死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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ジャスティンと私は呆然とベッドに座っていた。
震えるジャスティンの手をぎゅっと握って、ただ隣に居る。
何と声を掛けていいか、わからなかった。


「…母上は…俺なら超えられると思っていたんだな…」
「…そうね…母親が子に向ける絶大な信頼ね…」
「これは…信頼と言うよりも呪いだな…」
「信頼、よ。アネシャ様は幸せそうに笑っていたもの…」


アネシャ様がジャスティンに見た未来は黄金色だったのかも知れない。


「確かに…母上の未来予想は当たっていたけどな」
「乗り越えたものね、ジャスティンは」
「あぁ…そうだな…。今やっと越えられた。それに最愛も、もう見つけた」
「ふふ…アネシャ様の予想通りね」
「そうだな」


ジャスティンの声が明るくなった。
指輪は変わらずキラキラしていて、アネシャ様のようだ。
私達は目を見合わせて笑った。
初めての共同作業はやたらと重い物になったと冗談を言いながら。
そして、ジャスティンがそれからその話をする事はなくなった。
彼の纏う雰囲気が少し柔らかなものになったのは、気のせいではないだろう。


あれからジュエルの処罰が話し合われた。
たくさんの女性と関係していて、一人一人に無理矢理だったかどうかを調査していくとみんな自分からジュエルとの関係を望んだと言う事が判明した。
それでも人の模範となるべき王子がしていい事ではないと、王族から除籍するかと検討されていたがミランダ王女から婚姻を強く希望されており、それは国と国の縁談になる為、除籍は一旦保留となった。


悲しい事に生きる気力を無くしたジュエルは、何度も自ら命を断とうとしたが、ミランダ王女が面会をし、余りの腑抜け振りに怒り狂いジュエルに強烈な往復ビンタを食らわせたとか。
今まで自分を見て叱りつけてくれる人など居なかったジュエルは、それをきっかけにミランダ王女にベタ惚れしたらしく現在はミランダ王女をかなり大切にしているようだ。
たまにミランダ王女が「束縛が酷い」と私に愚痴るくらいには。
ジュエルは自分の行いを反省し、迷惑をかけた人達に真摯に謝罪をして回った。殺される事を覚悟で赴いたが、令嬢達が必死に親を説得したようで命は今も繋がっている。


陛下からマダガリス国王にジュエルの出生の秘密を正直に伝えた所、出来れば王族として籍を置いて欲しいが、ミランダが選んだならどちらでも良いと二つ返事で了承を得たようだ。マダガリス国王は、マナカ様の件をずっと後悔していてミランダ王女に好きな人が現れたらどんな人物でも受け入れると決めていたらしい。マナカ様とも和解したとミランダ王女が嬉しそうに笑っていた。


ジュエルとミランダ王女が学園を卒業したら、彼らはマダガリス国に出発する予定である。
私とミランダ王女様は仲良くなり、たまにランチも一緒に食べている。
となれば、ジャスティンとジュエルも隣にくっついているわけで、少しずつだが彼らも話をするようになっていた。


「お嬢様、準備が出来ました。会場へ参りましょう」


ダリの声に閉じていた目を開け、鏡の中の自分を見て驚いた。


「お嬢様、大変お綺麗です…!!」


感極まったダリが大粒の涙を溢して、満面の笑みを浮かべている。


「ダリ、ありがとう。ずっと、私を支えてくれて…」


純白のウェディングドレスに身を包み、私はダリに微笑んだ。
今日、私はジャスティンに嫁ぐ。
ここまで来るのに色々な事がありすぎて、言葉じゃとても語り尽くせないけれど。
彼女がいなきゃ、私は今ここにはいなかったかも知れない。


「お嬢様、私、私なんかに…ありがとうございます…」
「あら、これからも宜しくね?ついてきてくれて嬉しいわ!」
「当然です!お嬢様以外に仕えるのは嫌ですから!」


ぐっと拳を握ってダリが鼻息を荒くしているのをこれからも見られるのが嬉しい。


「さ、行きましょうお嬢様!でないと殿下に叱られてしまいます!」
「ふふ…そうね。転移魔法まで使われそうだわ」


あの事件があってから、ジャスティンは過剰なくらいに過保護になり、時間が許す限り私の側にいる。
王太子妃の執務室と自分の執務室を同じ部屋にする為に3つの部屋の壁をぶち抜いた時には開いた口が塞がらなかった。


「陛下に許可は貰っている」


キリッとした表情でそんな事を言われても、どうすればいいのか困るだけだ。
私が遠い目になったのは言うまでもない。
ジャスティンは、陛下にアネシャ様のネックレスと指輪の事を告げた。
陛下が指輪の映像を見ようとしたが、残念ながら一度きりの発動だったらしく、アネシャ様を見られなかった陛下はかなり落ち込んでいたが。


陛下とジャスティンの関係も良くなり、王妃様とも腹を割って話をし、王妃様に誠心誠意の謝罪を受けた事で関係性はかなり良くなった。
ちなみに、ヒルダンテ前侯爵は王太子殺害未遂を暴かれ処刑となった。
王妃様がヒルダンテ前侯爵を「人の苦しみを知れ」と冷たく突き放したらしい。
陛下も過去に処罰できずにいた歯がゆい思いを胸に、その恨みを晴らしたジャスティンに「ありがとう」と告げていた。
アネシャ様の指輪は、陛下がチェーンに通して肌身離さずに持っている。


王妃様の想い人は、侯爵家の執事だったらしく妻を娶る事なく生涯独身を貫いていたが陛下が王宮に呼び寄せ王妃様付きの執事に配置したらしい。
お互いに想い人を思いながら、国を守るんだと笑っていた。
二人に憂いは無いように見えて、私も嬉しかった。


「ミリオネア様、どうぞこちらへ」


神殿内に通され、女神様に祈りを捧げる為に祈祷室に入ると正装した花婿姿のジャスティンが待ちきれないとばかりにウロウロとしていたので笑ってしまう。


「お待たせ、ジャスティン」
「ミリオネア!待ちくたびれた!あぁ…綺麗だな…」


目を細め極上の微笑みを向けてくるこの顔面兵器に思わず見惚れてしまって。
私は真っ赤になるのを誤魔化すように「女神様に祈りを捧げるわよ!」とドレスが汚れないように用意された椅子に座り祈りを捧げる。
ジャスティンも同じく手を組んで祈りを捧げている。


ずっと女神様に会えていなかった私は、女神様に何かあったのではと不安になって式の前に祈りを捧げたいと時間を取ってもらった。
女神様にジャスティンと話をさせてあげたい、本当にありがとうございましたとお礼を言いたい。
そう願いながら祈る事数十秒。
部屋の空気が神聖な物に変わっていく。


「久しぶりね!ミリオネア!元気だった?」
「女神様、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「私?元気…ではなかったわね!創造神に閉じ込められていたのよ、時の神と一緒に」
「え!?」


突然喋り出した私にジャスティンがぎょっとしている。どうやら、女神様の声は聞こえていないらしい。


「今日は貴方達の結婚式だから、やっと出してくれたのよ。私に会いに来てくれてたんでしょう?ごめんね、不在で」
「いえ、でも…もう大丈夫なんですか?」
「ふふ…時を戻したのが創造神にバレて罰を受けてただけ。もう終わったわ」
「ば、罰!?」
「あはは!ジャスティンの顔が固まってるわ!彼にも私の声が聞こえるようにするわね」
「ふふふ…」


私はジャスティンに微笑みかける。
ジャスティンはキョロキョロと辺りを見回しているが、生憎女神様の姿は見えない。


「ジャスティン、私の愛しい子、聞こえるかしら?」
「っ!!?」
「あらぁ、びっくりする顔も可愛いわね!」
「め、女神…様…?」


確かめるみたいにジャスティンが問えば、女神様から明るい声が返される。


「…昔から、今まで…本当にありがとうございました…。俺にミリオネアを返して下さり、感謝しかありません」


深々と祭壇に向かってジャスティンは頭を下げる。
真剣な眼差しにどきりと心臓が跳ねた。
もうこんなの反則だわ。
ドキドキが止まらない。


「私は二人に幸せになってほしかっただけよ。今、それを掴み取ったのは貴方達の力よ。結婚おめでとう。私から最大の祝福を送るわね」
「女神様、ありがとうございます。私、ジャスティンを諦めなくて良かったです」
「ミリオネアは素直になったわねぇ。嬉しいわ…」


私達は女神様に感謝を述べて、式場へ移動した。
女神様が誓いのキスを楽しみにしてるわと言うので、顔から火が出るかと思ったが。
ジャスティンは頬が緩んで、大変だらしない事になっている。


「ミリオネア、俺を選んでくれて…出会ってくれてありがとう」
「ふふ…私を惚れさせてくれてありがとう。もう頼まれても離れてやらないわ」
「離すわけがない」


神官に扉の前まで案内されて、私達は息を呑む。
扉が開き、同時に一歩を踏み出して。


夢物語のような約束を守るために全てを懸けた。
途中で枯れた芽は諦めずに息を吹き返し、今は蕾をつけている。


「生涯ミリオネアだけを愛すると、女神様に誓います」
「生涯ジャスティンだけを愛すると、女神様に誓います」


神秘的な祭壇の前で、過去の二人の誓い約束は形になり、現在の私達を創り上げ、さらに未来へ繋ぐ。


そして今日という日もまた、未来への一部になりやがて一つの愛になるのだろう。

神聖な空気の中、女神様へ捧げる祈りキスを以て誓約は結ばれた。
柔らかな黄金の光が二人に注がれ、女神様のサプライズなのか薄ピンク色の花びらが舞う。


「これにより、女神様の承認を得ました!ジャスティン王太子殿下、ミリオネア王太子妃殿下、おめでとうございます!!」


ヴェーレイ様の威厳ある声が聖堂に響き、わぁっと歓声が上がり盛大な拍手に包まれた。


強く繋がれた手を離す事が二度とないように、私達は微笑みあってもう一度キスをする。


キラキラと舞う黄金色の光が女神様にも、アネシャ様にも思えて嬉しかった。
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