死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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「確かに…沢山泣いたし、嫌な思いもしたわね。ロイ兄様もわざと第一部隊にしたみたいだし」
「…すまない…本当に…クズだ…俺」
「でも、今回は…私はあまり泣いていないし、ロイ兄様だって恋人が出来て幸せそうだから…」
「許して…くれるのか…」
「そうねぇ…完全に許すのは難しいから、これからネチネチ嫌味は言うかもね」
「嫌味くらい…言いたいだけ言ってくれ。償っても償いきれない…」


叱られた犬みたいにジャスティンが頭を垂れた。
これは策略なんだろうか?
抱き締めたくて堪らないわ。
そうよ、私は怒っていたのよ!!
でも、人間そんなに長くは怒れないのよねぇ…困ったことに。
考えてみたら、私は約8年で嫌だった事も辛かった事も女神様に手伝ってもらいながら消化したけれど。
ジャスティンはついこの間、自分のやらかしを走馬灯みたいに見たんだものね…。
そりゃあどうすれば良いかわからないわよね…。


「ジャスティン?」
「…ミリオネア…?」
「ほら、おいで?」
「…っ!!い、いいのか…こんな…クズが…触れても…」


腕を広げた私に、ジャスティンは戸惑いを隠せない。
きっとぐるぐると色んな思いが頭を駆け巡っているのだろう。
彼の葛藤が、出しては引く手に表れていた。


「過去は過去なのよ、ジャスティン」
「俺は…あの約束を果たす権利をまだ持ってるか…?」
「持ってるわ、浮気しなければ」
「絶対…しないっ!!ミリオネア以外要らない!!」


ぎゅうっと久しぶりに抱き締められて。
ジャスティンの香りが鼻を通る。
脳が揺れそうな錯覚に陥る。
私は…やっぱり、ジャスティンだけを愛している。


「ミリオネア…ミリオネア…愛してる…」


涙声のジャスティンはかなりレアだ。
過去では見た事がない。
いつも自信たっぷりで、最後には思い通りにしてしまう人。
今もそうではあるが、こんなに綺麗な涙を流せる人になり、それを私に見せてくれる人になった。
私もそうだけど、弱さを見せられる人を見つけるのは案外難しい。


「女神様に報告に行かなきゃね…」
「俺も行きたい…」
「喜びそうね」
「そうなのか…?」
「女神様はジャスティンの顔が大好物なの」
「……顔……」
「そう、この綺麗な顔よ」


私は両手で彼の頬を挟んで、至近距離で見つめた。
久しぶりにじっと見た綺麗な顔は、疲れた様子を見せているが、幾分と活気が出たように見える。
同時にじわじわと赤くなって来て、とうとうぷいと顔を背けた。


「あら、反抗的だわ」
「あんまり見るな…」
「泣いちゃったものねぇ?」
「仕方ないだろ…本当に…ミリオネアがいなくなったらって…」


私を抱き締める腕が震えている。
シャラン、とジャスティンを慰めるようにネックレスが鳴いた。


「ミリオネア…もう…離れてくれ…」
「どうして?」


懇願するように気弱な声でジャスティンが告げる。
まだ触れてはならないルールは適用されているのだろうか?
そんな自分ルールに私が従う義務はない。


「その…手を出してしまいそうだから…」
「……そういう所はあまり変わらないのね?」
「好きな女が腕にいたら…男はみんなそうなるんだよ」


ぐぅっと唸りながらジャスティンが我慢している。
犬に待て!を躾けているみたいな気になるわね。
でも私は意地悪だから、やめてはやらない。


「嫌よ。離れないわ。寂しかったのはあなただけじゃないのよ?」
「くっ…意地が悪いぞ…」
「そうよ?たっぷり仕返ししてやるんだから」
「…キスしたい…」
「学園だもの、ダメよ」


クスクスと笑いながらそう告げると、ふわりと抱き上げられてソファにどさりと下ろされて。
隣に座ったジャスティンにまた抱き締められて。


「…キスして…どろどろに溶かしたい…」
「ダメ」
「全身に俺の跡を残したい…」
「絶対ダメ」
「ミリオネアの胎内に入りたい…」
「もう…いやらしい事ばかりじゃない…」
「もうずっとそうしたいと思ってた」


ぎゅうぎゅうとしてくるけれど、手は出して来ないから言うだけ言って発散してるんだなと思うと笑ってしまう。
私はゆっくりとジャスティンの頭を撫でた。


「ミリオネア…デート…行くのか…?」
「そうね、約束してるから…」
「だ、誰か…聞いても…?」


ジャスティンの脳内では今、色んな男性がひょこひょこと出て来ているんだろうな…と笑いを堪える。
それにしても、ジャスティンはこんなにわかりやすい人だったかしら?
いつも無表情で何を考えてるのかわからない事も沢山あったけれど。
今は手に取るようにわかるわ。
顔に全部出るからかしら…?


「ユーリス様と、ケーキを食べに行くのよ」
「ユーリス…シグナッド侯爵家の…女性か…」


明らかにほっとしたジャスティンは、色んな事がダダ漏れ状態だ。
今ならカタギリ様の事も白状するかしら。
過去の事はもういいとしても、カタギリ様の事はまた別の話だ。


「ねぇ、ジャスティン。カタギリ様といつも何をしてたの?」
「…調べ物だ。口外は出来ないが」
「それでいつも一緒にいたの?」
「そうだ。誓って疾しい事はない。絶対に」
「ふぅん…」
「ミリオネアに勘違いをさせて…悪かった」
「女神様が呪いの類を使う人かもって言っていたから、心配してたの。変な物を掛けられてないかって」
「彼女は呪いなどは掛けないと思う」


はっきりと否定するジャスティンに、地味にイラッとするんだけど。
私は心配して…かなり心配してたのよ。
なのに夜も帰って来なくなっちゃうし…。
挙句に「彼女はそんなことしない」みたいな信頼は何処から生まれるわけ?
あれ?何か、私って損な役回りばっかりじゃない?
浮気を見せつけられて、自殺して、生き返って、また浮気の疑いとか。


「そう。心配するだけ無駄だったみたいね。じゃあもうずーっと調べ物でもしてなさいよ、とね!」
「え、ミリオネア?何で怒ってるんだ?」
「私はケーキ食べに行くから離してくれるかしら!?」
「待て、何でそんなに怒ってるんだ」


何もわかってないジャスティンに怒りをぶつけるのもバカバカしくて…自分が情けなくなって来た。
それに、勝手に心配してそれの対価みたいに行動の制限をするのも違う気もするけど。
でも…急速に信頼し合える関係性が私を不安にさせる。
じわり、と目に涙が浮かぶ。
ダメよ、こんな事くらいで。
自分だってロイ兄様の討伐の時は言えなかったじゃない。
ジャスティンだって同じよ、何か理由があるのよ。
必死で自分を諭して、顔を彼に見られたくなくて下を向く。
どこまでが浮気じゃなくて、どこからが浮気なのか。
もう良くわからない。


「ミリオネア…?なっ…泣いてるのか?」


気付けば静かに涙は溢れる。
必死で涙を抑え込んで、淑女を顔に張り付けた。


「…私を避けていた間に随分と信頼関係を築いたのね…」
「それは……」
「もう、いい。言えないならいいわ。もう二度と聞かない」


ふらりと立ち上がる私を慌てた様子で見る彼に、既存の愛はあるのかと。
問いたい気持ちを閉じ込めた。
前とは違う、わかっているけど。


何を言っても、きっと彼女との信頼の上に成り立った秘密の方が勝つのだろう。
君はここからは入れない、と線を引かれた気がして。
ひゅっと顔が強張った。


「ミリオネア!?待て!」
「……」


空気が変わったのを察知したのか、ジャスティンが焦っているけど、初手を間違えたのはあなたなの。
もう聞きたくない、と脳が拒否している。
思えばアイラの時もそんなだったな、と余計に惨めになって来て。
ジクジクと古傷が痛むみたいに、また心が凍りそうになった。
なんだ、全然完治してないじゃないと乾いた笑いが出る。


「ミリオネア!!」


ぐっと腕を引かれてバランスを崩し、ジャスティンの胸で受け止められても今は何も思えなくて。
ジャスティンもこんな仄暗い、陰湿な気持ちだったのかと今更にして理解した。
気持ちが疲れると身体にもダメージを喰らうのね。
どっと疲れた。


「ミリオネア、俺が愛してるのはミリオネアだけだから」
「私も…」
「え?」
「私も同じ事をしてやろうかしら。あなたは体感しないとわからないみたいだから」
「…ダメだ」
「いいえ、もう決めたわ。毎日その方とランチして、調べ物をするわ。ジャスティンが心配しても、彼はそんなことしないって彼を信じるわ。そして、私が何をしているかは、あなたには絶対に言わない。そして、あなただけを愛してると言えばいい」
「ミリオネア…お願いだから止めてくれ」


ジャスティンの濃紺が暗く濁る。
でも、私の気持ちもわかって欲しかった。
嫌な言い方になってしまったし、可愛い女の子でもないけれど。
傷付いているジャスティンにも可哀想だけれど。
気持ちを信じて貰えないのも、隠し事をされるのも、どちらも不安を煽るのだと知れば良い。


「じゃあ、私もう行くわ」
「ミリオネア…頼む…止めてくれ…」
「自分は良くて私はダメな理由がないでしょ?あなたがしているのはそういう事よ。話せない理由があるから、仕方ないんでしょうけど」
「…国家機密に該当する内容だ」
「…え?」
「だから、話せない。すまない、ミリオネア」


ジャスティンは真剣な眼差しを私に向ける。
国家機密では…確かに話せない。
カタギリ様は一体何者なんだろう。
そして何を調べているのか…。


「だから…止めてくれ、ミリオネア。俺が狂いそうだ」
「……そうね…それは言えないわね。ごめんなさい、ジャスティン」
「俺こそ、変に隠して悪かった…」


私の背中に回した腕に力が入る。
情けないなぁ…嫉妬して…不安になって問い詰めて。
私、何をしてるんだろう…。
はぁ…と思わず溜息を吐いてしまった。
ジャスティンが何とも言えない顔で私を見ている。


「じゃあ、私行くわね。調べ物、頑張って」
「…あぁ」


私はそのまま部屋を出た。
浅はかな自分が嫌になる。
ケーキを食べてちょっと気分を変えよう。
ユーリス様の元へと急いで向かった。
今は何も考えたくなかった。
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