死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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実家に帰って二週間、只今絶賛冷戦中。
学園に行けば隣の席に位置する彼は、話したそうな素振りを見せるもののあと一歩が出ない。
花束や手紙なども届くが、中身を読んでも体調ばかり気遣われて肝心な事が書かれていない。
ジャスティンの残念なところと言えば、女心がわからない所かしら?
側にいろと多少強引にでも連れて帰れば、こちらも折れ所があるというものだけれど。
やはり、私に対して怯えのような、遠慮のようなものが感じられて。
私も私でジャスティンがいない事が当たり前のように感じて来た頃。


「殿下とミリオネア様は近々婚約破棄されるそうだ」という噂がまことしやかに広まっていく。
そうなれば次に話題に上がるのは、ジャスティンとカタギリ様の熱愛なわけで。
相変わらず昼休みにはランチを共にしている彼らは、周囲の人達の目など気にしてはいないみたいだ。
鋼の心臓でも持っているのかしら?と思ってしまう。
その鋼、半分私にくださいな、とも。
とはいえ、あれから婚約破棄などの話にもなるわけもなく、ただ毎日をすれ違ったまま過ごしているのだが。


「ミリオネア様、本日放課後に街に行きませんか?」
「まぁ、楽しそうね!行きましょう!」


最近出来たお友達のユーリス・シグナッド侯爵令嬢がお出かけに誘ってくれた。
彼女はなんと、ロイ兄様とお付き合いをしている。
あの時言っていた想い人は彼女だったわけだ。
ロイ兄様の真摯な告白に、二つ返事で交際を開始したとか。
ここだけの話、もうすぐ婚約するらしい。


「ケーキが美味しいお店があるんですけど、ロイド様は恥ずかしいと行ってくれないんです」
「まぁ!お尻を蹴り飛ばしてあげないといけませんわね」
「ふふっ…ミリオネア様ったら!!」
「あら、本当にしてもユーリス様なら許されますわ!」


クスクスと笑い合う。
ユーリス様との会話は楽しいし、なんせ可愛い。
ほわんとしていて、癒されるのだ。
こんな女の子になりたかった…!!!
やられたらやり返すとか言ってる時点で無理だが。
楽しい会話は時間が経つのが早く、あっと言う間にお昼の休憩は終わってしまう。
教室に帰れば見慣れた金髪の彼はすでに着席していて。
ふいにぱちりと目が合った。


「……」


久しぶりにちゃんと見る濃紺色は何故か燻んで見える。
どことなく表情に活気もない。
まぁ、安定の無表情だけど。


「…ミリオネア…あの…」


ジャスティンがぽそりと言い掛けた時、タイミング悪く鐘が鳴って先生が入ってくる。
どこまでも残念な彼に最早同情すら覚えた。
話し掛けて来たということは、理由を話す気になったのか。
なったらなったでさっさと言えばいいのに。
チラリと横目で見ても、真面目に授業を受ける姿が目に入るだけ。
熱視線を送りすぎたのか、ふとジャスティンがこちらを向く。


「……」


じっと顔を見られた後、サラサラと何かをノートに書きその部分を破ってそっと机に置かれた。


″放課後、話がある″


簡潔にそう書かれた文字が懐かしくなるが、生憎放課後はユーリス様とデートだ。
ほんっと、残念。
私もサラサラとノートに返事を書いて、そっと机に置いた。


″生憎、デートがあるんで無理です″


ジャスティンはそれを読んだ後、ギッと音がつきそうなほどに私を睨んだ。
彼の前に座っている人はさぞかし背中が寒かろう。
しかし、睨まれる謂れはないわけで。
あなただって、毎日カタギリ様とランチデートしてるじゃないの。
立派な浮気よ。


「……」


ジャスティンはまた文字を書き、机に乗せる。


″誰とだ″


教える必要ってあるのかしら?
自分が公開デートしてるからって、私にまで求めないで欲しいわ。
私はその返事は返さずに、無視を決め込んだ。
今は授業中だもの、仕方ないわよね?


「…先生」


すっと、挙手をしたジャスティンに先生が授業を止める。


「どうされましたか?」
「すみませんが、公務があるので俺達はここで退席します」


へぇ?腹が立ち過ぎてどこかに行くのかしら?
ん?ちょっと待って?
今、この人俺って言った?
いやいや、ないない。
私に公務はない。


「ミリオネア、遅れるから行くぞ」
「は?え、あっ…!」


引っ張り立たされ、半ば無理矢理に連れていかれる。
待って待って!!
こんな時に強引さを出さなくてもいいのよ!?
さっさと教室を後にしたジャスティンは、ぐいぐいと腕を引っ張りながら人気のない廊下を足早に歩いていく。


「ちょ、ちょっと!どこに連れていく気よ!!離して!!」
「嫌だ」
「自分が避けといて都合のいい事言わないでよ!!」
「授業中だぞ、静かにしろ」
「だったら離せばいいでしょ!!」
「ちっ…」


舌打ちしたジャスティンに私の怒りは増すばかりで。
大体自分が悪いくせに!!と口を開こうと思ったら、足元に魔法陣が浮かび上がる。


「なっ…転移魔法!?」
「知ってるのか」


ふっと浮遊感を感じると、生徒会会長室にいた。


「いつの間に出来るようになったの!?」
「昨日」
「凄いね!私まだ出来ないのに!…あ」


余りの驚きに普通に会話してしまっていた。
そうだ、私は怒っていたんだった。


「で?誰とデートするんだ?」


ギラリと仄暗い光を放つ濃紺が、私を見据える。
背筋がヒヤリとするが、そっちがその気ならこちらだって負けはしない!


「あなたに言う必要はありません」


ぷいと顔を背ける。
何よ、こっちはユーリス様女の子とデートなのよ。
異性といちゃこらランチしてるあなたと一緒にしないで!


「誰だ、言え」
「嫌」
「どうしても言わないのか?」
「そうよ。堂々とランチデートしてる人にとやかく言う権利はないと思うけど」
「あれは仕事だ。前にも言っただろう!それに…」


仕事だ、と言えば許されるのか。
そう思った瞬間に、私の周りの温度が下がった。


「仕事…ねぇ?仕事だから毎日ランチしてるのね?一体何の話をしているのかしらね?」
「そ、それは…」
「私には言えない話なんでしょうね…?婚約者は避けておいて、違う女性とランチ…よく出来た浮気アピールね?それで?」
「彼女とはそんな関係じゃない」
「じゃあどんな関係なのかしら?前に私は言ったわよね?勘違いさせないようにしてって。どう見てもそんな関係に見えるんだけど?」
「違……ぁ…ミリオネア…お前…泣いて…」


ジャスティンの顔色が変わった。
真っ青というより、真っ白に。
私は両目からぼたぼたと水が落ちて来て、泣いていた。


「あ…」


手で頬を触ったら、やっぱり私は泣いていて。
今の今まで堰き止められていた物が崩壊したみたいに止まらなくなった。
暫く無言になったが、とうとう私の口が動き出す。


「ジャスティンはっ…な、何がっ…したいのっ…?わ、私っ…私だってっ…!私にだってっ…こ、心はっ…あっ…あるのよ!?」
「ごめ…ごめん…ミリオネア…俺は…」
「うっ…浮気…も…もうっ…見たくなっ…ひっく…うっ…」
「っ!!カタギリ嬢とは本当に何でもない。彼女は…」
「わっ…私が見ておかしいと…おかしいと思ったらもうそれは浮気なのよバカ!!」


ジャスティンの口から今は違う女性の名前を聞きたくないと強く思ったら、涙はぴたりと止まって一息に叫んだ。
ジャスティンは驚きに目を見開いたものの、じっと黙って聞いている。
酸素がなくなった肺に新たな酸素を送るべく、はぁはぁと息をつき、すぅっとまた吸い込む。


「自分はすぐに嫉妬するくせに、どうしてそれがわからないの?私がロイ兄様と毎日ランチした事ある?ジャスティンより多く時間を過ごしてるの?ねぇ?」
「いや……」
「挙句に私を避けるとか…何なの?婚約破棄したいならしたいと言えばいいじゃない。で?私にはデートは誰と行くんだと責めるの?責められるべきは自分でしょ?」
「そうだな…」


まるで魔法のようにさらさらと言葉が出てくる。
過去の思いも相俟って怒りはどんどん膨らんで。
勢いに任せて全て吐き出した。


「今も昔も見せつけるみたいに!!ずっと好きだと言ってるじゃない!!そんなに信じられないならもう他の人の所に行ってしまえ!!約束したって守らない嘘つきなんてこっちから願い下げよ!!!」


悲鳴みたいな叫びに、自分が一番驚いて、わかった。
ずっと言いたかったのは、辛かったのは。


″幸せの約束を壊された″事だったんだと。


「…今も…昔も…?ミリオネア…君は……君…覚えて…いる…のか…?」
「…君…?ジャスティン……あなた……記憶が……あるの…?」


呆然としたジャスティンは、真っ白な顔を強張らせた。
私はそれを見て、彼に前の記憶があるんだと知る。
女神様は、ジャスティンの記憶はないと言っていたけれど、何かの拍子に思い出してしまったのだろうか。


「…俺は…小さい頃からずっと夢を見ていたんだ。黒髪の女性が…口から血を吐いて…死ぬ夢を…」


ジャスティンはぽつりぽつりと夢の話を聞かせてくれた。
あまりに現実的に思えて怖かった事、初めて私を見た時驚いた事。
心配になって、アネシャ様の形見のネックレスを私に渡した事……その夢の女性が私だった事。
そして、つい最近、夢の男が過去にした恐ろしい事や、私にして来た事を見た、と。


「あまりにも酷い仕打ちに、目を逸らしたいのに逸らせなくて。ミリオネアの絶望した顔、泣きじゃくる姿…最期の瞬間まで…全てが繋がって…それをしたのが俺だって…わかってしまった」
「…そう…全部…見たのね…」
「俺は怖くなった。こんな俺が君に触れたら…また…君を泣かせて…傷付けて…殺してしまうんじゃないかと…俺は…俺が許せない…」


爪が食い込むほど握った拳を震わせて、ジャスティンはそう言った。
まさか、夢で見ていたなんて…私はジャスティンの悲痛な顔を見て居た堪れなくなる。
私が自ら命を絶ったせいで…ジャスティンも壊れてしまった。


「ごめんね…ジャスティン。私が…悪戯に死を選んでしまったから…」
「ミリオネアは悪くない。悪いのは俺だ。あんな…あんな事…」


絶望を見たというような、ごそりと何かが抜け落ちたみたいな顔をしたジャスティンは一瞬迷ったような素振りを見せて。
ぐっと唇を噛み締めた。
そして、ゆっくりと話を始めた。
私の、知らなかった過去の話を…。
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