燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

文字の大きさ
20 / 82
第一章

夏と初めて

しおりを挟む
 ジワジワと蝉が鳴く。

 音楽室はしっかりとクーラーが効いているが、重い扉を開いた先にある廊下は地獄だ。

「あっついなぁ・・・・」

 学校は夏休み真っ盛りである。おまけにお盆で殆ど人がいなかった。そんな季節、紫音は学生ピアノコンクールの予選を全て通過したばかりであった。もちろん、本選に向けて日々レッスンであることには変わらない。しかし紫音は、このコンクールに出場するのは今年で最後だと決めていた。来年からは年齢制限を設けられていたため参加することが叶わなかった、日本で最も歴史と権威のあるピアノコンクールに出る予定だからだ。だからこそ、紫音の本選への想いは強かった。

 それでも、どうしても家のピアノの前にいると気分が滅入ってしまう時がある。そういう時は、学校の音楽室のピアノで練習をしていた。今日もそんな気分だった。

 一度止めて、昼食を食べようとラウンジへ向かうが、廊下の温度が高くだらだらと汗が流れ落ちる。

(こんなに設備投資しておいて廊下が暑くなることって予想できなかったのかね。)

紫音は心の中だけで悪態をついた。

◇◇◇

 ラウンジの扉を開けようとした時だった。
何処からか小さな悲鳴が聞こえたような気がした。

(面倒だな・・・・)

そう思ったものの、どうにも胸騒ぎが収まらない。声が何処から聞こえてくるのか耳を澄ます。


「・・・・め・・・・い・・だっ・・・・たす・・・・・・」

くらりと酩酊したように紫音の頭がまわる。この声、この香りを彼は充分すぎるほど知っていた。

「ラウンジの中だな。」

紫音はそう確信して扉を勢いよく開けた。


 そこにはアオがいた。しかし、明らかに様子がおかしい。上履きは遠くの方に見えた。制服のブレザーと靴下はぼろ雑巾のように無造作に転がっていて、ワイシャツはボタンが引きちぎられていた。

 そして、そんなアオの目の前に立つ用務員らしき男。紫音はその男を睨みつけた。

「てめえ、アオに何をした?」

「天才ピアニストの高槻くんじゃないか!ダメだよ、そんな言葉遣い。きみのキャリアに相応しくない。」

男は紫音の質問には答えなかった。

紫音はアオを見遣った。

 アオは前が開いたワイシャツを必死に引き寄せたまま、ラウンジの壁に背を預けて座り込んでいた。指先はかたかたと震え定まっていない。そして、荒い息を吐いては膝を僅かに擦り寄せていた。

 その足元に落ちている一本の注射器。

「っ・・・・!まさか!」

紫音はアオの元へと駆け寄り、注射器を手に取る。

「発情促進剤・・・・?何だよこれ!」

「あはははは。いつも図書室にいるアオくんが、夏休みは開室してないからってラウンジで勉強していることを知ってね。いつも番犬みたいにアオくんの傍にいるきみも居なかったし、お盆で先生も少ないからね。ヤるなら今しかないって思ったわけさ。」

男が嗤う。アオは可哀想なくらい震えていた。

「てめえ・・・・」

「でも、失敗。きみ今すごい威嚇のフェロモン出てるよ。流石に俺も勝てそうにない。」

その割に男は飄々としている。

「もう、ここには二度と来ないよ。アオくんにも手は出さない。というか、きみがいる限りは手を出せないかな。」

紫音は熱くなったアオの身体を抱きしめて、男を睨みあげる。

「こんなの、レイプじゃないか!」

「怖い怖い。まだ、未遂だよ。」

男はケラケラと笑ってラウンジから出ていった。


「くそっ、殺してやるっ・・・・!」

 紫音が叫ぶと腕の中にいるアオがぎゅっと背中に手をまわしてきた。

「し、しおん、しおん、し、おん」

「アオ!しっかりしろ!」

アオは力無く紫音の名前を呼び続けるだけだった。

◇◇◇

 紫音は意識を失くしてぐったりとしたアオを病院へと連れて行くことにした。こういう時に限って学校の保健医が会議で不在だったからだ。初めて学校からタクシーを呼ぶ。それも発情を起こしたオメガ専用のタクシーだ。
 紫音は始めこそアオのフェロモンにくらりとしたが、促進剤によって擬似的に作り出されたフェロモンの香りを嗅ぎ分けた途端、身体は驚くほど反応しなくなった。そのことに、心底ほっとしている自分がいた。

 結局、病院ではヒートは病気ではないと一蹴された。促進剤で強制的に陥った状態だと説明しても、ベータの医者は取り合うことなく二人を追い出したのだった。

 途方に暮れたまま病院を出ると、学校から病院まで送ってくれたタクシーの運転手が待ってくれていた。オメガ専用タクシーの運転手はベータが殆どであるが、彼は数少ないオメガの運転手だった。彼は二人の様子から全てを察していたようだった。

「タクシーもだけど、オメガ科の医者が患者と同じオメガじゃないっていうのは問題だよな。」

彼はそう言うと、閉じられたアオの瞳から流れ落ちる涙をタオルでそっと拭ってくれた。それから、「気休め程度だけど」と言って紫音にオメガ用の抑制剤を渡してくれた。

家へと向かうタクシーの中で、紫音はその抑制剤をアオの口へと押し込んだ。

 オメガへの差別をこんな風に目の当たりにする日が来るとは想像もしなかった。そして、これがアオの生きている日常だと思った途端、紫音は呼吸が止まりそうになった。

◇◇◇

 紫音は自室のベッドへとアオを寝かせた。幸い、息子に対して過干渉気味で口煩い両親は海外でのコンサートの為、昨日から一ヶ月間は帰ってこない。

 紫音は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し自室へと戻る。そして、アオをゆっくりと抱き起こした。

「アオ、水飲めそうか?」

抑制剤を飲ませてもアオの容態は変わらず、荒い呼吸を繰り返していた。

「・・・・ん、しおん、ぼく、しせつに、は、かえりたく、ない・・・・」

アオは紫音にしがみつくと嫌だ嫌だと首を振って酷く泣き始めた。

「アオ。大丈夫だ。施設には帰さない。おまえが落ち着くまでここにいろ。」

紫音はアオが落ち着くまで、繰り返しそう言い聞かせた。


 アオがゆっくりと水を嚥下していく。紫音はその姿に少しだけ安心した。それから、アオのスラックスに手を伸ばす。そこはアオの先走りと愛液でぐっしょり濡れていた。

「んっ・・・・あっ・・・・」

アオは小さく喘ぎ、ペットボトルから口を離した。

「これ、気持ち悪いよな。俺の貸すから脱ぐぞ。」

紫音はそう言うと、ベルトを外し下着ごとスラックスを脱がせた。

下半身が露わになり、先走りをだらだらと溢す小さなペニスをアオは紫音に見せないように慌てて手で隠した。

「あ、んぁっ・・・・」

しかし、それだけの刺激でアオは射精してしまった。真っ赤になって縮こまるアオの額にキスを落とす。

「いいよ、気にしなくて。おまえは悪くない。生理現象だ。」

「うぅ・・・・で、でも」

「そんなことより、その状態じゃまともに抜けないだろ。手伝ってやる。」

紫音は素早くアオの後孔に中指を入れた。

「ひっ・・・・き、きたないから、だめぇ」

アオはバタバタと暴れたが、その力は弱く、容易く押さえ込むことができた。

「汚くない。おまえのは汚くないよ。」

アオの耳元で囁く。そのままグチュグチュと指を抜き差しする。紫音の指先がアオのザラザラとした所を撫でた。

「あっ・・・・あ、ん、あっ」

アオの鳴き声が変わった。

「ここ、気持ちいのか?」

紫音はその場所をぐりぐりと押した。
恐らく前立腺だ。

「あぁっ、いやぁ、あ、あ、やだぁ、そこ、やだ」

アオの目から涙がぼろぼろと溢れる。

「いいから。全部出してしまえ。」

後ろは指で前立腺を強く押したまま、もう片方の手はアオのペニスを扱く。

「ひぃあぁぁああっ、ん、んぅ、あっ、ん」

アオはびくびくと痙攣して白濁を吐き出した。


そして、死んだように深い眠りに落ちていった。


次の日、アオはヒートになった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...