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出会い
寄り道
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「怒ってる?」
お待たせと言ったあと、特に罪悪感を感じていない目の前の女はそう続けた。
俺はその言葉に対し、なるべく平静を装って
「何かトラブルでもあったの?」と訊き返した。
何回か目を瞬かせた女はうーんと少し考え、
「なにも。ただ遅れただけ。」
と悪びれず答えた。
俺はその態度に少し怒りを覚えたが、怒ることが何故か恥ずかしく感じ、
「そうか。よかった。」
とだけ答えた。
女は再び「怒ってないの?」と訊いてきた。
俺は「怒ってないよ」と今度ははっきりと答え、女をじっと見つめた。
チャットの時からそうだが、この女の言動はいまいち理解できない。でも理解できないからこそ魅力的だと感じるのも事実で、女を非難する気にはならない。
とにかく女が次に何を語るのか、それだけが気になった。
「そっか。じゃあ適当に歩こうか。」
女はそう言うとくるっと振り返り、東口の方へ歩きはじめた。
「どこに行くか決めてるのか?」
「別に。適当に歩くだけ。行きたいところあるの?」
「いや、特には。」
「それならしばらくゆっくり歩こうよ。」
女は俺の方には顔を向けず、ただ前だけを見ている。あいかわらず何を考えているのか分からない。
永井も山本も何を考えているのか分からない時は多々あるが、どんな感情でいるのかはなんとなく分かる。何となく分かるからこそ2人とはそれなりに話せるのだが、この女との会話は自分の興味と相手の発言がかろうじて形をなしてるだけで、予想がつかない。
チャットではすぐに返信がこないため色々考えて消化できるのだが、対面でこの状況は会話下手な自分にとってはかなり気まずい。
気まずいのだが、自分から話しかけようにも何を話せばいいのか分からずたじろいでしまう。
あんなに楽しみにしていたのに、自分の対人能力のなさにただただ情けなさを感じ、すでに帰りたい気分になった。
馴染みのある横浜の街が心なしか今日は見知らぬ街に見え、喧騒がやけに耳を障り、自然豊かなところに住んでいるわけでもないのに都会の空気の汚さがひしひしと肌を刺激しているように感じた。
女に置いてかれないようについていく。そもそも俺は女のことを何て呼べば良いのか分からない。今まで工藤と思いながらチャットをしていたし、女に対し、名前で呼んだことがない。何もかも知らない女。俺はその女の左隣で歩きながらただただついていく。
小道をくねくねと歩いているためか、どこを歩いているのか正確な位置は分からないが、どうやらみなとみらいの方面に進んでいることが分かった。俺がいると認識しているのかいないのか、女はペースをアップダウンを繰り返し、歩いていた。ゴミが捨てられ汚れ果てた川や、人影の少ない小道、売り切れで明かりのついていない自動販売機などどちらかというと足早に過ぎ去る場所で速度を落とし、逆に人が多く若者が集う今時の店や、美味しそうな匂いのする飲食店、景色の綺麗な通りなど思わず歩みを止めてしまう場所は足早に通り過ぎて行った。
なんだか捻くれてるなと女の行動に対し感想を抱いた時女は口を開いた。
「ねぇ、本好きなんだっけ?」
女は今日初めて、自分に対し質問を投げかけた。
「うん。好きだよ。」
「そう。じゃあ本屋によりましょうか。」
そう言うと、女は速度を落とすことなく足早に歩くようになった。その速さは俺の普段の歩速だと追いつかないほどの速さだった。いまいち女の意図が分からないが、俺のために行動しようとしてくれることを思うとまあよかったのかなと思う。
「本好きなの?」
「そう言わなかったっけ?」
「うん……言ってたけど。でもあんた工藤じゃない…だろ?本好きなのも嘘だと…」
女は少し考える素ぶりをし、
「あぁ。うんまあそう思うのなら。」
と誤魔化すように言った。
本当は女が工藤であろうがなかろうが半ばどうでもいいと思っていたが、何故女が工藤だと偽ったのかが気になり、もやもやした気分でいた。
でも女にその理由をきくのは何故か野暮な気がした。
お待たせと言ったあと、特に罪悪感を感じていない目の前の女はそう続けた。
俺はその言葉に対し、なるべく平静を装って
「何かトラブルでもあったの?」と訊き返した。
何回か目を瞬かせた女はうーんと少し考え、
「なにも。ただ遅れただけ。」
と悪びれず答えた。
俺はその態度に少し怒りを覚えたが、怒ることが何故か恥ずかしく感じ、
「そうか。よかった。」
とだけ答えた。
女は再び「怒ってないの?」と訊いてきた。
俺は「怒ってないよ」と今度ははっきりと答え、女をじっと見つめた。
チャットの時からそうだが、この女の言動はいまいち理解できない。でも理解できないからこそ魅力的だと感じるのも事実で、女を非難する気にはならない。
とにかく女が次に何を語るのか、それだけが気になった。
「そっか。じゃあ適当に歩こうか。」
女はそう言うとくるっと振り返り、東口の方へ歩きはじめた。
「どこに行くか決めてるのか?」
「別に。適当に歩くだけ。行きたいところあるの?」
「いや、特には。」
「それならしばらくゆっくり歩こうよ。」
女は俺の方には顔を向けず、ただ前だけを見ている。あいかわらず何を考えているのか分からない。
永井も山本も何を考えているのか分からない時は多々あるが、どんな感情でいるのかはなんとなく分かる。何となく分かるからこそ2人とはそれなりに話せるのだが、この女との会話は自分の興味と相手の発言がかろうじて形をなしてるだけで、予想がつかない。
チャットではすぐに返信がこないため色々考えて消化できるのだが、対面でこの状況は会話下手な自分にとってはかなり気まずい。
気まずいのだが、自分から話しかけようにも何を話せばいいのか分からずたじろいでしまう。
あんなに楽しみにしていたのに、自分の対人能力のなさにただただ情けなさを感じ、すでに帰りたい気分になった。
馴染みのある横浜の街が心なしか今日は見知らぬ街に見え、喧騒がやけに耳を障り、自然豊かなところに住んでいるわけでもないのに都会の空気の汚さがひしひしと肌を刺激しているように感じた。
女に置いてかれないようについていく。そもそも俺は女のことを何て呼べば良いのか分からない。今まで工藤と思いながらチャットをしていたし、女に対し、名前で呼んだことがない。何もかも知らない女。俺はその女の左隣で歩きながらただただついていく。
小道をくねくねと歩いているためか、どこを歩いているのか正確な位置は分からないが、どうやらみなとみらいの方面に進んでいることが分かった。俺がいると認識しているのかいないのか、女はペースをアップダウンを繰り返し、歩いていた。ゴミが捨てられ汚れ果てた川や、人影の少ない小道、売り切れで明かりのついていない自動販売機などどちらかというと足早に過ぎ去る場所で速度を落とし、逆に人が多く若者が集う今時の店や、美味しそうな匂いのする飲食店、景色の綺麗な通りなど思わず歩みを止めてしまう場所は足早に通り過ぎて行った。
なんだか捻くれてるなと女の行動に対し感想を抱いた時女は口を開いた。
「ねぇ、本好きなんだっけ?」
女は今日初めて、自分に対し質問を投げかけた。
「うん。好きだよ。」
「そう。じゃあ本屋によりましょうか。」
そう言うと、女は速度を落とすことなく足早に歩くようになった。その速さは俺の普段の歩速だと追いつかないほどの速さだった。いまいち女の意図が分からないが、俺のために行動しようとしてくれることを思うとまあよかったのかなと思う。
「本好きなの?」
「そう言わなかったっけ?」
「うん……言ってたけど。でもあんた工藤じゃない…だろ?本好きなのも嘘だと…」
女は少し考える素ぶりをし、
「あぁ。うんまあそう思うのなら。」
と誤魔化すように言った。
本当は女が工藤であろうがなかろうが半ばどうでもいいと思っていたが、何故女が工藤だと偽ったのかが気になり、もやもやした気分でいた。
でも女にその理由をきくのは何故か野暮な気がした。
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