ウサカメ問答

文月みつか

文字の大きさ
1 / 1

ウサカメ問答

しおりを挟む
「君たちはどうしてそんなにのんびりしていられるんだ?」

 川辺で甲羅干ししていたカメに、ウサギは尋ねた。

「僕たちは長生きだからね。のんびりしているくらいが丁度いいのさ」

 カメは今にも眠りに落ちそうな調子で答えた。
 ウサギは多少、いらだった。

「それにしたって、永遠に生きてるわけじゃないだろう? 何か目標をもって常に邁進していたほうが、より充実した有意義な時間を過ごせると思わないか?」
「充実した時間ねぇ」

 川のせせらぎ、木々のささやき、あたたかな木漏れ日によってカメはうとうとしかけたが、やがて思い出したように話を続けた。

「こうやって日光浴しながら君とおしゃべりするのは、僕にとってすごく充実した時間だよ」

 ウサギは多少、いらだった。

「それもそうだが、もっとビシバシ議論を戦わせたほうがいいアイディアが生まれそうだと思わないか?」

 夢うつつのカメは、首をこっくりこっくりさせている。
 ウサギはいらだちを抑えるため、毛づくろいを始めた。

「うん。でも君と僕じゃ好みも得意分野も違いすぎるからね。例えば、僕らが山の麓から頂上まで競走したとして、君が途中で昼寝でもしないかぎり、僕に勝ち目はないと思うんだ」
「私はそんなヘマはしないよ」
「例えばの話だよ」

 カメは目をつむったまま答えた。

「だけどもし、一生かけて移動距離を競うとしたら、僕にも勝ち目はあると思うんだ。なにせ、長生きだからね」
「まったく現実味のない話だ」
「そうだねぇ」
「兎が月に住んでいるというのと同じくらい、現実味がない」
「竜宮城があるかないかというのと同じくらい、不毛な話だね」
「えっ、竜宮城ってないのか?」

 それについての回答をカメがゆっくりゆっくり考えていたとき、突如ズドドドッという地響きが聞こえたかと思うと、草影からイノシシが現れ、そのまま川に飛びこんだ。そしてしばし浅瀬でごろごろ転がったのち、「あーすっきりした」といってぶるぶる水けを振り払い、どこかへ行ってしまった。

 ウサギは間一髪逃げて無事だったが、カメのほうはそうはいかなかったらしい。泥沼のようになった川に甲羅がぷかぷか浮いているのを見つけたウサギは、こわごわ声をかけた。

「おい、大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫」

 にょきっと首と手足を出したカメは、泥水をかいて陸に上がった。

「せっかく甲羅干ししたのに台無しだね。同情するよ」

 ウサギが慰めると、カメは嬉しそうに答えた。

「いやあ、とっても有意義な一日だよ」

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

6回目のさようなら

音爽(ネソウ)
恋愛
恋人ごっこのその先は……

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

彼のいない夏

月樹《つき》
恋愛
幼い頃からの婚約者に婚約破棄を告げられたのは、沈丁花の花の咲く頃。 卒業パーティーの席で同じ年の義妹と婚約を結びなおすことを告げられた。 沈丁花の花の香りが好きだった彼。 沈丁花の花言葉のようにずっと一緒にいられると思っていた。 母が生まれた隣国に帰るように言われたけれど、例え一緒にいられなくても、私はあなたの国にいたかった。 だから王都から遠く離れた、海の見える教会に入ることに決めた。 あなたがいなくても、いつも一緒に海辺を散歩した夏はやって来る。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...