェスト様」
そう告げると謝るカタギリ様と、無表情のジャスティンは図書室に行ってしまった。
ぽつんと残された私は、残りのランチを食べて一人で教室に帰るが胸の内側がもやもやする。
「言ってくれれば一緒に行くのに…」
ムッとする自分に、あれは生徒会長の仕事だから仕方ないと言い聞かせる。
慰めかのようにシャランとネックレスが鳴って、少しだけ癒された。
それでも、勘違いさせないようにすると言っていたのにわざわざ私の目の前で行かなくても!!
きっとジャスティンは何も思ってないのよね、仕事だと割り切ってるだろうから。
でもなぁ…とモヤついていたら、教室にジャスティンが既にいた。
「…遅かったな」
「…そう?」
「…顔がムッとしているが」
「そんな事ないわよ」
「さっきのはただの仕事だ」
「わかってるわ」
「ならいいが…」
わかってるわよ、そんな事。
いつもあなたが抱いている気持ちはこういう小さなイラつきなのかしら。
それが溜まれば…いつか爆発して。
人はとんでもない考えに走るのね。
「………」
…確かに嫌な感覚ね。
ロイ兄様と私を見る時はこんな気持ちだった?
うーん…異性との距離は取っているつもりだけれど…。
窓際の一番後ろの私の席は、日当たりがよく学園の庭園が見渡せる絶景ポイントだ。
授業中、ぼうっとしたい時はここから庭園を見渡している。
今日もいい天気だなぁ…。
「ミリオネア?」
「は、え?」
「…どうした?」
「どうもしないわ」
「まだ拗ねてるのか?」
「…あれは仕事なんでしょ?」
「そうだ」
「なら何度も思い出させないで」
「ふっ…わかった…」
私のムッとした顔を見て笑うって、失礼だと怒るべきか、可愛いと撫でるべきか迷うわね。
妬かれてるのが嬉しいんでしょうね、きっと。
前の私なら強がって笑顔を張り付けていたでしょうから。
「…今回も浮気したら許さないんだから…」
誰にも聞かれないように小さく小さく呟く。
そろりと隣のジャスティンに目を向けると、安定の無表情だけれど。
いつもと違うと思ってしまうのは私だけかしら?
気のせいならいいのだけど。
そんな漠然とした気付きが形を成してきたのはそれから半月程が経過した頃だった。
ジャスティンの様子がおかしい。
二人でいる時に触れてこなくなり、あんなに一緒に寝たがっていたのに今では夜に書類仕事をする始末だ。
「…また…なのかしら」
また、と思うのは、学園で私との時間が減るのに比例して、ジャスティンとカタギリ様が一緒にいる時間が増えている事。
周りがそわそわとそれに反応するくらいだ、もうこれは確定してもいいのだろう。
ジャスティンは、私を避けている。
いや、私に触れるのを避けている…のか。
学園に向かう馬車などは変わらず一緒だし、ランチなども回数は減っても共に取る事もある。
だがしかし、だ。
カタギリ様が割と高い確率で、彼の側にいる事が多くなったのは明らかで。
たまたま見かけた二人の距離感は近くはないけれども過ごす時間は多い。
蘇るあの陰鬱な記憶が私を蝕んでいく感覚に身震いがした。
「……魂に刻まれた浮気癖でもあるのかしら…」
生徒会長としての仕事だと言われてしまえば、反論は出来ないし、決定打はない。
けれども、私はこれが入り口に思えてならない。
過去と比べるのは馬鹿らしい事だと思うけれど。
今回は前とは違うはずなのに。
そうならないように努力したのに。
「…結局そうなる運命なのかしらね…」
ジャスティンが部屋に帰ってくるのはいつも夜中。
だから、私は自分の部屋で過ごしているのだが、今日はジャスティンの部屋のベッドで寝たふりをしていた。
彼が、どう出るのかを見たかったからだ。
散々試されて来たのだ、一度やそこらは許してもらいたい。
「そろそろかしら…」
がちゃり、と隣の部屋のドアが開く。
ふぅ、と息を吐くのは間違いなく彼で。
湯浴みをする音が聞こえて、しばらく経つと寝室に歩いてくる足音がする。
ドキドキとうるさくなる鼓動に静かにしなさい!と言いたい気持ちをぐっと押し込めて。
これは酷くリスキーな賭けだ。
彼がそっとベッドに入れば勝ち、そうでなければ負け。
触れるのを避けるのは、生理的に嫌なんだろうから。
同じベッドで眠るのは無理だろう、彼の性格なら。
私は審判を受ける罪人のように、ぎゅっと目を閉じた。
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