燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

文字の大きさ
70 / 82
第一章

シャツの下に秘め事 3

しおりを挟む
 入院生活一週間後にしんどかった熱も下がって、禁食期間も解けた。今朝は朝からお粥を出してもらえて、久しぶりの食事に透は少しはしゃいでしまった。

 朝食を食べ終えて少しした後に一色が来てくれた。相変わらず一色からは甘い匂いがして、それが透の心臓をドキドキさせるので困ってしまう。

 それから、一色は端的に言ってカッコいい。癖のないさらさらしている黒髪は特にセットされているわけではないけれど、その無造作な感じが逆にクールだ。切長の目は、流し目をよくする一色のためだけに作られているようだった。瞳の色もやや色素が薄い灰色で、肌も色白、どちらかというと繊細で女性的な要素が多い。しかし、180センチは有に超えてそうなスラリとした長身に、引き締まった筋肉がしっかりと付いている腕を見れば男らしさしか感じない。きっと白衣の下に隠れている身体も同じような造りになっているのだろう。極め付けは、あの心地よい低い声。

◇◇◇

「先生はアルファ?」

 無意識に訊ねていた。

「・・・・ああ」

訝しそうな表情を浮かべた一色を見て、透は挨拶もしないで入室早々に随分不躾なことを聞いてしまった、と後悔した。

「アルファは嫌いか?」

 けれども、一色もまた変な質問をしてきた。

 先生は僕の家庭事情は知らないはずだし、どういう意味なのだろうか。

「どういう意味?」

だから透は、そのまま聞いた。

「いや、他意はないんだ。ただ、オメガの君から第二性を訊ねられたから、何かそのアルファに対して思うことでもあるのかと。」

「てか、先生、僕がオメガだって知ってたんだ!」

「それは、医療行為をするにあたり必要な情報だったからな。健康保険証を見せてもらった。名前もその時に知ったんだよ。言うのが遅くなってすまない。」

 そういうことだったのか。

「別に気にしてないよ。」


「そうか。なら、俺がきみを番にしたいと言ったら?」

「へ・・・・?」

あまりに突然すぎる申し出に間抜けな声が出た。

「あの日、初めて会った時からきみに惹かれている。俺がどうしてきみを見つけられたか知っているか?俺はきみの香りを辿って、きみを見つけたんだ。」

「・・・・え、そんなのおかしいよ。だって、僕、まだ発情期の期間に入ってないし。アルファを誘うくらいのフェロモンが漏れてるなんて考えられない・・・・」

不安になって一色の顔を見上げると、彼も困った顔をしていた。

「俺もだ。ヒートでもないオメガの香りに誘われることなんて、今まで一度もなかった。」

「じゃあ、どういうこと?」

一色は透の頭をいつものようにぽんと撫でた。

「運命の番って知ってるか?」

「うんめい・・・・」

 そんなの御伽噺の世界の話かと思っていた。けれども、一色が真面目な顔をして言うものだから、透は本当にあるんじゃないかと思えてきた。

「きみから芍薬の香りがするんだ。それで、俺自身は正直よく分かっていないんだが、周りからよくおまえは芍薬の香りがするとは言われているんだ。」

「先生と僕は同じ花の香りってこと?」

「ああ、これも噂程度に過ぎないんだが、運命の番は同じ花の香りがするらしい。」

一色はもう困った顔をしていなかった。すごく穏やかな顔で笑って「それに」と付け加えた。

「そんな噂よりも、俺は俺自身の気持ちに素直でありたいんだ。俺はおまえがどうしようもなく愛おしいよ。初めて会った時から。」

 その言葉に、透はぽろぽろと泣いてしまった。

「そんなこと言ったら、僕だって、先生のことが好き。先生のために、いつも心臓が壊れちゃいそう。・・・・でも、僕は、怖いよ。」

一色は指先で透の涙を拭った。

「何が、怖い?」

「僕の両親は二人とも番に捨てられたオメガなの。母さんの暴力からずっと守ってくれた父さんは、三年前に番を解消された喪失感に勝てなくて自殺した。母さんは、それからもっと酷くて、僕に暴力を振るう。・・・・でも、僕は、両親を恨んでなんかいないよ。僕が恨んでるのは、二人を捨てたアルファ。」

「そうか」

「先生が僕のことを捨てないって約束してくれても、きっと僕は、どこかで信じきれなくて、怖くなる。・・・・それは、きっと、先生も傷つける。」

 透は、初めて自分の中に燻っていた不安を吐露した。シャツの下に隠した傷跡よりも隠し通していたかった不安だった。
 一色が優しく透を抱きしめた。甘い香り。きっとこれが芍薬の香りなのだろう。

「俺はおまえが好きだよ。おまえは俺が好きか?」

「好き、好きだよ。」

「なら、今はそれだけで充分だ。おまえが安心できる時まで俺は待つよ。でも、それまで恋人として傍にいてもいいか?」

一色は許しを乞うように透の肩に顔を埋めた。

「うん、傍にいて。僕の恋人になって。それで、僕を恋人にして。」

透も一色をぎゅっと抱きしめた。

「ああ、もちろんだ。」

一色はそう囁くと、甘いキスを透の唇に落とした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...