燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第四章

幼い日々

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 灯りを一切付けることのない、闇に包まれた寝室に耳を塞ぎたくなるような水音が響いている。

 どうして・・・・?どうしてこんなに重いの・・・・?

 御神の一件から、初めて来たヒートは今までに経験したことがないほどの酷く重いものだった。もう殆ど後孔が潤うことはないが、下腹部から頭の芯までぞわぞわと押し寄せてくる波は、精神までをも蝕んで来るような不気味なものだった。


 御神は、番を解消してくれなかった。


 嘉月は結局、孤独にヒートを耐えなければいけない日々が続くこととなった。青木に抱きしめられたあの日、拒絶反応が出なかったものだから、ヒートに入ってすぐに行きずりのアルファを呼んだ。
 結果、凄まじい拒絶反応が出てしまい、相手のアルファの前で酷く吐いてしまった。「チッ!番はいないって聞いていたぞ?!」アルファの男は、目の前でひたすら吐き続けるオメガに興も冷めたのか、ドタバタと出て行った。
 いつも嘉月を苦しめる要素にしかならない、番のためだけのフェロモンは、皮肉なことに今回も絶大な効果があったようだ。それからは夜な夜な一人で慰めては、朝には効きもしない抑制剤を気休めに飲む日々が続いた。

 ベッドの上に散乱するバイブやローターを、熱で震える指先で手繰り寄せては後孔に押し込む。後孔はそのままだと潤いが足りないせいで、引き攣った痛みを伴った。けれども、丹念に解す余裕もなかったので、おざなりにローションを詰め込んだ。そのせいで、玩具が動くたびにブチュブチュと卑猥な音が鳴る。

「・・・・フッ、うぅ」

 みじめで堪らない。こんな卑しい自分が、青木に刃物を振りかざすような真似をさせてしまった。どうしようもなくあの人の傍にいたいと高望みしてしまった過去の自分が、許せなかった。

 もう、二度とあなたの前に姿を現すことはしないから。あの日、あなたの名前を呼んだ想い出だけで、生きていくから。

(せ、かい・・・・せかい・・・・)

 それでも、ヒートの時だけ、心の中だけで、あなたの名前を呼ぶ弱い自分の我儘を許して。

 そうして嘉月は収まらない熱に魘されながら、意識を手放した。

◇◇◇

 物心がついた頃には、嘉月は全面白いタイル張りの部屋にいた。決まった時間に白衣を纏った男が来ては、嘉月に何種類かの薬剤を投与して無言で立ち去っていく。そんな日々の繰り返しであった。

 その薬剤が、オメガに対する様々な抑制剤であることを知ったのは、随分と後になってからだった。

 まだ第二次性徴期も迎えていない嘉月は、強制的に擬似的なヒートを起こされては、抑制剤を投与された。

「・・・・おかあさん、たすけて」

 誰もいない白い部屋の中で、嘉月は孤独と耐えきれない熱と闘いながら、効くかも分からない抑制剤の効用が出ることをひたすら待ち続けていた。

(にかいめに、うたれたやつは、きっと、このねつを、おさえてくれるよね・・・・?)

 シーツの中で身悶えながら、下腹部が汚れる感覚に吐き気をも催した。壁と同じ白い色で、スカート状になっているそれを捲り上げれば、透明な液体が性器から吐き出されていた。

 熱が引いたら、汚したシーツや衣服を扉の側に置かれたカゴの中に入れる。しかし、抑制剤が効かなかった場合は、機械的に嘉月へと薬剤を投与する男が着替えさせてくれた。その男は終始無言であったが、当時の嘉月には余りにも羞恥に満ちた行為であった。

「おかあさん・・・・おかあさん・・・・」

(俺は少しは役に立つオメガなのかな・・・・?)

 どんなに思っても、母が来ることは一度もなかった。父もまた同じであった。

「・・・・がんばるから、おとうさんとおかあさんのために、がんばるから・・・・」

 だから、だからどうか俺を捨てないで。

 独りにしないで。

 俺が、オメガであったことを喜んで。

◇◇◇

「ゴホッゴホッ・・・・」

 ハッと目が覚めた。かろうじて着ていたTシャツが、汗でべったりと肌に纏わりつく嫌な感覚に、段々と現実へと引き戻されていく。シーツは自身の体液で汚れ、あちらこちらに使用済みの玩具やローションのボトルも転がっていた。

(久しぶりに嫌な夢を見たな・・・・)

「さい、あく・・・・」

 散々泣いて喘いだせいで、声はガラガラに枯れていた。まだ、少しだけ倦怠感は残るが、なんとかヒートは脱せたようだった。けれども、心は虚しさばかりが募るだけ。

 幼少期から片っ端から「実験体」として抑制剤を投与され続けた嘉月の身体は、既に抑制剤への抗体をあらかた作ってしまっていた。だからこそ、未だに番持ちのオメガであることを除いても、抑制剤の効果を得られない体質へと、いつの間にか変化していた。

(子宮が無くなれば、ヒートも落ち着くかと思ったけど、そんなことはないんだな・・・・)

 ぼんやりとそんなことを考えながら、視界の隅へと入った時計へと目がいく。

「・・・・ってやばい!遅刻!」

 ベッド横にあるチェストの上の時計は、家を出る10分前の時間を指していた。引ったくるように汚れたシーツやタオルケットをまとめて、洗濯機に突っ込む。ヒート休暇明けは遅れを取り戻すためにもぎっちり仕事を入れてしまう。だから、洗ったシーツを外に干すことは叶わないだろうと思い、乾燥の予約まで入れる。それから最低限の支度を済ませて、嘉月は家を飛び出したのだった。

 シーツを引き剥がした際に床に散らばってしまった玩具は見なかったことにして、飛び起きる前に思い出した夢も見なかったことにして。


 そんな、いつも通りの最低なヒート休暇明けの昼休みに、透から一色家の夕飯に嘉月は招待された。

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